ロシア・オペラの不朽の名作、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』〜あらすじや曲を紹介〜
4.オペラ『エフゲニー・オネーギン』見どころ~チャイコフスキーの魅力的な音楽~
オペラ『エフゲニー・オネーギン』は、チャイコフスキーの魅力的な音楽があふれています!
バレエ音楽が有名なチャイコフスキー。舞踏曲はもちろん、胸を打つアリアやドラマチックな二重唱など、この音楽がなければストーリーが進まないと言っても過言ではないほど、音楽がドラマの進行に重要な役割を果たしています。
4.1.タチアーナのアリア「私は死んでもいいの、でもその前に」(手紙の歌)|Пускай погибну я, но прежде…
このオペラ最大の見どころ!第1幕第2場、オネーギンに一目ぼれしたタチアーナが手紙を書く場面です。抑えきれない激しい感情に戸惑い、「手紙」という形で心の疼きを鎮めようとします。
「手紙の旋律」から始まる音楽は、タチアーナの内面に寄り添いながら高まりを続けます。一瞬の静寂を置いてオーボエとホルンによる印象的な旋律が流れ出すと、タチアーナは「あなたは私の守護天使ですか?それとも誘惑者?」と問いかけます。初恋という生まれて初めて感じる感情の高ぶりを、陶酔的な音楽で描き出した傑作です。
チャイコフスキーはオペラ『エフゲニー・オネーギン』の創作に当たって、この「手紙の歌」から作曲を始めました。それほどタチアーナというヒロインに、強い思い入れを抱いていたことが分かります。この直後の、息をのむように美しい夜明けの音楽も必聴です!
第1幕の最後、タチアーナは手紙を受け取ったオネーギンから冷たく突き放されます。タチアーナの失恋という、1つ目の悲劇です。
4.2.レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」|Куда, куда вы удалились
第2幕第2場、決闘に臨むレンスキーが歌う珠玉のアリアです。タチアーナの「手紙の歌」と双璧を為す見どころで、憂いのあるリリック・テノールの美声を存分に聴かせます。
音楽はレンスキーの悲しみに寄り添い、詩人の魂をこの上ない芸術へと昇華させます。哀愁に満ちた旋律でオリガへの断ちがたい想いを切々と歌う場面は、溢れる涙を抑えることができないほど。
決闘の末、オネーギンは自身の手で友を殺めます。2つ目の悲劇です。プーシキンの原作では、この後、オリガはすぐにレンスキーを忘れて他の男性とこの地を去ります。そして、レンスキーの墓碑に参る者は誰もいなくなるのでした。
4.3.舞踏音楽「ポロネーズ」|Полонез
第3幕冒頭の舞踏会の音楽。どこかで聴いたことがあるのではないでしょうか?
管弦楽団が単独で演奏したり、バレエなどの舞踏音楽として用いられたりすることも多い人気曲です!重厚なオーケストレーションと躍動感にあふれるメロディはチャイコフスキーならでは!
第2幕冒頭の舞踏音楽もよく知られています。タチアーナの命名日を祝うラーリン家のワルツです。合唱が入ったり道化が登場したり、第3幕のポロネーズとは異なる雰囲気ですが、美しく楽しい曲です。
4.4.最終幕の二重唱「ああ!なんて苦しいの」|О! как мне тяжело!.. Онегин! Я тогда моложе…
第4幕終幕、公爵夫人となったタチアーナにオネーギンが会いに来る場面の二重唱です。ようやく互いの想いを認めながら、無情にもすれ違う2人。3つ目の悲劇です。チャイコフスキーの音楽は、美しくもリアルで、緊迫した感情のドラマを展開します。
タチアーナは、オネーギン以外に愛した人はいなかったのではないでしょうか。彼女の母ラーリナは冒頭で、「好きな相手とは違う男性と結婚したが、習慣が幸福と取り替わった」と歌っています。母と同じ道をたどるタチアーナの運命が、オペラの初めに暗示されているかのようです。
参考動画は、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の上演で、演出は女性演出家のデボラ・ワーナー。タチアーナは最後の別れを告げた後、長い沈黙の中オネーギンにキスをして去っていきます。女性から男性にキスをするという、伝統的なオペラにはない演出で話題になりました。タチアーナ役は、日本でも大変人気のあるロシア出身のソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコが演じています。
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