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ニュース:東京バレエ団 新制作 初演『眠れる森の美女』公開リハーサル&囲み取材レポート

2023年10月31

演出を手がけた芸術監督自らが語る、古典バレエを新制作するということ見どころを紹介


11月11日(土)より行われる東京バレエ団の『眠れる森の美女』公演。初日まで十日あまりとなった10月31日(火)に、公開リハーサルと芸術監督斎藤友佳理を迎えた囲み取材が行われた。

直接、芸術監督本人から語られる新制作の『眠り』のコンセプト、装置・衣裳、キャストなどの話は大変興味深かった。

今の時代感覚に即した新しい『眠り』はどのようにしてつくられるのかを知る貴重な機会となった。

斎藤芸術監督はこれまで、ブルメイステル版『白鳥の湖』(2016年)、『くるみ割り人形』(2019年)を改訂して成功させている。今回の『眠れる森の美女』の新制作がレパートリーとして定着すれば、芸術監督としてチャイコフスキーの三大バレエの新制作版を完成させることになり、芸術監督として大仕事を成し遂げ、一段落することになる。本人も「肩の荷がおりる」と語っていた。

2023年は日本のバレエカンパニーの『眠れる森の美女』上演が続く、『眠り』の当たり年となっている。東京バレエ団の『眠り』は、2022年10月に行われるはずだったが1年延期となり2023年11月上演されることになった。『眠り』のリハーサルは、今年の7月14日から22日のオーストラリア公演、10月20日から22日まで上演された世界初演の『かぐや姫』の公演、また子どもためのバレエ『ドン・キホーテの夢』公演、地方公演もこなさなければならない過密スケジュールの中、行われてきた。

公開リハーサルは第1幕を通しで

リハーサルは第1幕、オーロラ姫(沖香菜子)の16歳の誕生日のお祝いのシーンが披露された。

花、花籠をもつ多くのダンサーがワルツを踊り、オーロラ姫が華やかに登場する。4人の王子(ブラウリオ・アルバレス、鳥海創、安村圭太、後藤健太朗)とともに繰り広げるローズ・アダージョ、オーロラ姫のバリエーションと続く流れは美しく、直前の公演『かぐや姫』での緊張をはらんだ雰囲気とは異なり華やかさと優雅さ、気品が感じられた。カラボスは柄本弾、強烈なオーラがある。リラの精は政本絵美。短い時間であったが、カラボスとリラの精の二人から放たれる存在感が頼もしく感じられた。

続く囲み取材で斎藤芸術監督が語ったことを、作品の鑑賞ガイド、見どころとして紹介していく。

古典バレエ作品の改訂で守るべき部分とアップデートしていく部分両者のバランスをとることの難しさ

本来あるべき『眠り』の中核と、それに対して、時代と共にダンサーの体型やテクニックなど変化しており変えていかねばならない部分がある。そのバランスをとるのが難しい。古典の薫りを残しつつアップデートもしていかねばならない。

斎藤芸術監督はロシア国立舞踊大学院バレエマスターと教師科で学んでおり、在学中には特に歴史舞踊と伝承学に関心を寄せていたとのこと。彼女は卒業論文では、モーリス・ベジャールの『舞楽』、ジョン・ノイマイヤーの『月に寄せる七つの俳句』『時節(とき)の色』、ピエール・ラコットが振付・改訂を行った『ドナウの娘』をテーマに取り上げた。彼らと共にクリエーションを行い、実際に踊った経験があるからだ。彼らは共通して「バレエは伝統を守るだけではだめで、伝承されていくべき芸術である。それは根本のコアな部分は変えずに、時代と共にアップデートされていかなければならない」と語っていたとのこと。クリエーション中、ノイマイヤーは「振付家が生きている以上作品も生き続ける。だから何年か前はこういうように言ったけれども、今は、僕はこう変える」と言ったり、またラコットから送られてくるビデオには「こういう理由があって変える、ここは絶対に右足でなければならない」というように細かな指示があったという。みな、変えられるところ、変えてはいけないところを明確に理解していて興味深かったそう。

今回は、たとえば妖精たち、リラ以外に5人の妖精が登場するが、同じではなく性格がはっきりわかるよう全員変える。それぞれのパ(ステップ)は、今見て退屈するようではだめなので変える、というようにアップデートが行われることになる。

変わらない部分

キャプション・クレジット

手を加えてはいけない領域、確固たるものが絶対にある。それはストーリー、プロローグのリラのバリエーション、第1幕のローズ・アダージョ、オーロラ姫のバリエーション、第3幕のオーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥである。第3幕のブルーバードも含めたディヴェルティスマンに関しては、今の時代に合わない部分は変えているが、根本は変えていない。

アップデートされる部分(変わる部分)


第2幕。男性ダンサーが活躍できる場を増やすために村人の踊りを女性一人、男性5人にする。「宝石の踊り」をパ・ド・ユイットにして4組のペアとする。カラボス役を男女両方にキャスティングする。

また、リラの精、オーロラ姫、デジレ王子の解釈も今回の新制作の大きな見どころとなる。

新制作の核心 リラの精、オーロラ姫、デジレ王子の関係性

斎藤芸術監督はリラの精を大変重要な役と考えた。第1幕でリラの精がバリエーションを踊った後、オーロラ姫に何かプレゼントしようとするところでカラボスが登場し、「成人した姫は針を指に刺して死ぬ」という呪いをかける。リラの精は、オーロラ姫は死ぬのではなく、ふさわしい相手が現れキスした時に目覚めるようにした。それがリラの精のオーロラ姫へのプレゼントとなる。リラの精がオーロラ姫の洗礼の母となり、ふさわしい人を探しその人の洗礼の母にもなってオーロラ姫に会わせる。

