極上のロマンティック・オペラ、プッチーニ『ラ・ボエーム』〜あらすじや曲を紹介〜

3.オペラ『ラ・ボエーム』のあらすじ 〜甘美な音楽に覆われた現実〜
『ラ・ボエーム』は、どこにでもいる芸術家の若者を描いた青春物語です。プッチーニの音楽はどこまでも甘く美しく、若者たちの純愛にも清々しい感動を覚えます。
一方で、夢見るような甘さと美しさの裏に、貧しさにあえぐ芸術家たち、貧困による病気、男性の庇護なくして生きられない女性たちなど、リアルな社会の現実が横たわっていることに気付きます。
一見、陶酔的な音楽が現実の痛みを覆い隠しているようです。しかし、貧しく厳しい生活の中に笑いを見出し明るく生きる若者たちのたくましさを、プッチーニは描き出しています。
あらすじを知って実際の劇を鑑賞してみましょう。
ラ・ボエーム あらすじ
✳︎ 第1幕 ✳︎

第1幕の舞台デザイン
レジナルド・グレイ画 ,2010年
出典:Wikimedia Commons
【1830年頃のパリ、安アパートの屋根裏部屋】
詩人のロドルフォは、画家のマルチェッロ、音楽家のショナール、哲学者のコッリーネと、貧乏極まりない共同生活をしています。
ロドルフォは、この部屋の暖炉は働かないと明るく歌い(「灰色の空に煙が上がり」)、書きかけの戯曲の原稿を暖炉で燃やし始めます。
暖炉の火が消えかけたころ、演奏のアルバイトで金を手に入れたショナールが帰って来て、クリスマス・イヴだから町へ繰り出そうと提案。家主のブノアが家賃の催促にやってきますがさっさと追い出し、カフェ・モミュスに出かけることになった若者たち。しかしロドルフォは、原稿を仕上げるため部屋に残ります。
一人になったロドルフォのもとに、ランプの火を借りに来た若い女性の声が。一転して抒情的な音楽に・・・。戸を開けると女性が倒れそうになったので、ロドルフォは慌てて抱きとめます。火を与えて送り出しますが、鍵を忘れたと言ってまた戻って来ました。
女性の火が再び消えてしまうと、ロドルフォも自分の灯りを吹き消し、真っ暗な中で鍵を探す2人。ロドルフォは見つけた鍵をポケットにしまい込むと、彼女の手を取って自分のことを話します(「冷たき手を」)。女性もロドルフォに答え、ミミという名で一人暮らしのお針子だと明かします(「私の名前はミミ」)。ミミとロドルフォは一緒に出掛けることになりました(二重唱「愛らしい乙女」)。
ラ・ボエーム あらすじ
✳︎ 第2幕 ✳︎
初演時第2幕の舞台デザイン
アドルフ・ホーヘンシュタイン画
【カルティエ・ラタン、カフェ・モミュス前の広場】
パリの町はクリスマス・イヴの賑わいで溢れかえっています(合唱「オレンジにナツメヤシだよ」)。ロドルフォはカフェ・モミュスのテーブルに座る仲間たちと合流し、ミミを紹介。子どもたちは、おもちゃ売りのパルピニョールに群がって歌っています(子どもの合唱「パルピニョール、パルピニョール」)。
パトロンのアルチンドーロにたくさんの買い物袋を持たせ、ムゼッタが登場。ムゼッタとマルチェッロは、かつて恋人同士でした。気付かないふりを決め込むマルチェッロの気を引くため、ムゼッタがワルツを歌います(「私が街を歩けば」)。
ムゼッタはアルチンドーロをカフェから出て行かせると、マルチェッロに走り寄って仲直り。アルチンドーロにカフェの支払いを押し付けて、一同はカルティエ・ラタンを後にします。
ラ・ボエーム あらすじ
✳︎ 第3幕 ✳︎

第3幕を描いた『ラ・ボエーム』のスコア販売広告
アドルフ・ホーヘンシュタイン画
出典:Wikimedia Commons
【雪が降る夜明けのアンフェール門、そばの居酒屋からムゼッタの歌声】
マルチェッロを訪ねてきたミミ。一緒に暮らすロドルフォが最近冷たいことに悩んで、マルチェッロに相談に来たのでした(二重唱「ミミ・・・、ここなら会えると思ったわ」)。
ロドルフォの気配を感じて身を隠すミミ。ロドルフォはマルチェッロに、ミミは浮気性でやっていけないと言います(「ミミは浮気な女だ」)。驚いたマルチェッロがさらに聞き出すと、ミミの病気が深刻なので、貧乏な自分より他の男のところへ行った方がいいと涙ながらに打ち明けました。
ロドルフォの真意を知ったミミは別れを切り出します(「あなたの愛の呼ぶ声に」)。ミミとロドルフォは「花が咲く季節に別れよう」と悲しみを押し殺して歌い、そこにマルチェッロとムゼッタの口喧嘩が重なります(四重唱「さようなら、甘い目覚めよ」)。
ラ・ボエーム あらすじ
✳︎ 第4幕 ✳︎

【数カ月が経った日の午後、第1幕と同じ屋根裏部屋】
第1幕と同じ音楽で始まり、ロドルフォとマルチェッロが仕事をしています。2人はミミとムゼッタのことを思い出してばかりで仕事が進みません(二重唱「ああミミ、もう君は帰らない」)。ショナールとコッリーネも帰って来ました。
快活な音楽が一転、息を切らして飛び込んできたムゼッタ。ミミが戻ってきたと告げます。ミミは貴族の庇護を受けて暮らしていましたが、愛するロドルフォのそばで死にたいと言ってやって来たのでした。
若者たちは、入ってきたミミを部屋のベッドに寝かせます。マルチェッロは医者を呼びに走り、ムゼッタは耳飾りを外して彼に渡します。そして、ミミの手を暖めるためのマフを取りに出ていきました。コッリーネも愛用の外套を金に換えるため、ショナールと出ていきます(「古びた外套」)。
ミミは2人きりになると、「あなたへの愛こそ私の全て」とロドルフォに語ります。ミミが突然咳き込み、驚いたショナールが駆け付け、ムゼッタとマルチェッロも戻ってきます。ムゼッタに渡されたマフを、ロドルフォからのプレゼントと勘違いするミミ。泣き崩れるロドルフォ。
ミミの顔に日が当たらないよう窓を塞いでいると、一同の様子がおかしいことに気付きます。ロドルフォはミミが亡くなったことに気付き、彼女の身体にすがり名を呼ぶのでした。
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