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ニュース:ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)来日記者会見 2024年6月27日(木)

2019年から5年ぶり、待望のジャパン・ツアー
来日公演のために用意した5作品のうち、すべて異なる組み合わせの3作品構成で5公演を行う

入念に準備しセレクトした5作品を上演

左:エミリー・モルナー芸術監督 右:唐津絵理©Tatsuo Nambu

記者会見はオランダ大使館で行われ、ヒルス ベスホー・ブルッフオランダ大使の挨拶で始まった。登壇したのは、2020年より芸術監督を務めているエミリー・モルナー、NDT1の日本人ダンサー高浦幸乃、そして愛知県芸術劇場芸術監督およびDaBYアーティスティックディレクターの唐津絵理。唐津は今回の公演の統括プロデューサーでもある。

NDTは、NDT1、NDT2、NDT3という3つのカンパニーから成り、1990年に初来日して以来、すべてのカンパニーが繰り返し来日公演を行っていたが2004年以来しばらく間があいていた。13年ぶりの来日となった2019年には大変な反響があった。そして5年の時を経て今回、待望の来日公演が実現した。

今回の公演のために上演されるのは5作品。作品の説明がモルナー芸術監督からあったのち、唐津からどういった経緯で選ばれたかが説明された。

「毎年、新作が作られているNDTの作品のうち、どれを紹介すべきか(芸術監督の)エミリーさんと対話を重ね、一緒に選びました」とのこと。

2人のNDTのアソシエイトコレオグラファーであるクリスタル・パイトの『Solo Echo』とマルコ・ゲッケの『I love you, ghosts』。この二人の作品は2019年の公演で上演されたが別の作品を日本の観客に見せたいとの思いから選ばれた。ウィリアム・フォーサイス振付の『One Flat Thing, reproduced』は「エミリーさんがフランクフルト・バレエ(フォーサイスが芸術監督を務めていた)の出身であることから、そのDNAを感じていただきたい」とのこと。シャロン・エイアール&ガイ・ベハール振付『Jakie』はお客さんがまだ見たことのない作品をお目にかけたいということで選ばれた(日本で初めて本格的に紹介される機会となる)。

さらに、これら4作品はムーブメントを中心とした、どちらかというと抽象的な作品なのでNDTの「シアター的要素」に注目できる、ドラマティックで演劇的な要素のあるガブリエラ・カリーソ振付の『La Ruta』が選ばれた。

カンパニーの革新的精神、ダンサーの高度なテクニック、表現力が存分に楽しめる5作品となっている。

5作品すべてに出演する高浦幸乃

左:高浦幸乃  右:唐津絵理©Tatsuo Nambu

2013年にNDT2に入団、2015年にNDT1に参加した高浦幸乃は、今回唯一、上演する5作品すべてに出演するダンサーだ。

「全く異なる魅力を持つ5作品なので日本の観客の皆さんがどのように作品を受けとめてくださるのか、パフォーマーとして興味深い」と語った。

高浦は5作品のうち3作品にクリエーションから関わったオリジナルキャストだそう。例えば『La Ruta』は、キャスト全員が3週間、朝から晩まで大道具や小道具が並べられたスタジオにこもり、振付家ガブリエラからお題を出され即興で踊って見せる、というワークショップを行いアイディアを出し合っていくという独特のクリエーションだったとのこと。キャストの個性が詰まっており、日本人ダンサー福士宙夢も出演していて、少しだけ日本語も出てくるそう。

『Jakie』の場合は、振付家であるシャローンのダンスがすべてで、彼女の即興をビデオに撮ってそこから振り付けを作っていくスタイルでクリエーションが行われた。世界観を楽しんでほしいとのこと。

また現在のカンパニーについては、「演劇やサーカスなどダンサー出身でないクリエイターを振付家として招いており、表現の幅がどんどん広がってくのが楽しい」と話した。

創設当初の革新性の再興

質疑応答にてモルナー芸術監督に自身の振付作品ではなく、外部から振付家を招聘し新作を発表することについての意図が問われた。

「NDTは旧オランダ国立バレエ団を退団したダンサーたちによって創設された反乱分子の集まりであり、メンバーに振付家はいたものの、“今までとは違う新しいクリエイティブな作品”を求めて外部の振付家に依頼してきていた。そういう設立当初の革新性を求める方向は再興したい。またカンパニーの責務としてさまざまな振付家の作品を観客に届けることも重要である」と答えた。

