インタビュー:ソプラニスタ木村優一#2ニューアルバムについて語る
待望のニューアルバム『あなたと明日をつなぐ花』を9月13日にリリースするソプラニスタ木村優一さん。今回のインタビューでは、このアルバムについて語っていただいています。
3枚目となる今作に収録されているのは8曲で、1曲1曲にたくさんの思いが込められています。どのような思いでこのアルバムを制作されたのか、お聞きしました。
ピアニスト、アレンジャー、作曲家として榊原大氏を迎え、プロデュースや音作りにも前2作をしのぐ、意欲的に取り組んだ全8曲のニューアルバムが完成しました。単なる収録曲の紹介には収まらない深い解説をしてくださっています。
アルバムのコンセプトとタイトルに込めた思い
―今作のアルバムコンセプトはどのようなものでしょうか。
「デビューアルバム『マイワールド』の第2弾ともいえる、木村優一の多面的な音楽の世界を盛り込んでいます。ピアニスト・アレンジャー・作曲家として榊原大さんを迎え、私と大さんのクラシカルクロスオーバーの世界が融合したアルバムです」
――アルバムタイトル『あなたと明日をつなぐ花』に込めた思いをお教えください。
「『あなたと明日をつなぐ花』は収録曲のひとつで、榊原大さん作曲、E-3(飯塚ヒロシさん)作詞の新曲です。悲しみ、苦しみ、例えば亡くなられた人を想う悲しみなどを癒し、前向きな気持ちになってほしい、という思いを込めた歌です」
――この曲がアルバムを代表しているということでしょうか。
「はい! この歌を聴いて少しでも前向きな気持ちになっていただけたら嬉しいです。この歌を、この花を受け取ってほしい! アルバムのジャケットにも花が散りばめられています」
今作のアルバムにはオリジナルの新作、「あなたと明日をつなぐ花」「面影は遠く」の2曲が収録されています。
――プロデュースやアレンジにはどのくらい関わられたのでしょうか。
「今回はいろいろな行程に私も加わり、榊原大さん含めスタッフのみなさんと話し合いながら進めていきました。選曲も随分話し合いました。
全曲アレンジは榊原大さんが担当してくださいましたが、とても細やかに連絡をくださり、大さんのお宅にもお邪魔して練習や打ち合わせをし、私の意見をとても尊重してくださいました。そして今回初めてトラックダウンの作業にも携わり、コンサートとは違う“形に残るもの”を作っていく喜び、苦しみも経験しました」
初の全曲生演奏ライヴ録りで生まれるグルーヴ感
――アルバム作りも3度目となりました。これまでのレコーディングと大きく異なるところはありましたか。どのようなサウンドを目指したのでしょうか。
「榊原大さんから、過去にリリースしたCDとは違うことをやった方が面白いのでは、と選曲の段階でアドバイスをもらいました。昨年のコンサートでも同じアドバイスをいただいたのですが、メジャー(長調)のゆったりとした曲に偏りがちだったので、マイナー(短調)、アップテンポ、そしてカバー曲でも男性が歌っている曲をカバーするなど、一枚のアルバムにも今までになく緩急がついた選曲になったと思います。
また今回は打ち込みのデータに録音した楽曲は1曲もなく、すべて生演奏。バンドの皆さんと同時に私も歌って録音したので、ライブ感あふれる演奏になりました。目指していたグルーヴ感が出たのではないかと思います」
アルバム最初に収録されている『BRAVA』は最もチャレンジングで攻めている!
――一番チャレンジングな曲はなにか教えていただけますか。また、どんなところがチャレンジングだったのでしょうか。
「一番は『BRAVA』です。私のレパートリーであるヘンデルやモーツァルトなどの作品には技巧的な歌があります。そこから発想を得て、例えば安田祥子さんと由紀さおりさんが歌われている『トルコ行進曲』のような、器楽的な技巧を聞かせる曲を入れよう、と大さんからアイディアをいただきました。
ふと、イタリアで現地の人から教えてもらったこの曲を思い出しました。“私はすばらしい、ほとんどすべてのことは声でできる、まるで鳥のように”と猛スピードで言葉を捲し立て、音程の高低差も2オクターブ半⁉︎ またジャズ的なグルーヴ感も必要な曲なので、大さんからアドバイスをいただきながら練習しました。アルバムの大きな軸になった曲です」
――『BRAVA』は攻めている感じがしました。他の収録曲とは全く異なるテイストです。1曲だけでなくもっと聴きたいと思わせる勢いがありました。こういう曲のレパートリーを増やす予定ですか。
「『BRAVA』のようなジャズの要素が入っている曲には今後も挑戦していきたいです。また『BRAVA』では今まであまり使ってこなかった地声を使っています。音域の幅も広がるので、このあたりの声もうまく育てていきたいなと思います」
こだわりの『暗闇にさようなら』
――『暗闇にさようなら』はジュリー・アンドリュース主演映画『暁の出撃』の曲ですね。ヘンリー・マンシーニの隠れた名曲。コンサートでも歌われていましたがどれほどの思い入れがあるのでしょうか。
