【オペラ指揮者 直筆コラム】オペラ指揮者の独り言#1〜有名なオペラ団体「藤原歌劇団」指揮者がオペラの面白さを伝えます
オペラ指揮者の独り言…第1回
“オペラ=敷居の高い芸術”というイメージがあります。イタリア語、ドイツ語、フランス語等、日本人にとりましては、身近ではない言語での音楽ドラマですので、ごく自然体で鑑賞するには、やはりまだまだ抵抗?があるのでしょう。私自身、オペラは海外(主にヨーロッパ)との歴史的文化の違いはあるにしても、日本では気楽に、娯楽的に楽しめるジャンルには入れないもどかしさがあります。
1.オペラ指揮者が語る「オペラ」
今では、オペラ公演では字幕が当たり前
今でこそ字幕付きが当たり前になりましたが、数年前までは字幕なしで、オリジナルのまま上演していたのですから、よほどの興味を持った方々、知識を持った方々でないと、足を運ばない気持ちはよくわかります。
ストーリーは解説を読めばある程度は分かりますが、直接、言葉による表現が伝わってこない中、長時間座りつづけて聴いていること、観ていることが、ある意味ストレスになるのではないでしょうか。その気持ちもよくわかります。
オペラを日本語(訳詞)で歌う難しさ
では、外国の言葉を日本語に訳し、置き換えて日本語上演すれば、そのストレスから解放され自然体で楽しめるかというと、それはそうもいかないのです。
それは、日本語が音(おん)の集まりであり、日本語の言葉は音節(高低)で出来ていますので、外国語(イタリア語、ドイツ語、英語…)のように長母音のある言葉に音符を付けているオペラに対して日本語を当てはめることはかなりの不自然さがあり、というよりも音符につけることじたい不可能に近いものがあります。正しい日本語として伝えるのであれば、旋律自体を変えなければならなくなります。
オペラの不思議 ─ 日本語(訳詞)に変えて歌うのに、意味不明???
たとえば、イタリア語で「Amore」という言葉があります。日本語では「愛」ですね。この「Amore」は、単純に「アモーレ」と発語しますが、長母音が入っています。音符のリズムでいうと、「モーレ」の”モー”が長い音符になります。
この言葉についている音符に日本語の「愛」を当てはめますと、「あーい」というようになります。「あい」なら分かりやすいですけど、「あーい」と日本語で歌われたら、なんとも奇妙な言葉に聞こえてしまい、このような言葉のつけ方で何時間ものオペラを歌われたら、いくら母国語であっても何を言っているか分からないというストレスが溜まる大きな要因となります。
字幕の発達で、オペラを原語で歌っても、やはり難しい???
何年か前までは、このような訳詞で歌われることも多かったのですが、今は字幕という良いものが出来まして、オリジナルのオペラを、オリジナルのままお伝え、観ていただくことが大半となっています。私たちにしましては、大変うれしいことですが、前記しましたように、それはそれで、視覚的に(字幕)内容は入ってきますが、直接的に言葉は入ってこないと言う、もどかしさは拭い去れないと思います。
オペラって実は、ヨーロッパでも日本と同じように難しい???
でもご存知のように、この「もどかしさは」は、当然日本人だけではありません。
イタリアの方々がワーグナーのオペラを観ましたら、いくらオペラの老舗の国だからと言っても、ドイツ語が母国語と同じように分かる方はそれほどいないと思います。逆にドイツの方々がヴェルディのオペラを観ても、母国語と同じように分かる方は少ないと思います。
ですので、オペラ鑑賞に対しては、日本とさほど違いはないと思います。が……?
ヨーロッパでは、原語が分からなくても、オペラは、楽しい!!!
この「が……?」につきましては改めてお話させて頂きますが、オペラを楽しむにあたり、お分かりだと思いますが、そこにはオペラに対しての長い歴史と、文化の違いが大いにあると思います……
日本のオリジナルオペラは、実はたくさんあります!!!しかし、難しい???
その違いと、では母国語(日本語)で作られたオペラは一体どうなのか?ミュージカル歌手の日本語は分かりやすいけど、オペラ歌手の日本語はなぜ分かりにくいのか?…改めてお話させて頂きたいと思います…。
2.オペラ指揮者が、オペラを楽しむ秘訣をお伝えします!!!
ひとつお話しておきましょう。
オペラは第一に「声」…美しい声が何をおいても一番大事なことは、言わなくてもお分かりだと思います。演技的に多少?でも、「声」が良ければ◎になります。勿論そこに素晴らしい演技力があれば、パーフェクトな存在の役を作り上げることが出来ると思います。
日本各地で沢山のオペラが上演されていますが、ご覧いただくにあたり、好きな演目があれば、それはそれで良いとは思いますが、たまにはオペラも観てみたいと思って頂けるのであれば、演目も大事ですが、良い声、美しい声(テクニックも含め)の方が出演している公演を、まずはご覧になって頂きたいと思います。これも前記しましたように、オペラは何よりも「声」!です。迷ったら「声」です!
3.若きオペラ歌手への応援を!!!
色々と書かせて頂きましたが、最後にお願いがあります。
このコロナ禍でも、若いオペラ歌手の方々は一生懸命勉強し、歌う場所を求め頑張っています。大舞台でのオペラの経験も少なく、声楽的にも過渡期ではありますが、リサイタルを開いたり、数人でのアンサンブルコンサートなど行っています。
大きなオペラへの夢を抱いて努力している歌手の方々の演奏会にも、是非足を運んでいただき、お客様(オペラファン)の「目」で、厳しく、温かく、そして期待も込めて育てていたければと思います。
4.まとめ
追って、ヨーロッパのオペラに対しての長い歴史と、文化の違いとについてお伝えしたく思っています。皆さん、興味ある、ミュージカル歌手の日本語は分かりやすいけど、オペラ歌手の日本語はなぜ分かりにくいのか?についても、解説します。
乞うご期待!!!
私の持論は、ポピュラーとクラシックを区別することなど必要なく、音楽に垣根は無いということなのです。
オペラの良さは、なんと言っても、超人的、驚異とも言える歌手力にあります。
何千人も入るコンサートホールで、マイク無しで、オーケストラで歌うオペラ歌手を舞台で観劇する、その瞬間は、特別なものです。皆さんも、一歩、踏み出してオペラを観て頂ければ幸いです。
オペラって楽しいです。
文:坂本和彦
公演のお知らせ
坂本和彦 芸術監督・指揮
2022年7月2(土)・3(日)新国立劇場 中劇場
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