ドラマティック・バレエの傑作『マノン』見どころや楽しみ方とは
5 第4章 大人のためのバレエ『マノン』見どころー享楽と破滅
ドラマティック・バレエの中でも『マノン』はとりわけ「大人のための作品」といった側面が強い作品です。
5.1 俗っぽい登場人物しかいない
マノンを取り巻く男性は、皆なにかをマノンに求めています。
たとえば、兄レスコーはマノンに「金になる存在として生きること」を、ムッシュG・Mは「愛人として生きること」ひいてはマノンの美貌や若さを、そして、デ・グリューは「マノンからの愛」を求めています。
当のマノンも決して清らかで善良な人物ではなく、マノンを取り巻く男性陣が求めるものを理解しつつ、そのときの欲望に従って生きています。
愛したデ・グリューが自分を求めれば素直に腕に飛び込み、かと思えば、富に魅せられてムッシュG・Mやレスコーの望みどおりに生きようとします。
第2幕で、ムッシュG・Mの財産とデ・グリューの愛をどちらも手に入れようと、いかさまを仕掛けるシーンも、いかにも人間らしい一面だといえるでしょう。
5.2 観客に強烈に印象づける4つのパ・ド・ドゥ
『マノン』でとくに注目したいのが、4つのパ・ド・ドゥです。
1つ目は、第1幕第1場で踊られる『出会いのパ・ド・ドゥ』。初めて出会った2人が、恋の始まりの高鳴る気持ちを表現しています。
2つ目は、第1幕第2場で踊られる『寝室のパ・ド・ドゥ』です。父親宛の手紙を書いているデ・グリューの邪魔をして、マノンが2人の時間に誘い込むことから始まります。
ガラ作品でも踊られる人気のシーンで、マノンとデ・グリューが互いを思う熱い気持ちが手に取るように感じられます。
3つ目は、第2幕第2場で踊られる『再会のパ・ド・ドゥ』です。離れていた日々を埋めるように、熱いパ・ド・ドゥが繰り広げられます。
4つ目は、逃亡の果てにたどり着いたルイジアナの沼地で踊られる『沼地のパ・ド・ドゥ』。生きるエネルギーが尽きようとしているマノンとデ・グリューの最後のパ・ド・ドゥです。
今にも倒れそうなマノンですが、最後に残ったデ・グリューへの愛だけを胸に、デ・グリューの腕へと飛び込んでいきます。フィギュアスケートのようなダイナミックなリフトは、マノンでしか観られない高難度の技術です。
また、役として生きながら、これら高難度のリフトやパートナリングをおこなうダンサーの素晴らしさも改めて感じられる場面でもあります。
5.3 生々しい性的表現
『マノン』では、生々しい性的表現も用いられています。
たとえば、第1幕第2場でマノンがムッシュG・Mの愛人契約を受け入れるシーン。兄レスコーとムッシュG・Mに代わる代わるリフトされ、ムッシュG・Mはマノンの足に興奮してみせるなど、欲望を隠さない表現が特徴的です。
また2幕の娼館では、マノンが持ち上げられたまま次々と男たちに渡されていくシーンも。マノンの人間性ではなく、女性としての魅力や美貌に価値を見出されているように思える場面です。
さらに、第3幕では、マノンを気に入った看守から無理矢理乱暴されるような場面も描かれています。
いずれも古典作品では見られなかった「人間の欲望をむき出しにするような表現」です。人間の綺麗な面だけを見せない点がドラマティック・バレエならではといえます。
マノン公演情報
パリ・オペラ座バレエ団 2024年日本公演
「マノン」全3幕
会場:東京文化会館(上野)
日程・開演時間
2024年
2月16日(金)19:00
2月17日(土)13:30
2月17日(土)18:30
2月18日(日)13:30
2月18日(日)18:30
詳しくは:NBS
【参考】
富永明子著、監修:森菜穂美、四家恵『バレエ語辞典』、誠文堂新光社(2018年)
文・監修:渡辺真弓著、写真:瀬戸秀美『名作バレエ70鑑賞入門』、世界文化社(2020年)
Blu-ray Disc、英国ロイヤル・バレエ『マノン』ケネス・マクミラン振付(日本語解説書付き)、収録:2018年4月26日、5月3日、コヴェントガーデン王立歌劇場
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