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レフ・トルストイ『クロイツェル・ソナタ』×ベートーヴェン『クロイツェル・ソナタ』 小説を彩るクラシック#15

あらすじ 謎の紳士が犯した罪とは……?

主人公は、ポズヌィシェフ。舞台は早春の長距離列車内です。

聞き手の「私」は、列車に乗り合わせた老人や貴婦人が「結婚観」や「女性観」について議論をしているところに参加します。
老人の男尊女卑的な結婚観(親が結婚相手を決める。妻は夫に従う等)に、若い貴婦人は愛のない結婚なんてありえない、老人の語る結婚観の時代は過ぎ去った、と反論し、話題は「愛」と「道徳」、「宗教」にまで及びます。

白熱する議論の中、白髪頭のぎらぎらした目つきをもつ不気味な紳士が「真実の愛とは何を意味するのでしょう?」と婦人に話しかけ、ここでも婦人は愛の尊さや女性の尊厳について、若い弁護士の男は理想の一致や精神の親和についてを語ります。

白髪の紳士は「そんなものは欺瞞だ」と一笑に付し、続けて「私は妻を殺したんです」と口にしたことで場は気詰まりな空気に満たされ、次の駅に到着すると、貴婦人や弁護士は車両を移っていってしまいました。
取り残された「私」に、白髪の紳士は、「愛情というもののせいで殺人を起こすことになったいきさつ」を語り出します。

この不気味な白髪の紳士こそが主人公のポズヌィシェフ。「私」に対して長い罪の独白を始めます。

愛が憎しみへ変わる時

ポズヌィシェフは、性愛を憎み、独身時代の青年期に放蕩に耽ることや(それを自慢げに語る学友にも)、女性が男性にアプローチをもらうために着飾ること、自分自身が性に焦がれることにも嫌悪を感じていました。
それはもはや「悪徳」だと語る彼に、聞き手の「私」は「でも、それが自然の本性なのでは」と返します。

そこで二人は「自然」「不自然」をめぐる会話を交わし、「私」が「人類が存続するためには、恋や性がなくては」と主張すると、ポズヌィシェフは「あなたが言うのは、どうしたら人類が存続できるかということですね?」と確認してから、「ではいったいなぜ人類が存続しなければならないのですか?」と問いました。

ポズヌィシェフは、もし人類の目的と言うものがあるのなら、それを妨げているのは欲望だ、この世界は肉体的な愛を安全弁のようにしている欺瞞の世界で、性欲は悪だ、と言い切るのです。

妻と結婚するとき、ポズヌィシェフはそれを「愛」だと思っていました。けれど、それから夫婦喧嘩が何度も起こり、妻が妊娠するたびに、妻の心が自分から離れていくように感じられ、夫婦生活は拷問になり、次第にお互いがお互いを憎しみ合うといった事態になっていきました。

そこに現れたのがトルハチェフスキーというヴァイオリニストの青年です。妻は一目でトルハチェフスキーを気に入りました。音楽好きでピアノを弾く妻は、彼の、「合奏しましょう」という申し出に舞い上がります。
ポズヌィシェフは妻を愛していないはずなのに、激しい嫉妬心に苦しみ、そしてそれを隠すように、ぜひ、我が家で演奏会を開こう、と自らトルハチェフスキーに持ちかけます。

1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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