オーロラ姫を目覚めさせるにふさわしい相手を探すために100年かかった


リラの精は100年後に王子を出会わせてオーロラ姫を目覚めさせる、のではなく、オーロラ姫にふさわしい相手を探し求めてデジレ王子を見つけるまでに100年を費やした、という解釈になる。
第2幕が今回、斎藤芸術監督の演出意図が反映され、一番手が加えられている。

第2幕幻影のシーンではデジレ王子とオーロラ姫は絶対に触れ合わない


第2幕、幻影のシーンは、ことに音楽の美しさが際立つシーン。ここでリラの精は、デジレ王子にオーロラ姫を出会わせることになる。二人は同じ時空間にいるわけではない。現実に生きているデジレ王子と違う次元にいるオーロラ姫はリラの精を通じて出会うわけだが、異次元に存在する二人なので決して触れ合うことはない。

斎藤芸術監督は、現役の頃に踊っていた『眠れる森の美女』のバージョンではこの第2幕の幻影のシーンがなかったために強い憧れがあったのかもしれないと語った。

ファンタジックでスピリチュアルなシーン、姿は見るものの触れ合う瞬間がないこと、3人の関係性により物語に深みが加わる。

舞台装置・衣裳製作の苦労


舞台装置や衣裳は製作に時間がかかるため、作品のクリエーションに入る前に製作を始めなければならず、それゆえコンセプトもかなり前にきっちりと決まっていなければならない。さらに製作過程での変更点の連絡、確認等で遠く離れたロシアの製作チームとのやりとりには大変苦労したそう。

時代背景を考慮した衣裳、何十回とプランを練り直した舞台装置、どちらも今回の公演が初お披露目ということで期待が高まる。

第2幕、こだわりのパノラマのシーン


第2幕、デジレ王子がリラの精の導きによってオーロラ姫が眠る城へと向かうところがパノラマのシーン。異なる次元へと人間が移動するには、必ず水を通らねばならない、と斎藤芸術監督は考えた。今回、現実のデジレ王子がオーロラ姫のいる別次元へ行くために、デジレ王子は川を渡ることになる。この演出として約45メートルもの動く背景画が「絶対に必要」との判断で、舞台に現れる。これは初演時のプティパの技法で、現在は危険を伴うということでボリショイ劇場でも使用していない。だが「スモークを焚いてゴンドラが移動する」だけでは飽き足らないと考えたそう。ダンサーたちには模型を見せて説明したとのことで、チャレンジングな試みになる。

3人のオーロラ姫


今回、3キャストが組まれている。ラコット版『ラ・シルフィード』で斎藤芸術監督が監督就任前に振付指導した初日キャストの沖香菜子。出産を経て女性として、ダンサーとして成長し魅力的になる一番良い時なので斎藤芸術監督はサポートしてあげたいという気持ちでいるそう。

芸術監督就任後、最初のオーディションで宮川新大、秋本康臣らと共に入団した秋山瑛は斎藤監督とともに活動のスタートを切った。そして子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』でオーロラ姫を踊ったのを見た時にこの公演でオーロラ姫をぜひやらせたいと思ったという金子仁美。一緒に成長してきた3人なので、彼女らのプラスの部分を全面的に出してあげたいと斎藤芸術監督は語った。

ダンサーの今を見つめ、彼らを輝かせるキャスト


『眠れる森の美女』はスペクタクルで規模の大きい作品であるが、男性ダンサーの見せ場が少ない。せっかく直前の『かぐや姫』公演で男性ダンサーはたくさん踊らせてもらい、勢いに乗っている時に足踏みさせるようなことはしたくない、ということで前述したように「宝石の踊り」をパ・ド・ユイットにして4組のペアとするなど男性ダンサーの出番を増やしている。

また、内面の成長著しい柄本弾は、今回の公演でカラボスとデジレ王子を踊る。今の彼なら無限大の可能性を感じるので両方の役をやらせたい、と斎藤芸術監督は決断した。伝田陽美もダイヤの精とカラボスの二役を踊る。このようなキャスティングはまず見たことがないけれど、ダンサーにはカメレオンのように「どれが本当のあなたか」というくらいの役者になってほしいという斎藤芸術監督の思いがある。今この役を踊らせたら絶対にいい、というふうにダンサーがいかに舞台で輝くか、を考えていると語った。

バレエ団が一丸となって取り組む渾身の新制作『眠れる森の美女』。今の時代にマッチした古典バレエ作品に期待したい。

画像全て|Photo by Shoko Matsuhashi



東京バレエ団『眠れる森の美女』
会場:東京文化会館

開演
11月11日(土) 14:00
12日(日)14:00
17日(金)13:30
18日(土)14:00
19日(日)14:00

チケット料金
14,500円〜3,000円

浜松公演
会場:アクトシティ浜松 

開演
11 月 23 日(木・祝)15:00 

チケット料金

12,000円〜3,000円 

横須賀公演
会場 :横須賀芸術劇場

開演
11 月 26 日(日)15:00

チケット料金
12,000円〜3,000円

堺公演
会場 :フェニーチェ堺

開演
11 月 28 日(火)18:30 

チケット料金
12,000円〜3,000円 

詳しくは:NBS



エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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