愛をめぐる「聖」と「俗」、ワーグナーのオペラ『タンホイザー』〜あらすじや曲を紹介〜
リヒャルト・ワーグナー
「リヒャルト・ワーグナー」出典:Wikimedia Commons
リヒャルト・ワーグナーは、ドイツ最大の作曲家です。大作曲家としては珍しく幼少期に音楽の英才教育を受けていませんでしたが、だからこそ常識にとらわれず新しい音楽を作ることができたといえます。
「楽劇」というジャンルを創設し、庇護者であったバイエルン国王ルートヴィヒ2世の支援を受けて、自分の作品を上演するためだけの「バイロイト祝祭劇場」を作ってしまいます。やることがとにかくゴージャス!
一方、私生活はハチャメチャな人でした。借金をため込んで夜逃げしたり、革命に参加して指名手配されたり、不倫を繰り返したり・・・。
パリでは、ドイツ出身のユダヤ人作曲家ジャコモ・マイアベーア(1791-1864)を頼ったものの思うようにいかず、マイアベーアへの不信感から反ユダヤ主義を深めたことが指摘されています。マイアベーアの方はワーグナーのために尽力したのですが、両者の間に誤解やすれ違いがありました。
リヒャルト・ワーグナーの略歴
[1813年 0歳]
5月22日、ライプツィヒに生まれる。
[1828年 15歳]
和声を学ぶ。
[1830年 17歳]
ベートーヴェン第九のピアノ楽譜を作成し、楽譜出版社に出版依頼。しかし断られる。
[1834年 21歳]
マグデブルグ劇場楽長に就任。
[1836年 23歳]
オペラ『恋愛禁制』、マグデブルグ劇場で自身の指揮で初演。ミンナ・プラーナーと結婚。
[1837年 24歳]
リガ(ラトヴィア)の劇場で音楽監督に就任。
[1839年 26歳]
借金のためリガを脱出し、パリへ。作曲家マイアベーアと会う。
[1842年 29歳]
ドレスデンへ。オペラ『リエンツィ』、ドレスデン宮廷劇場で初演、成功。
[1843年 30歳]
オペラ『さまよえるオランダ人』、ドレスデン宮廷劇場で自身の指揮で初演。ザクセン宮廷劇場楽長に就任。
[1845年 32歳]
オペラ『タンホイザー』、ドレスデン宮廷劇場で自身の指揮で初演。
[1849年 36歳]
ドレスデン革命に参加し指名手配。チューリヒ(スイス)で亡命生活。
[1850年 37歳]
オペラ『ローエングリン』、ヴァイマール宮廷劇場でリスト指揮により初演。
[1852年 37歳]
豪商ヴェーゼンドンク夫妻と知り合い支援を受けるが、夫人マティルデと不倫関係に。
[1861年 48歳]
オペラ『タンホイザー』パリ版、ナポレオン3世の要請によりパリで上演するが大失敗。
[1864年 51歳]
バイエルン国王ルートヴィヒ2世に招かれミュンヘンへ。リストの娘でハンス・フォン・ビューローの妻コージマと同居を始める。
[1865年 52歳]
オペラ『トリスタンとイゾルデ』、ミュンヘン宮廷劇場でビューローの指揮により初演。
[1868年 55歳]
オペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』、ミュンヘン宮廷劇場でビューローの指揮により初演。
[1870年 57歳]
コージマの離婚が成立し正式に結婚(前妻ミンナは1866年に死去)。
[1876年 63歳]
バイロイト祝祭劇場開場。『ニーベルングの指輪』4部作を同劇場で初演。
[1882年 69歳]
オペラ『パルジファル』、バイロイト祝祭劇場で初演。
[1883年 69歳]
2月13日、心臓発作により死去。
ワーグナーの名曲
ワーグナーの音楽は西洋クラシック音楽の歴史上、非常に影響が大きく、ヨーロッパ各地で大きな反響を巻き起こしました。ワーグナー信奉者もアンチ派も影響を受けなかった作曲家はいなかったと言えるほどです。政治的にも利用されるほどの影響力で、そのためナチスとの関わりなどが問題視され、現在一般的に大きく取り上げられることは少ないかもしれません。
しかし、例えば特定の人物や場面にテーマ音楽を付け、登場シーンで演奏するという「ライトモチーフ/示導動機」の手法はワーグナーが確立させており、現在の映画などにもよく見られるほど大きな影響を及ぼしています。
分かりやすい例では、人気SF映画『スター・ウォーズ』シリーズで、ダース・ベイダーの登場シーンで流れるあの音楽!
