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プレビュー:新国立劇場オペラ『ヴォツェック』11月15日(土)~24日(月・祝) 新国立劇場オペラパレス

初演から100年の節目に
新制作

新国立劇場オペラ2025/2026シーズンでは、新制作が2作品あります。そのうちの1作品として『ヴォツェック』がいよいよ上演されます。

20世紀のオペラ作品の中でも上演回数の多い『ヴォツェック』。決して楽しいオペラではありません。救いのない内容と言えます。でも、引き込まれいろいろな感情が湧いてくる不思議な魅力を持った作品です。

現代にも通ずる内容──あらすじ

1821年、ゲオルク・ビューヒナーはある戯曲を書きます。それは同年ライプツィヒで起きた殺人事件の犯人であるヴォイツェックの精神鑑定の記録をもとに執筆したもので未完です。1914年にこの戯曲で演じられた芝居を見たベルクはオペラ化を熱望しました。

第一次世界大戦に徴兵され、除隊した1917〜21年にベルクはこれをオペラとして作曲します。

貧困から抜け出せない元理髪師の兵士ヴォツェックは、貧乏ゆえに結婚することができず内縁の妻と子どもがいます。彼は人体実験のアルバイトをしており、医師から咳をしてはいけないとか羊の肉しか食べてはいけないなど酷い扱いを受け幻覚を見るようになっています。そんな言動を見て怯える内縁の妻マリーは、鼓手長の誘惑に負け関係を持ってしまいます。マリーの浮気を確信したヴォツェックはマリーを森に誘い出しナイフで彼女を喉を刺し殺してしまいます。返り血を浴びたヴォツェックは倒れているマリーを見て自分の顔が血に染まる幻覚を見ます。そして池でその血を洗い流そうとして溺死してしまうのでした。

社会の底辺で生きる人々、でも内縁の妻マリーは本来、堕落したモラルのない人間ではありません。信仰心もあり子供をかわいがっています。ヴォツェックもなんとか今より良い生活をしたいと願っているし一所懸命働いています。それなのにどん底まで堕ちて、二人とも死んでしまうという悲しい結末。

決してエキセントリックではなく、今の社会でも共感できます。なんとかならなかったのか、と救われなかったヴォツェックたちに同情の気持ちを抱いて劇場を出ることになるかもしれません。

一貫して緊張感を孕んだ不穏な音楽に彩られ、人間の生き様の一面を切り取った極上のオペラだといえます。

今回の新制作にあたり、オリヴィエ賞を9回、トニー賞も受賞しているイギリスの演出家、リチャード・ジョーンズが演出を手がけています。東京での新演出を手がけるのは初めてとのことで、本当に楽しみです。

ヴォツェックといえばこのひと
トーマス・ヨハネス・マイヤーが登場

左上より指揮:大野和士、演出:R.ジョーンズ、ヴォツェック役:T.ヨハネス・マイヤー、鼓手長:J.ダザック
アンドレス役:伊藤達人、大尉役:A.ベズイエン、医者役:妻屋秀和、マリー役:J.デイヴィス


この作品の成功は、他の作品よりもずっと演じる歌手の力量に負う部分が大きいです。上演時間は長くなく、どんどんストーリーが展開していきますし、登場人物も少ないです。ヴォツェックが追い詰められ、浮気を嫉妬し、破滅していく内面の葛藤を歌で表現するのはとても難しいことでしょう。

そのヴォツェック役を得意とするバリトンがトーマス・ヨハネス・マイヤーです。2025年2月の『フィレンツェの悲劇』でシモーネ役として新国立劇場に登場したのも記憶に新しく、短い間に再び、そして20年以上も歌い続けているヴォツェックで登場してくれるのは嬉しいかぎりです。


大尉役には2022年『ボリス・ゴドゥノフ』に出演したキャラクター・テノールのアーノルド・ベズイエンが務めます。鼓手長には、この役を得意としているジョン・ダザック、マリー役にはジェニファー・デイヴィス、医者役には妻屋秀和、アンドレスは伊藤達人が歌います。

そして指揮は、大野和士芸術監督です。

キャスト、演出が超一流、大変力の入った熱量の高い新制作となっています。

初演から100年経った今でも常に問題提起をしてくれる尖ったオペラ『ヴォツェック』をぜひ劇場で体験しましょう。


新国立劇場オペラ『ヴォツェック』
公演日程
11月15日(土)14:00
11月18日(火)14:00
11月20日(木)19:00
11月22日(土)14:00 託児サービスあり
11月24日(月・休)14:00

会場: 新国立劇場オペラパレス
チケット料金:29,700〜1,650円 
詳しくは:新国立劇場

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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