プレビュー 新国立劇場オペラ『シモン・ボッカネグラ』
2023年11月15日(水)〜26日(日)
新国立劇場オペラ『シモン・ボッカネグラ』
ヴェルディが描く男の一生
大河ドラマのような重厚で味わい深い作品
主人公は実在した、14世紀ジェノヴァ共和国の初代総督
新国立劇場のオペラ、2023/2024シーズン第2弾はヴェルディ作曲『シモン・ボッカネグラ』です。新国立劇場では新制作で初演です。
主人公は、14世紀ジェノヴァ共和国の初代総督を務めたシモン・ボッカネグラという男性です。ジェノヴァ共和国はヴェネツィアと並ぶ海洋国家、シモンは、元は私掠船(戦争状態にある国の政府から敵国の船を攻撃、積荷を略奪する許可を得た船のこと)に乗っていたいわば海賊です。
シモンは恋人マリア(貴族の娘:ソプラノ)との間に娘(アメーリア)が生まれても恋人の父親(ヤコポ・フィエスコ:バス)に結婚を反対され、別れさせられます。それから25年後、シモンは総督になり、娘とは親子の名乗りをあげることができます。共和国はずっと平民と貴族の対立が激しく、政敵の貴族(ガブリエーレ・アドルノ:テノール)は娘と恋仲です。シモンに結婚を反対した父親も再び登場。娘に恋した腹心の部下(パオロ・アルビアーニ:バス・バリトン)も娘と結婚したがるのですがシモンが反対したために翻り、シモンと敵対します。最後はパオロがシモンを薬殺してしまいます。
登場人物は6名のみ。シモンの恋人マリアは舞台に登場しませんのでソプラノは、一人のみ、6名の歌手によってシモンの生涯を繰り広げていきます。
シモンはバリトン、あとはバス、テノール、バス・バリトンと充実の男声が揃い、決して派手ではないのですが、説得力のある深淵な歌唱と演技でぐいぐいと引き込まれてしまいます。
娘との再会、恋人の父親との長い確執ののちの和解と幸せなシーンもありますが、政敵との対立、部下の反逆という政治家としての社会的立場は辛いことの連続で哀しみや苦悩がつきまといます。
果たしてシモンは幸せだったのだろうか……見終わったあと、だれもが考えさせられます。
ドラマ全体を通してヴェルディは美しく繊細な音楽で寄り添います。アリアがどうこう、というよりも、声楽も含まれる音楽作品として非常に美しく、聴き入ってしまいます。
男声を存分に楽しめる奥深い音楽
女性はソプラノ一人だけなので低音が続きますが、とても心地よいです。
有名なアリアとしては25年ぶりの再会を果たした父と娘による「みすぼらしい家で育てられたみなしごです」やマリアの父、アメーリアの祖父であるフィエスコとシモンが和解する「あなたの口から出る神の声に」などがあります。
この作品は声と演技で紡いでいく丁寧で丹念なドラづくりが特徴です。「通ごのみ」と言われる所以ですが、このようなオペラは一度入りこめれば深い感動が得られ心が震えます。
生きた物語をつくる豪華なキャスト
今回も素晴らしい歌手たちが揃っています。
アメーリア&マリア役はイリーナ・ルング(ソプラノ)。新国立劇場には2017年の『椿姫』でヴィオレッタ役、2021年『ルチア』のタイトルロールで出演しています。
ヤコポ・フィエスコ役はリッカルド・ザネッラート(バス)。新国立劇場では2019年オペラ夏の祭典『トゥーランドット』にてティムール役で出演しています。
ガブリエーレ・アドルノ役はルチアーノ・ガンチ(テノール)。新国立劇場初登場です。
パオロ・アルビアーニ役はシモーネ・アルべルギーニ(バス・バリトン)。新国立劇場には、2022年『ドン・ジョヴァンニ』のタイトルロールで出演しています。
そしてシモン・ボッカネグラ役はロベルト・フロンターリ(バリトン)。今年の5、6月に新国立劇場『リゴレット』でタイトルロールを歌い強烈な印象を残しました。同じ年に再び新国立劇場の舞台に立ち主役を歌ってくれるのは嬉しい限りです。
今回、主要キャストで初登場するのは一人きり。みな新国立劇場の舞台に慣れている選りすぐりのキャストです。舞台上の彼らにドラマを思う存分つくらせる指揮者は、芸術監督でもある大野和士。オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団です。
さらに演出はピエール・オーディが手がけます。エクサン・プロヴァンス音楽祭総監督であり、バロックから現代オペラ作品まで経験豊富で数々の賞を受賞している、現在、最も活躍している演出家のひとりです。オーディも新国立劇場に初めて登場します。
力の入った新制作、開演が楽しみです。
2023年11月15日(水)〜26日(日)
新国立劇場オペラ『シモン・ボッカネグラ』
会場:新国立劇場 オペラパレス
開演
11月15日(水)19:00
18日(土)14:00
21日(火)14:00
23日(木・祝)14:00
26日(日)14:00
チケット料金
29,700円〜1,650円
詳しくは:新国立劇場
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