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三島由紀夫『午後の曳航』:オペラ『午後の曳航』の原作紹介~オペラの原作#09

三島由紀夫について

参照:三島由紀夫 Wikipedia

三島由紀夫は1925年1月14日に東京で生まれました。

東京大学法学部を卒業後、大蔵省に入省しますが翌年に辞め、作家生活に入っていきます。

代表作は『仮面の告白』、『潮騒』、『金閣寺』、『豊饒の海』など。

晩年は政治的活動に傾倒していき、「楯の会」を結成。

1970年に陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地において森田必勝とともに割腹自殺し、45歳の生涯を閉じます。

三島の作品の特徴は美麗で硬質な文体と、センセーショナルなテーマであると思います。そして、日本から世界に認められた作家であるということが挙げられます。

その「美」へのこだわりが、オペラ『午後の曳航』でどう表現されるのかとても楽しみです。

三島由紀夫にとって『午後の曳航』はどのような位置づけの作品なのか

1964年、『絹と明察』刊行後に三島由紀夫はこのようなことを言っています。

20代のころまでは父親というものに対して否定的だった。

『金閣寺』まではそうだった。だけど、自分が結婚してからは、その考えは変わっていき、この数年のテーマはすべて「父親」というものについて書いている。

この数年というものの中には、当然1963年に発表された『午後の曳航』も含まれています。

「息子」から攻撃を受け、滅びゆく存在である「父」を描いた作品である『午後の曳航』は、国際社会でも非常に高く評価され、没後である1976年には日米英合作で映画が作られました。

また、1963年に三島由紀夫がノーベル文学賞の候補になっていたことが後にスウェーデン・アカデミーの新資料でわかり(ノーベル賞の候補者名や選考過程は50年間にわたり非公開になっている)、『午後の曳航』が書かれたこの時期が作家三島由紀夫にとって、最も充実していた時期だったといえると思います。

関連作品

『金閣寺』

2019年2月に宮本亜門演出でオペラ『金閣寺』が上演されました。金閣寺を愛するあまり、その美の呪縛から逃れるため、青年僧が金閣寺に火を放つという実在の事件をもとにした、三島文学の代表作です(作曲は戦後クラシック界を代表する音楽家黛敏郎)。

今回、公演される『午後の曳航』と前回公演された『金閣寺』に共通するのは、「内面の葛藤」と「破壊」です。

『金閣寺』では「理想としての金閣寺」と「現実としての金閣寺」の間で煩悶する僧侶の姿が描かれ、『午後の曳航』では「理想としての英雄(父)」と「現実としての英雄(父)」の間で揺れ動く少年の姿が描かれます。

相反するものですから、現実を受け入れるより解決する術はありません。

ここで両主人公が選んだ選択は現実を受け入れることではなく「破壊」でした。『金閣寺』では、憧れの金閣に火を放ち、『午後の曳航』では、英雄の解剖というショッキングな結末に向かいます。

どちらも内面を中心に描いた文学作品ですから、オペラ化は困難だったはずです。でも、そこにはスリリングなドラマがあり、あっと驚くような仕掛けがあり、何より魅力的な「人間」が描かれています。

三島由紀夫という日本が世界に誇ることができる不出の作家の偉大な作品のオペラ化を純粋に楽しみましょう。



1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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