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ウィーン・オペレッタの最高峰、シュトラウスII世の『こうもり』〜あらすじや曲を紹介〜

7.音楽の都ウィーンとオペレッタ『こうもり』

日本でも上演回数が多い人気オペレッタ『こうもり』! ヨハン・シュトラウスII世の3作目のオペレッタです。
その魅力は何と言っても音楽の美しさですが、過激になりすぎない皮肉、上品さを失わないユーモアなど、万人に受け入れられやすいストーリーも人気の理由です。パリで人気を博したオッフェンバックのオペレッタとは異なる発展を遂げたウィーン生まれのオペレッタ。その最高峰に位置するのが『こうもり』です。

7.1.ウィーン・オペレッタの金字塔

週刊誌に掲載されたシュトラウスII世(左下)とオッフェンバック(右上)の風刺画「1作目のオペレッタで、シュトラウスはすでにオッフェンバックを凌いでしまった」(1871年)出典:Wikimedia Commons

「オペレッタ」は「オペラ」の縮小語で、軽いオペラ、小さいオペラというような意味です。しかし、上演時間や規模の面で、決してオペラに劣るわけではありません。オペレッタはセリフを普通にしゃべります。そのため、セリフを各国語訳で上演することも可能です。一方、オペラはセリフ部分も「レチタティーヴォ」という形で歌唱するので、全てに音楽がつきます。

オペレッタは、パリで活躍した作曲家ジャック・オッフェンバック(1819-1880)によって確立したジャンルで、ウィーンに流入して独自の発展を遂げました。例えば、「地獄のギャロップ」で有名なオッフェンバックの代表作『天国と地獄/地獄のオルフェ』(1858年パリ初演)。荒唐無稽なストーリーでドタバタ騒ぎが繰り広げられる様子は、『こうもり』にも通じるものがあります。しかし、パリっ子が熱狂した庶民的でリアルな風刺や笑いに対して、ウィーンの上流階級的なお気軽さ、どこか陰のある現実逃避的な享楽。労働者や庶民の力が強まりつつあったフランスと、斜陽のオーストリア=ハンガリー帝国という、両大国の社会情勢を反映するかのようです。

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1873年5月9日ウィーン証券取引所の株式暴落、出典:Wikimedia Commons

折しもシュトラウスII世がオペレッタ『こうもり』を初演した前年の1873年、ウィーン証券取引所で株式大暴落が発生します。この株式暴落はヨーロッパ中に恐慌を引き起こし、ウィーンは大不況に陥りました。失業し破産する人々が続出し、自殺者も増加。さらにはコレラの流行、国力を結集して開催したウィーン万国博覧会の巨額赤字など、暗い出来事が続く中で初演したのが、オペレッタ『こうもり』でした。「すべてシャンパンの泡のせい」、どうにもならないことは忘れてしまおうと、失意のどん底にあったウィーンの人々の気持ちを、オペレッタ『こうもり』が慰めたのかもしれません。

7.2.ウィーンの年末年始の風物詩

ウィーン国立歌劇場の夜景、出典:Wikimedia Commons

ウィーンの年末年始の定番はオペレッタ『こうもり』! 毎年、ウィーン国立歌劇場や、オペレッタ専門劇場のフォルクス・オーパーで上演します。『こうもり』は、宮廷劇場が前身のウィーン国立歌劇場が、唯一上演するオペレッタでもあります。

なぜ年末年始に上演するのかというと、原作が『夜食|Le Réveillon』(1872年パリ初演)という戯曲で、大晦日やクリスマス・イヴに行う晩さん会の様子を描いたものです。この戯曲を基にした台本を一読しインスピレーションを得たシュトラウスは、たった42日間でオペレッタ『こうもり』を完成させました。戯曲『夜食』を書いたリュドヴィック・アレヴィ(1830-1897)とアンリ・メイヤック(1834-1908)は、ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)のオペラ『カルメン』の台本も手がけたフランスの人気劇作家コンビです。アレヴィは、オッフェンバックの『天国と地獄/地獄のオルフェ』の台本にも加わっています。

そして、年が明けて元日の目玉は、ウィーン楽友協会のニューイヤー・コンサート。日本でも、お正月の衛生中継を楽しみにしている人が多いことでしょう! ウィーン楽友協会は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のホームであり、クラシック音楽の殿堂。特に、金色の装飾に彩られた「黄金のホール」と呼ばれる大ホールは、素晴らしい音響を誇る贅沢な空間です。ニューイヤー・コンサートは多くの音楽ファンの憧れ! ウィーンに住んでいても、容易には入手できないプレミアムチケットです。

8.まとめ

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ウィーン・オペレッタの金字塔『こうもり』。友愛に満ちたハッピーエンドとワルツ王シュトラウスII世の楽しく魅力的な音楽で、いつ見ても明るく元気な気持ちになれるオペレッタです!

オペラって、素晴らしい!

参考文献
「こうもり ヨハン・シュトラウスII作曲」田辺秀樹訳、音楽之友社(2015年)
「ヨハン・シュトラウス 初めて明かされたワルツ王の栄光と波瀾の生涯」フランツ・エンドラー著、喜多尾道冬/新井裕訳、音楽之友社(1999年)
「ウインナ・オペレッタの世界」白石隆生著、音楽之友社(1989年)
「人間の音楽劇 オペラ オペレッタの本質」寺崎裕則著、音楽之友社(1991年)

神保 智 じんぼ ちえ 桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマ・コース声楽科在学中。子どものころから合唱団で歌っていた歌好き。現在は音楽大学で大好きなオペラやドイツリートを勉強中。

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