バレエ『ドン・キホーテ』キトリのバリエーション#1 第1幕 ~踊り方のポイントや注意点~
バレエ『ドン・キホーテ』はコミカルで楽しく、公演数も多い人気作。なかでも、物語のヒロインであるキトリのバリエーションはコンクールや発表会でもよく踊られています。
今回はバレエ『ドン・キホーテ』に登場するキトリの1幕・2幕・3幕のバリエーションを3つの記事に分けてご紹介していきます。
踊り方のポイントや注意点などを知って、楽しくキトリのバリエーションを踊りましょう!
あらすじなど、作品の解説はこちらの記事へ!
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1. キトリのバリエーション 1幕
ドン・キホーテ第1幕のキトリのバリエーションは、スペイン・バルセロナの街中で街の人々に囲まれながらキトリが元気よく踊るシーンです。
素早く脚を上げたり、背中を反って大きなジャンプをしたり、連続回転で舞台を斜めに横断したりと、キトリの活発でエネルギッシュな人柄がよく表れています。
周囲で見ている人々もキトリの踊りに合わせて手を叩いたり、闘牛士たちがマントを使ってリズムを取ったりして、舞台全体が盛り上がります。
演出によっては、キトリがカスタネットを持ち、リズミカルに鳴らしながら踊ることもあります。
キトリのバリエーション(第1幕)の難易度・推奨年齢
バリエーションの長さは1分弱。
女性バリエーションの中ではかなり短い踊りですが、素早い動きに耐えうる強い体幹や連続回転などのテクニックが必要なバリエーションです。
難易度は高めで、中級者以上向きのバリエーションといえるでしょう。
また、振りをこなすだけの”単調な踊り”では、キトリの活発さや気の強さ、おてんばな様子が上手く表現できません。
筋力も十分にそなわり、作品や役柄をふまえた表現ができるようになる中学生以上から踊るのがおすすめです。
キトリのバリエーション(第1幕)の特徴
ドン・キホーテには、ヌレエフ版やバリシニコフ版などさまざまな演出がありますが、第1幕のキトリのバリエーションに関しては、振付の大きな違いはありません。(第1パートの回転の種類など、細かい違いはあります)
第1幕のキトリのバリエーションは3つのパートに分けられます。
● 第1パート ●
第1パートは、パ・ドゥ・シャ(「猫のステップ」という意味)から高く脚を上げ、回転し、パ・ド・ブレで下がり、もう一度同じ動き(パ・ドゥ・シャ〜パ・ド・ブレ)を繰り返します。
このときの回転は演出によって異なり、例えばヌレエフ版(パリ・オペラ座バレエ団)の場合、トゥシューズで立たずにステップを踏みながら回転したあと、グラン・ジュッテが入ります。
一方、カルロス・アコスタ版(英国ロイヤルバレエ団)の場合、ピケ・アン・デダンをします。
▼ヌレエフ版 第1パートの動き(動画1:02〜1:20頃)
● 第2パート ●
第2パートは、背中を反って大きくジャンプ(シソンヌ)をしたあと、アチチュードのポーズを軽く決めます。
もう一度大きくジャンプをしたあと、ドゥバン(前)に脚を出し、素早くロン・ド・ジャンプ・アン・レール(空中でつま先を回す動き)をして、一度ポーズ。
最後にもう一度大きくジャンプをして、舞台後方へ走って行きます。
▼ 英国ロイヤルバレエ団プリンシパル マリアネラ・ヌニェスの踊り(第2パート動画1:23〜1:34頃)
● 第3パート ●
最後の第3パートは、キトリのバリエーション(1幕)の大きな見せ場である連続回転です。
5番ポジションからピルエットを1回転ずつ連続して行いながら、舞台を斜めに横断します。
このパは日本では「ペアテ」または「フェアテ」「タン・フェッテ」などと呼ばれることが多いですが、本来は「リエゾン・ド・ピルエット」といいます。
16〜17回連続で回り、最後はダブル(2回転)を決めてポーズ!
最後のポーズはアチチュードで決め、そのまま舞台袖に走って行くことが多いですが、演出によってはシュス(ススー)で終わり、その場に留まる場合もあります。
▼ バリシニコフ版を踊るアメリカン・バレエ・シアター元プリンシパル シンシア・ハーヴェイ(第3パート 動画0:30〜)
2. キトリってどんな役?
