愛をめぐる「聖」と「俗」、ワーグナーのオペラ『タンホイザー』〜あらすじや曲を紹介〜
オペラ『タンホイザー』のあらすじ〜愛をめぐる「聖」と「俗」〜
オペラ『タンホイザー』は難しいストーリーではありませんが、時代背景や文化的背景を知らないと理解しにくい部分があります。そちらも説明に加えながら、あらすじをご紹介します!
では、あらすじを知って実際の劇を鑑賞してみましょう。
『タンホイザー』
あらすじ✳︎ 第1幕 ✳︎
「タンホイザーとヴェーヌス」オットー・ニール画、出典:Wikimedia Commons
【ヴェーヌスベルク(アイゼナッハ近郊のヘルゼルベルク)】
中世ドイツ、ヴァルトブルク城の騎士詩人タンホイザーは、高名な歌い手でもありました。
タンホイザーは、ヴァルトブルク城主ヘルマン1世の姪エリーザベトと清らかな愛を育んでいたにも関わらず、愛の女神ヴェーヌスが支配するヴェーヌスベルクに滞在し官能と愛欲の日々を送っていました。
※当時の騎士は、純潔な愛や騎士道精神を述べる歌を作って歌っていたのです。
※ヴェーヌスは、ローマ神話の愛と美の女神「ビーナス」(ギリシャ神話で「アフロディーテ」)のことです。中世キリスト教社会におけるヴェーヌスは異教の神であり、また享楽的な官能に浸ることは忌むべきこととされていました。
歓楽的な妖精や神々が踊るヴェーヌスベルクの洞窟で、ヴェーヌスとタンホイザーが横たわっています [ヴェーヌスベルクの音楽「バッカナール」]。ヴェーヌスベルクの生活に飽き始めていたタンホイザーは、「ヴェーヌス賛歌」を歌いながら、地上に戻りたいとヴェーヌスに申し出ます。
引きとめるヴェーヌスに向かって聖母マリアの名を口にすると、その身は突如ヴァルトブルク城近くの谷間にあり、若い牧童が春の女神をたたえる歌を歌っていました [牧童の歌]。巡礼の一行の歌が聞こえ、タンホイザーはヴェーヌスベルクでの罪を悔います [悔恨の合唱]。
ヘルマン1世の一行が通りがかり、騎士詩人のヴォルフラムが、かつての仲間であったタンホイザーを見つけ再会を喜びます。タンホイザーは罪の意識でためらいますが、恋人のエリーザベトが待っていると聞かされ、ヴァルトブルク城への帰還を決意します。
『タンホイザー』
あらすじ✳︎ 第2幕 ✳︎
「ヴァルトブルク城祝宴の間」今も演奏会などで使用されている
出典:Wikimedia Commons
【ヴァルトブルク城の歌の殿堂】
エリーザベトはタンホイザーの帰還を知って、ヴァルトブルク城の歌の殿堂であふれる喜びを歌います [歌の殿堂のアリア]。ヴォルフラムがタンホイザーを連れてやってきます。エリーザベトとタンホイザーは再会を喜び、ひそかに彼女に思いを寄せるヴォルフラムは、この恋を諦めなければならないと悟ります。
ヘルマン1世はタンホイザーの帰還を祝い、歌合戦を開催。勝者はエリーザベトと縁を結ぶことが許されます。
※このころの歌合戦は、敗れると処刑されることもある決闘に近いもので、まさに真剣勝負でした。
歌の殿堂に客人が入場してきます [大行進曲「歌の殿堂をたたえよう」]。
歌合戦の課題は「愛の本質」。ヴォルフラムがトップバッターで、清らかな精神的な愛の尊さをたたえて歌います。次にタンホイザーが、真の愛は官能的な肉欲の愛だと歌います。騎士たちはこれに反論し、口々に精神的な愛を賞賛します。
興奮したタンホイザーはヴェーヌス賛歌を歌いあげ、ついにはヴェーヌスベルクに滞在していたことを告白してしまいます。人々は驚き、騎士はタンホイザーに剣を向けます。そこにエリーザベトが立ちふさがり、タンホイザーに罪を償う機会を与えるように懇願。ヘルマン1世の計らいにより、タンホイザーは肉欲の罪に対する許しを求めるためローマ巡礼の一行に加わります。
『タンホイザー』
あらすじ✳︎ 第3幕 ✳︎
「1900年ごろのヴァルトブルク城」出典:Wikimedia Commons
【ヴァルトブルクの谷】
エリーザベトはマリア像の前で、巡礼者の中にタンホイザーの姿を探して待っています [巡礼の合唱]。エリーザベトは聖母マリアに、自分の命と引き換えにタンホイザーの罪が許されるように祈ります [エリーザベトの祈り]。ヴォルフラムはエリーザベトを連れ帰ろうとしますが、彼女はヴォルフラムの申し出を断り一人で去ってしまいます。ヴォルフラムはエリーザベトの身を案じながら、有名な「夕星の歌」を歌います。
暗くなった谷にタンホイザーが現れ、ローマで教皇の許しが得られなかったことをヴォルフラムに語ります [ローマ語り]。教皇の杖に再び緑が茂ることがないように、タンホイザーの罪が許されることはないと宣言されたのでした。
タンホイザーは絶望して、ヴェーヌスベルクに帰ろうとしていました。夜霧の中にヴェーヌスが現れ、タンホイザーを迎え入れようとします [バッカナール]。ヴォルフラムはタンホイザーを引きとめながら、「エリーザベト」の名を口にします。すると、ヴェーヌスの姿が消え去ります。
エリーザベトの亡骸を収めた棺の葬列が近づいてきます。タンホイザーは棺の前に倒れこみ息絶えます。直後、若い巡礼者たちが、タンホイザーの救済のしるしである新芽を芽吹かせた教皇の杖を持って現れます。一同神の恩寵をたたえ、巡礼の合唱を歌いあげフィナーレ。
この記事へのコメントはありません。