「私が世界で一番好きな映画は『サウンド・オブ・ミュージック』です。そのジュリー・アンドリュースが歌ったこの曲をラジオで聞いたのは中学生か高校生でした。そのラジオ番組は毎週録音していたので、折に触れこの曲を聴いていましたが、『サウンド・オブ・ミュージック』とは印象が違う曲だな、と頭の片隅にいる存在でした。
昨年のコンサートで歌ったところ身内からの評判もよく、今回のアルバム選曲では真っ先に決定した曲でした。敬愛するジュリー・アンドリュースの楽曲を収録できる! 映画『暁の出撃』のジュリー・アンドリュースが歌うシーンを何度も観返して、研究、練習し、張り切ってレコーディングしました(笑)。“好きこそ物の上手なれ”でしょうか」
――多くのユーミンの曲の中から『やさしさに包まれたなら』をセレクトしたわけをお聞かせいただけますか。
「私はジブリの映画で育った世代ですので、『魔女の宅急便』は何度も観ました。映画の中で流れるユーミンの曲は、この映画のために作曲された歌かと思うほど、ぴったり。見習い魔女キキが修行のために見知らぬ街で猫と共にひとり暮らしを始め、悪戦苦闘しながらも、街の人々との交流を通して成長していく様子が、この歌の世界観と相まって、歌っているととても勇気が出ます。私も熊本から18歳で歌の修行に出て、今でもそれは続いていますね(笑)。キキと一緒です。また映画のおかげでいろんな世代の人が知っている曲! 家族みんなで楽しんでもらえる歌だと思います」
――『ワインレッドの心』は、木村さんの雰囲気、イメージとは異なる印象ですが、これを選曲した理由はなんでしょうか。
「前の話と重なりますが、今まで歌ったことがない雰囲気やジャンルの歌、特に男性の歌に挑戦する、という理由から選曲しました。マイナー調、ムーディーな色っぽい曲、グルーヴ感がある、オリジナルが男性歌手……今まで歌ってきた歌と異なる要素を兼ね備えているのがこの曲です。40歳になり、男性の色気を表現できる年齢になってきたかと思います(笑)」
――『カッチーニのアヴェ・マリア』は唯一のクラシック歌曲です。この曲を入れた理由はなんでしょうか。
「声楽を始めた高校生当時から歌っている曲なので、思い入れがあること、コンサートで歌うとアンケートの人気曲上位に来ること、“『カッチーニのアヴェ・マリア』のCDはないんですか?”とよく聞かれること、いま力を入れているYouTubeチャンネルでも人気曲の一つであること、などが理由です。
なにをもって“難しい”とするかですが、『カッチーニのアヴェ・マリア』も大変難しい曲です。クラシック曲に関しては自分自身に対してより厳しくなるので、レコーディング期間、この一曲に神経も体力も随分奪われました。
技巧的という点では、今回『BRAVA』が担当しているので、全体のバランスを考えて、昨年のコンサートで歌った『メサイア』のアリアなどの技巧的なクラシックは選びませんでした。しかし、ヘンデル、モーツァルト、ロッシーニなど、人知れず練習し、常に向上を目指しています。いつかレコーディングでも挑戦してみたいです!」
アルバム発売の前にコンサートが9月3日に行われます。新譜からの曲も披露してくれることでしょう。会場でCDの先行発売も行われるとのこと、楽しみですね。
『あなたと明日をつなぐ花』
(9月13日発売 CVOV-10080 定価:2500円(税込))
収録曲
1 BRAVA
2 あなたと明日をつなぐ花
3 悠久の郷の雨(シェナンドー)
4 暗闇にさようなら
5 やさしさに包まれたなら
6 ワインレッドの心
7 面影は遠く
8 アヴェ•マリア
公演情報
2023年9月3日(日)
『あなたと明日をつなぐ花』
会場:渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
プロフィール
木村優一|Yuichi Kimura
ソプラニスタ、クラシカル クロスオーバー歌手。
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、聖徳大学大学院博士前期課程を修了、2008~2009年イタリアにて研鑽を積む。
2016年 クラウンレコードより「MY WORLD~奇跡の声~」でCDデビュー。
2018年の初演より現在まで再演されている、千住明氏が音楽監督を務める舞台「蜜蜂と遠雷」でABC-Zの橋本良亮、三浦大知、家入レオ、中山優馬らと共演。
2018年徳間ジャパンコミュニケーションズよりCD「Is This Love?」を発売。
2022年「歌う喜び ソプラニスタ 木村優一 オータムコンサート」で榊原大氏らと共演。
テレビ東京「THEカラオケ★バトル」などに出演。
1000万人にひとりの奇跡の男性ソプラノ(ソプラニスタ)木村優一の限りなく透明な声は“サファイアボイス”と称され、今後も天から授かりし声を生かし心に残る歌を歌い続ける。
また、アーティスト活動と並行してNPO法人音楽で日本の笑顔をに従事し、スマイル合唱団、青春ポップス合唱団や被災地での音楽を通じたボランティア活動を続けている。
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