ジョン・ウィリアムズ『インペリアル・マーチ(ダース・ベイダーのテーマ)』
場面のテーマでは、『エヴァンゲリオン』、『踊る大捜査線』、『シン・ゴジラ』などで緊迫した作戦に使われるあの曲も好例です。
鷺巣詩郎『DECISIVE BATTELE』。『Spending Time in Preparation』などのアレンジ版・リメイク版も多数ある。
こういった各登場人物や場面のテーマ曲のようなものが「ライトモチーフ」です。
では、ワーグナーの作品の中から、代表作をご紹介します!
1.オペラ『パルジファル』|Parsifal
『パルジファル』第1幕前奏曲
バイロイト祝祭劇場1953年ライヴ収録 クレメンス・クラウス指揮
ワーグナー最後の作品、オペラ『パルジファル』。バイロイト祝祭劇場でのみ上演することを目指した、まさにワーグナーの集大成といえる大作です!ワーグナーがそれまでに作曲したオペラから、さまざまな題材や素材を取り込んでいます。
中世ヨーロッパの聖杯伝説を題材とし、オペラ『タンホイザー』に登場する実在の騎士詩人ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ(1160~1180年頃-1220年頃)が記した『パルチヴァール』が台本の元になっています。
『パルジファル』の紹介記事はこちら ↓
2.「結婚行進曲」オペラ『ローエングリン』|Treulich geführt
ザクセン州立歌劇場2016年、クリスティアーン・ティーレマン指揮、シュターツカペレ・ドレスデン/ドレスデン国立歌劇場合唱団、アンナ・ネトレプコ/ピョートル・ベチャワ
(3分30秒ごろから)
結婚式の定番曲といえばこれ!婚礼シーンでよく耳にする「結婚行進曲」です。
ワーグナーのオペラ『ローエングリン』の第3幕冒頭、前奏曲に続いて歌われる静謐な合唱曲です。
オペラ『ローエングリン』のストーリーは悲恋物語なのですが、この曲が実際の結婚式で使われることが多いのは、その旋律が非常に美しく、神聖な婚礼の場にふさわしいイメージを思い起こさせるからでしょう。
ちなみに伝説上では、ワーグナーのオペラ『パルジファル』の題名役「パルジファル」の息子が、ローエングリンです。
3.「ワルキューレの騎行」オペラ『ワルキューレ』| Der Ritt Der Walküren
メトロポリタン歌劇場2019年
クリスティーネ・ゲルケ フィリップ・ジョルダン指揮
テレビや映画の戦闘的シーンで使われる定番曲と言えばこちら!「ワルキューレの騎行」です。
気分を高揚させる効果がある曲で、運転中に聴くと最も危険な曲という調査結果もあるのだとか!1979年公開のアメリカ映画『地獄の黙示録』で使用され一気に広まりました。
『地獄の黙示録』ベトコンの拠点の村を強襲するシーン。ただのBGMではなく、味方の士気向上と敵へ恐怖感を煽るために、劇中で音楽を流しながら戦闘している。
「ワルキューレの騎行」は、『ニーベルングの指輪』という4日間(序夜~第3日)かけて上演する4部作楽劇の第1日に当たる、『ワルキューレ』の第2幕冒頭で演奏されます。
オペラでは、ワルキューレの軍勢が威勢良く歌い上げる豪快なアンサンブル!「ワルキューレ」とは、武装して羽の生えた馬に乗って戦場に現れる、北欧神話の女神です。
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