男性が活躍するバレエ『海賊』のあらすじや演出の違いを解説!最新上演情報も紹介
2. バレエ『海賊』には複数の作曲家の音楽が使われている
アドルフ・アダン
出典:Wikimedia Commons
バレエ『海賊』には、複数の作曲家の音楽が使われています。
1856年の初演時はフランスの作曲家 アドルフ・アダン(1803年〜1856年)の曲が使われていましたが、1858年にプティパが改訂した際にチェザーレ・プーニの曲が入り、既存の音楽にも手を加えました。
(なお、アドルフ・アダンは、最古のロマンチックバレエ『ジゼル』の作曲者です。)
その後、1867年にレオ・ドリーブが『花園』の場面の音楽を追加しています。
そのほか、リッカルド・ドリゴ、レオン・ミンクス、アントワーヌ・シモン、オルデンブルク公爵などの音楽も追加されています。
そのため、コンクールや発表会で踊られる第2幕のメドーラのVa(ソロの踊り)には、さまざまなバージョンがあります。
例えば、『ラ・バヤデール』のガムザッティのVa、『ドン・キホーテ』の森の女王のVa、『パキータ』のリシュアンのVaなどの音楽です。これらの音楽は、いずれもレオン・ミンクスの作曲です。
▼ 『海賊』よりメドーラのVa(音楽は『パキータ』リシュアンのVaと同じ)
3. バレエ『海賊』の原作はバイロンの長編物語詩『海賊』
ジョージ・ゴードン・バイロン
出典:Wikimedia Commons
バレエ『海賊』の原作は、イギリスの詩人 ジョージ・ゴードン・バイロン(1788年〜1824年)の長編物語詩『海賊』(1814年発表)です。
長編物語詩『海賊』は、発売当時のイギリスで1万部売れるほどのベストセラーだったといわれています。
バレエでは親友または姉妹として登場するメドーラとギュリナーラですが、原作では、コンラッドに恋する恋敵のようです。
岩波書店にて邦訳が出版されています。
4. バレエ『海賊』の演出家による違い
現在、バレエ『海賊』は、プティパ版をベースにさまざまな演出が登場しています。
代表的な演出をいくつか見ていきましょう。
4.1【初演】マジリエ版
バレエ『海賊』の初演は、1856年です。
ジョゼフ・マジリエ振付でパリ・オペラ座で上演されました。
マジリエは、パリ・オペラ座の元ダンサーで『ラ・シルフィード』のジェームズ、『ドナウの娘』などの初演を踊ったダンサーです。
初演の『海賊』は、第1幕が奴隷市場から始まるなど、現在知られているストーリーとは異なるようです。
メドゥーラ:C・ロザティ/コンラッド:D・セガレッリ(1856年)
出典:Wikimedia Commons
4.2 プティパ版
マリウス・プティパは1855年〜1899年にかけて『海賊』の改訂を重ねています。
現在、各バレエ団で上演されている『海賊』は、プティパの1899年の改訂版をベースにしたものです。
先述のとおり、プティパの改訂に際して、プーニやドリーブ、ミンクスなど複数の作曲家の音楽が追加されました。
4.3 ピョートル・グーセフ版
グーセフ版(1955年/68年)は、マリインスキーバレエ団がレパートリーとしている演出です。また、ミハイロフスキー・バレエ団(旧レニングラード国立バレエ)では、グーセフ版に基づいて改訂されたルジマトフ版を上演しています。
グーセフ版は、プティパの1899年版をもとにしているといわれています。
ストーリーは「1.3 バレエ『海賊』のストーリー」で紹介したとおりです。
グーセフ版では、初めてアリ役が登場しました。
▼ミハイロフスキー・バレエ グーセフ版に基づくルジマトフ版『海賊』
▼マリインスキー・バレエ グーセフ版『海賊』
4.4 ラトマンスキー版
アレクセイ・ラトマンスキー版の『海賊』は、現在ボリショイバレエ団がレパートリーとしています。(初演:2007年)
ラトマンスキー版はプティパの1863年改訂版をベースにしたものです。そのため、アリは登場しません。
制作にあたっては、衣装やセットなどが新調され、制作費はかなりの額になったとか。そのぶん豪華絢爛で見応えのある作品となっています。
▼ボリショイ・バレエ ラトマンスキー版『海賊』
4.5 セルゲイエフ版
セルゲイエフ版『海賊』は、ややこしいストーリーがわかりやすく整理され、スピーディーな展開となっているのが特徴です。
元々マリインスキーバレエのために作られましたが、現在ではABT(アメリカン・バレエ・シアター)がレパートリーとしています。
1999年の公演が収録されたDVDが販売されており、メドーラにジュリー・ケント、コンラッドにイーサン・スティーフェル、コンラッドの奴隷(アリ)にアンヘル・コレーラ、ランケデムにウラジミール・マラーホフなど、そうそうたるメンバーがキャスティングされています。
こちらのリンク(YouTube)から全編(1・2・3幕に分かれています)をご覧いただけます。
4.6 熊川版
日本のバレエ団では、熊川哲也が率いるKバレエ カンパニーの『海賊』が有名です。
熊川版では、メドーラとギュリナーラが姉妹の設定です。
また、高い跳躍が多いアリは熊川の十八番。そのため、熊川版ではほかの演出に比べてアリに焦点が当てられている印象です。
ラストシーンは、アリのコンラッドに対する忠誠心に涙する方も多いでしょう。下記のハイライトにはラストシーンも収められています。ぜひご覧ください。
▼ 熊川版『海賊』ハイライト
4.7 アンナ=マリー・ホームズ版
ホームズ版『海賊』は、イングリッシュ・ナショナル・バレエやミラノ・スカラ座、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)などがレパートリーとしている演出です。
2013年、イングリッシュ・ナショナル・バレエで初演されました。セルゲイエフ版をもとに改訂されており、テンポ良く物語が進むのが特徴です。
日本では東京バレエ団がレパートリーとしています。
▼ 東京バレエ団 ホームズ版『海賊』
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