コラム:京都旅行 日帰りで宇治へ
宇治茶の4割を生産している和束へ
日帰りの京都の旅行に宇治の和束町に向かいました。こちらへは京都駅から車でおよそ60分。伺ったd:matcha Kyotoさんは、お茶の栽培から加工、販売とカフェを運営されているところです。
私が、訪れた日はあいにくの雨でしたが、迎えてくれたのは、カフェの大きな窓から美しい茶畑がみえます。こちらでは、事前に予約をするとお茶の飲み比べや茶畑の見学などができます。
代表の田中大貴さんが、案内をしてくれました。
和束のお茶
田中さんは、京都の人ではなく大学で農学部を学んだあと就職、留学を経て和束町にやってこられたそうです。信楽にもほど近い、和束町は、宇治茶の生産の40%を担っている恵まれた気候と土壌を持ちながら、急速に高齢化が進んでいる町です。
田中さんが移住したときには、4000人いた人口もいまは3500人になっています。人口の減少にともない茶畑を手放す人も。
このままでは、茶農家も畑も失われてしまうと田中さんは思い、この場所で雇用も生みながら直接消費者と生産者が繋がる仕組みを模索しています。
d:matcha Kyotoさんも5件の茶農家さんから茶畑を引継ぎ、2年前には田んぼも引継ぎお米も作っています。作ったお米はランチのカレーやデザートのクッキーに使われているそうです。
シャーレにいれた茶葉を見せていただきながら15分ほど説明して頂きました。紅茶も緑茶も品種は、同じで違うのはその作り方です。紅茶、ウーロン茶は発酵させ、しないのが緑茶です。
そのため緑茶は、収穫したその日に加工をしなければなりません。和束町には現在260か所の茶農家に130の工場があります。
煎茶は、茶葉を蒸して揉み、抹茶は高温であぶり、葉や茎を除いたものを石うすでひきます。石臼を一時間かけて引いて、40グラムしかできません。
実際、石うすで抹茶を引かせてもらいました。程よい重みがあり、くるっと回すと石の間から美しい緑色の抹茶が出てきます。もちろん、大型の機械ですりつぶすこともできますが、摩擦熱、粒子の細かさなどを考えると石うすでひくのが、香も滑らかな味わいも一番と田中さんは言います。
抹茶を石うすでひくことはとても手間がかかりますが、現在ヨーロッパをはじめ世界でとても人気があります。理由のひとつは、茶葉を直接とることによりビタミンや食物繊維がとれる、飲み終わった後の茶殻の心配もありません。また煎茶の様に温度に気を付けなくてもいいので海外のスーパーでは、茶碗と茶筅がパックで手軽に手に入るほどの人気なのです。
d:matcha Kyotoでは葉の収穫のあとに出た茎や葉も、お店の紙袋に使用したり、新しいお茶の苗を霜から守るために敷いたりとてもサステナブルでその辺りも、今の時代に合っています。
緑茶をワインの様に畑や品種で楽しんでほしい
田中さんは、ワインでいうところのブルゴーニュやボルドーのようにその土地の個性を味で表現して、飲む人たちにお茶の品種や畑の違いで飲み分けて楽しんでもらいたいと考えているそうです。そのために商品の開発や土壌の分析にも力を入れています。
今回は、3種類の分かりやすい品種、やぶきた、おくみどり、そしてごこうを頂きました。
〇やぶきたは、お茶の代表選手、全体の70%を占めるほどポピュラーな煎茶の品種です。すっきりした香と程よい渋みが人気の理由です。元は静岡の品種が全国に広まりました。
〇おくみどりは、煎茶、抹茶の両方を楽しめるお茶です。こちらは、非常に味わいのバランスが良く、鹿児島の強い日差しをうけた濃い緑色の品種から改良されたものです。京都府推奨品種にもなっています。
〇ごごうは、仏様の後光をイメージしたもので、かぶせ茶です、かぶせ茶は、被覆をする日数も21日以上ととても手をかけたお茶です。緑茶は、被覆をすることにより、お茶の葉は少ない光で光合成をするため葉緑素が濃くなります。
一煎目は、80度と低く入れて、この後二煎目は少し高めの温度で入れると違った渋みのある味わいを楽しめます。80度以上だとカテキン、カフェインなど渋みのものになるものが溶解してくるのです。
うまみ成分のアミノ酸は低温から出てくるので、水出しにするとさらにその渋みの少ない味が出ます。
飲んでみると味は、甘くてまるで和食の御出汁のようです。代表の田中大貴さんに伺うとお茶には、アミノ酸、テアニン、グルタミン酸など出汁と似たうまみ成分がたくさん入っています。それだから、こんなに柔らかくて甘い味なのですね。納得出来ます。
緑茶には、どんな水があうのか
田中さんは、以前20種類くらいの日本各地や世界各国のペットボトルの水でお茶を入れ、味の違いを試してみたそうです。結果、軟水、硬水と試したそうですが、ここ和束の水がやはり一番おいしく感じ、その理由は、カテキンと水に含まれている鉄分が結びつくことにより味がまろやかなのだといいます。
ヨーロッパの水、コントレックスのような硬度の高いものは、浸透圧の関係で薄く感じるそうです。紅茶文化のイギリスなどでは、硬度が高い水とカテキンがしっかり出てあの紅茶の味わいとなるのです。
田中さんは、緑茶を和食の時にお料理に合わせて、煎茶、ほうじ茶と出てきます。それは、お寿司には、味がぶつからないようにあえてやぶきたを温度高めにいれた方が相性がよかったりします。和食のうまみを引き立てるためにその時その時に応じた出し方をお茶で演出することで、素敵な空間になるのですと笑顔で話を締めくくってくれました。
次に、茶畑に案内してもらいました。急斜面に位置する茶畑はとても美しく霜よけの扇風機もかわいらしい。抹茶や煎茶用の畑には、被せる被覆が設置されています。霧がたち寒暖差が大きいこの畑は、ミネラルを含む土が多いことから美味しい緑茶が栽培できるそうです。時期が早かったので畑は静かでしたが最盛期の5月から7月にかけては、シンガポールやフランスなどからもお手伝いに人々が来るそうです。国際的にも日本茶は、注目をされていることをあらためて感じました。
訪ねた所:d:matcha Kyoto ディーマッチャキョウト和束町本店
場所:京都市相楽郡和束町湯船五の瀬142
電話:0774-74-8205
営業時間:11:30~16:00
定休日:木金(祝日は営業)
店内カフェ利用は事前ご予約
お土産・菓子・茶の販売は予約不要
https://dmatcha.jp/
ライター:
秦 雪絵 アメリカ合衆国ニューハンプシャー州ハノーバー生まれ。学習院大学卒
1989年より、20数年にわたりフランスの銘陶ジアンの日本の専属輸入販売会社 ㈱ジアン ジャパンの社長を務める。そのかたわら、フランスの文化、生活などを伝えるため、百貨店やサロンでの文化歴史を織り込んだ講演を行う。
現在は、オペラ、バレエなどクラシックの情報を発信する、ネットメディア「オペラハーツ」において、公演の取材、執筆、編集を担っている。
並行して、日本文化のよさを伝えるため、取材に赴き食文化、茶道文化、和服文化の振興にも積極的に取り組んでいる。
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