キトリは、活発で明るく、街の人気者。美しくて勝ち気な性格で、街の人々を引きつける魅力があります。
そんなキトリですから、まずはあなた自身が心から楽しみ、堂々と踊ることが大切です。
笑顔を絶やさず、客席のほうを向くときは、誰か一人と目が合うような意識ではっきりと自分をアピールするように踊るとキトリの陽気な性格を表現できるでしょう。
3. 踊り方のポイント
キトリのバリエーション(1幕)の踊り方のポイントを3つのパートに分けて紹介します。
第1パート
第1パートは、つかみが大切です。
まず、動き出しのパ・ドゥ・シャは、脚を素早く抱え込み、切れよく飛ぶように意識しましょう。曲げた両足が一度空中でピタッと止まるようなイメージで飛ぶと、切れよく飛ぶことができます。
パ・ドゥ・シャのあとのドゥバンに入る前は、一度頭を下げるように上体を使いましょう。動きに緩急を付けられます。
回転は、スポットをしっかり決めて素早く回ります。力みすぎず、サラッと回ると、よりかっこよくなるので意識してみてください。
パ・ド・ブレは、下に打ち付けるのではなく、上でリズムを取るようにします。そうすることで、重くなく軽快に見えます。
第2パート
第2パートの見せ場は、背中を反らせたシソンヌです。
このジャンプは、どうしても後ろの脚に注目しがちですが、前の脚を張ることも忘れてはいけません。前の脚を張ることで、斜めのラインがキレイに出ます。
ロン・ド・ジャンプ・アン・レールをしたあとの伸ばした足は、少しタメてからポーズに持っていきましょう。リズムどおりに取るよりも、キトリの勝ち気な性格を表現できます。
すべての動きが終わり、舞台後方に走るときは、少しだけ脚を後ろに残しながら走るようにするとスパニッシュな動きに見せられます。
▼ キトリの走り方の例(動画0:31頃〜)
第3パート
第3パートは、連続ピルエット(リエゾン・ド・ピルエット)です。
このパは、まずなんと言ってもきちんと顔を付ける(スポットをつける)ことが大切です。スポットをつける位置を決めたら、絶対に目線をそらさずに1回転ずつ回っていきます。
また、リエゾン・ド・ピルエットを綺麗に決めるには、1回ずつ5番ポジションに戻すことが重要です。とても難しいのですが、アン・ドゥ・オールをほどかず、軸足(左足)に沿って右足をおろしていくことで5番ポジションに閉じやすくなります。
リエゾン・ド・ピルエットの失敗例として、回転が進むにつれて上半身と下半身がずれてくることが挙げられます。(主に上半身が先に回転してしまうことが多い)
これを防ぐために両肩・骨盤の外側(左右)を結んだ「スクエア」を崩さないことを意識しましょう。
上半身と下半身のズレを防ぎ、最後までリエゾン・ド・ピルエットが続くようになるはずです。
なお、斜めに進んでいかなければいけませんが、右足で進もうとすると重心が前に行き失敗の原因になるため、軸足である左足を前に進めるような意識で少しずつ進んでいきましょう。
まずは進まずにその場で連続して回転できるように練習する方法もおすすめです。何回か続けて回れるようになったら進む練習をしてみましょう。
すでに勢いが付いているため、最後のダブルは「まっすぐ立ち、顔を2回付けるだけ」という意識で十分です。
4. 踊る時はこんなことに気をつけよう
踊りのこと
キトリのバリエーション(1幕)は、まるで50メートル走のような踊りです。
短い踊りの中できちんと印象を残すために、ポーズをきっちり決めていきましょう。
特に、第1パートのドゥバンに上げた脚、第2パートの大きなジャンプとアチチュード、そのあとのポーズ、第3パートのリエゾン・ド・ピルエット中のルティレは一瞬止める意識を持つと、一つひとつのポーズがしっかり決まっていきます。
また、単調な踊りにならないよう、“タメ”を使って緩急を付けることも大切です。
余裕があれば、お客さんを観たり、バジルがいる方(下手前方)を観たりと目線も意識するとキトリらしさを表現できます。
からだのこと
小中学生の方が踊る場合、第2パートの大きなジャンプ(シソンヌ)を背中の柔らかさだけでこなそうとしがちです。背中の柔らかさだけで反ると、腰を痛める原因になりますので、腰椎だけで曲げるのではなく、胸椎も使って背中全体で反るよう意識しましょう。
※腰椎:背骨のうち胸椎の下、仙骨の上までの5つの骨を指す。(画像:左)
※胸椎:背骨のうち頸椎と腰椎の間にある12個の骨を指す。(画像:右)
5. まとめ
キトリのバリエーション(1幕)は、明るくてエネルギッシュ。まさにキトリの性格をそのまま表しているようなバリエーションです。
リエゾン・ド・ピルエットや大きなジャンプ(シソンヌ)など、難しいパートは多々ありますが、楽しんで踊ることでキトリらしい快活な踊りが表現できます。
ぜひ踊ることを楽しみつつ、キトリのバリエーションの練習に励んでくださいね!
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