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レビュー:「バレエ・アステラス2024」2024年8月3日(土)新国立劇場オペラパレス

新しい出会い、発見がたくさん
ガラ公演の多彩な楽しみ方を提供

新国立劇場で夏に行われるお楽しみ、「バレエ・アステラス」公演は、「海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて世界をつなぐ」というコンセプトで2009年から開催されているガラ公演。普段、活躍している姿を見る機会のほとんどない日本人ダンサーのパフォーマンスを見られる貴重な機会として根強い人気がある。

一期一会の経験

バレエのガラ公演を鑑賞しようと思う動機はひとつではない。スーパースターが出演するから、スーパースターが大好きな作品(日本のバレエカンパニーでは上演することがほとんどない)のパ・ド・ドゥを踊るから、見たことのないダンサーが出演するので見ておきたい、知らない作品があるので見ておきたい、などなど。今回の「バレエ・アステラス」はそれらすべてを満たす充実の内容だった。日本初演作品が5作品もあったことからも意欲が伝わる。

新たな出会いと発見

『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
綱木彩葉、ジョセフ・グレイ

特に印象に残っている日本初演作品の日本人ダンサーによるパフォーマンスが、3つあった。

デヴィッド・ドウソン振付の『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ。ドレスデン国立歌劇場のアソシエイト・コレオグラファーを務め、ブノワ賞も受賞しているドウソンの『ロミジュリ』はエネルギッシュでとても若々しい。ドレスデン国立歌劇場プリンシパルの綱木彩葉とセカンド・ソリストのジョセフ・グレイがみずみずしく、短い時間で一気に恋が燃え上がる情熱を表現していた。

『ハムレット』
鈴木里依香、住友拓也

クロアチア国立劇場芸術監督であるレオ・ムジック振付の『ハムレット』よりパ・ド・ドゥを披露したのはクロアチア国立歌劇場プリンシパルのペア、鈴木里依香と住友拓也。パ・ド・ドゥは第3幕第1場、ハムレットの「To be, or not to be, that is a question」の場面。スピーディで力強く、難易度の高いステップが続く。最後まで緊張感をはらんだドキドキするパフォーマンスで、全編見てみたいと思わせるインパクト。二人のパートナーシップもスリリングで見応えがあった。

『デンジャラス・リエゾンズ』
吉田合々香、ジョール・ウォールナー

第2部ではリアム・スカーレット振付の『デンジャラス・リエゾンズ』という作品から第2幕の寝室のパ・ド・ドゥをクイーンズランド・バレエのプリンシパルである吉田合々香とチューリヒ・バレエ・ソリスト(元クイーンズランド・バレエのプリンシパル)のジョール・ウォールナーが踊った。ピエール・ショルデルロ・ド・ラクロの書簡小説『危険な関係』(何度も映画化されている。アカデミー賞3部門を受賞したスティーヴン・フリアーズ監督、グレン・ローズ、ジョン・マルコヴィッチ、ミシェル・ファイファー主演の1988年版が特に有名)を原作としている。18世紀、パリの貴族社会での秘密の恋のかけひきを描いており、上演されたのはプレイボーイのヴァルモン子爵が貞淑なトゥールヴェル夫人を誘惑する場面。短い時間ながら、二人の感情の揺れ動き、心情が表現されており、ドラマティック・バレエの秀作だった。熱いパフォーマンスでこれも全編見てみたいと思わされた。

新国立劇場バレエ団からは柴山紗帆と井澤俊が『眠れる森の美女』第3幕のパ・ド・ドゥを踊った。10月に上演される来シーズン幕開けの演目『眠り』をひと足早くお披露目した(10月の公演でこの二人はペアを組むのではないが)。

ゲストのパフォーマンスに圧倒される

『Une Promenade』
キム・ジヨン、チョン・ミンチョル

海外のダンサーもゲストに迎え、このゲストたちも趣は異なるが、素晴らしいパフォーマンスで心を奪われた。

次代を担う俊才たちのゲストとして韓国芸術総合学校バレエアカデミーからの出演では、登場したダンサーたちのレベルが非常に高かった。最初に『Une Promenade』を踊った元韓国国立バレエ団プリンシパルのキム・ジヨンと来年マリインスキー・バレエにソリストとして入団するチョン・ミンチョル。クランコ振付『オネーギン』での第1幕、オネーギンとタチアナの出会いをモチーフにキム・ヨンゴルが振り付けた作品。ミンチョルは非常に美しいダンサーでこれからもっと飛躍する予感を見せつけ、圧倒された。ベテランとのパートナリングにも好感がもてた。続く『The Prejudice』は韓国芸術総合学校バレエアカデミーの卒業生であるアン・セウォンが登場。フォーキン振付『瀕死の白鳥』にインスパイアされこれもキム・ヨンゴル振付の作品。薄暗い照明の中、サン=サーンスの音楽にのせソロで踊る彼女のシルエットは力強く、表現力があった。このほか、『ライモンダ』第3幕、ジャン・ド・ブリエンヌのヴァリエーションをアカデミーの学生であるイ・カンウォンが踊った。

一瞬で引き込まれるコジョカル

『ラプソディ』よりパ・ド・ドゥ
アリーナ・コジョカル、吉山シャール ルイ

特別ゲストとして登場したのは近藤亜香&チェンウ・グオとアリーナ・コジョカル&吉田シャール ルイ。近藤とチェンウはこのガラ公演には何度も出演しており毎回美しいパートナーシップを見せてくれている。今回は『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を披露。

そして、コジョカル。彼女が目当てでこの公演を鑑賞したお客さんも多いことだろう。ラフマニノフの『パガニーニの主題による協奏曲』にのせ踊られるアシュトン振付『ラプソディ』よりパ・ド・ドゥでは、一瞬で上品でファンタジックな空間を作り出し、観客を夢心地にした。もう1作品、マクミラン振付『マノン』第1幕より寝室のパ・ド・ドゥでは、これもまたそれまでの空気をガラリと変えた。幸せなシーンのはずなのに、これからやってくる不幸をにじませる、せつなくて幸薄い、コジョカルにしか出せないマノンがいた。さすがのコジョカルを吉田シャール ルイ(チューリヒ・バレエ ファースト・ソリスト)が好サポートしていたのが印象的だった。

見たことのない作品と出会う喜び、短いパフォーマンス時間で輝きを見せるダンサー、好奇心を満たし感動を約束してくれるチャレンジングなガラ公演「バレエ・アステラス」は来年も開催されることが決まっている。夏には多くのガラ公演があり、どの公演に行こうかと迷うけれども、「バレエ・アステラス」は発見と感動が必ずあるので、おすすめしたい。

                                      撮影:鹿摩隆司

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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