「NDTのような大きな組織をどのように運営し、業界全体でさまざまな振付家をどう支援していくかを考えた場合、ひとりの振付家ではまわっていかない。NDTのアイデンティティは一人の特定の振付家でなく、ダンサーたちの技巧と表現の幅広さにある。キリアンの作品も毎シーズン上演しているが、それと並行して、いわば次のイリ・キリアンを探すという橋渡し、支援ができるようにやっていきたいと考えている」。

さらに次のようにも語った。

「カンパニーとして私たちがやることはまず身体表現。さまざまな振付家を招くけれども、ダンサーが振付をただ踊るだけで良いという時代は終わったと思っている。現在のダンサーはあるアイディアがあってそれをどう形にするか、に応えられる身体能力と頭脳を持っており、思考の段階から振付家と対話ができる。ダンサーが本当に素晴らしいので振付家も当然、すぐれた振付ができる必要がある。そう考えると、ダンサーとのやりとりはますます密で複雑になっていくので一人でたくさん作るのにはプレッシャーがある。それから他ジャンルのアーティストを迎えてクリエーションをする際、ダンスではないことをやってみたいということではなく、そういうアーティストだからこそ身体について新たなことを学べるのではないかというように考えている」。

コンテンポラリーダンスと社会との接点
社会的意義について

エミリー・モルナー芸術監督©Tatsuo Nambu

コンテンポラリーダンスの社会的意義についての考えを問う質問もでた。

それに対して、モルナー芸術監督は以下のように語った。

「私たちは個々の政治性よりも普遍性を目指している。身体知に特化することにより言語ではないあり方、まだ自分たちでも言語化し理解することのできない身体のあり方、世界のあり方を感じることができるのがダンスの魅力なのではないかと思う。同時にアートへの取り組み方にも注視している。民主的に作られたものであるかということ、例えば言葉の通じないダンサー同士でも安心してお互いの体重を預け合いクリエーションできているかどうか、そういう信頼関係が大事だということ。また抽象的な表現で投げかけ、観客は自由に解釈できるということ。アート全般そうだけれども、特に身体にフォーカスしているが故にダンスでしか扱えない領域があると考える」。

「政治的な題材に関しては、扱わないということではなく、より深い次元で扱うと考えていただきたい。例えば戦争を取り上げることにした場合、戦争には戦争に至るエネルギーのようなものがあるわけだが、このエネルギー自体を扱うということ。テーマの深い部分を余白を残しつつ扱うことで、より多様な視点、議論がそのテーマに対して生まれるのではないかと、問うていきたい。世界で起きている問題に関して複雑な理解が得られたり、多様な会話が生まれたりするのでは、というふうに考えている」。

「あるカンパニーのアイデンティティは何かと考えたとき、ある作品であるとか、ある振付家であると考えがちだけれど、私たちのアイデンティティは『身体のクリエイティビティ』という哲学にこそあると思っている。今回の5作品は、全然違う作品で、違った感覚を鑑賞後に抱くと思う。そういう創作を可能にするコミュニケーション、可能にしている哲学自体が私たちのアイデンティティなのだと思う」。

モルナーが芸術監督になって初めての来日、27名のダンサーによる公演が始まる。

「NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)プレミアム・ジャパン・ツアー2024」 

【上演プログラム(各公演3作品を組み合わせて上演)】

『Jakie』振付:シャロン・エイアール & ガイ・ベハール 

『One Flat Thing, reproduced』振付:ウィリアム・フォーサイス 

『Solo Echo』振付:クリスタル・パイト 

『La Ruta』振付:ガブリエラ・カリーソ 

『I love you, ghosts』振付:マルコ・ゲッケ

公演情報
会場:高崎芸術劇場
6月30日(日)16:00 『Jakie』『One Flat Thing, reproduced』『Solo Echo』

チケット料金:2,000〜12,000円

詳しくは、高崎芸術劇場 チケットセンター 


会場:神奈川県民ホール
7月5日(金)19:00『Solo Echo』『La Ruta』『I love you, ghosts』
7月6日(土)14:00『Jakie』『La Ruta』『I love you, ghosts』

チケット料金:2,500〜15,000円

詳しくは、https://ndt2024jp.dancebase.yokohama/Dance Base Yokohama

会場: 愛知県芸術劇場
7月12日(金)19:00『Jakie』『One Flat Thing, reproduced』『La Ruta』
7月13日(土)14:00『One Flat Thing, reproduced』『Solo Echo』『La Ruta』

チケット料金:2,500〜14,000円

詳しくは、愛知県芸術劇場

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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