ドラマティック・バレエの傑作『マノン』見どころや楽しみ方とは
バレエ『マノン』は、イギリスの振付家ケネス・マクミランが振り付けた「ドラマティック・バレエの傑作」といわれる作品です。
古典作品とは違い、人間の欲望や感情をありありと描いた“大人な作品”でもあります。
2024年2月には、世界最高峰のバレエ団 パリ・オペラ座バレエ団が『マノン』全3幕を上演予定です。本稿では、『マノン』のあらすじや見どころを紹介します。ぜひ公演前の予習としてお役立てください。
1 ドラマティック・バレエとは
ドラマティック・バレエとは、その名のとおり「演劇的なバレエ」のことです。
今回紹介する『マノン』のほかには、『ロミオとジュリエット』や『オネーギン』、『うたかたの恋』『椿姫』などがドラマティック・バレエに分類されます。
ドラマティック・バレエは、バレエ化される前に小説などの原作がある点が特徴です。一つひとつのステップが登場人物のセリフ・心情を表す役割を果たしており、言葉がなくとも感情やストーリーが伝わってきます。
また、古典作品『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』のような“おとぎ話”的な展開ではなく、現実的かつ人間味あふれるストーリーになっている点も特徴です。
2 第1章 ドラマティック・バレエ作品を世に送り出したケネス・マクミラン
ドラマティック・バレエ『マノン』は、イギリスの巨匠 ケネス・マクミランによって振り付けられました。
初演は1974年3月7日、英国ロイヤル・バレエ団にて。マクミランは、当時の芸術監督です。
まずは、マクミランの経歴について見ていきましょう。
2.1 ケネス・マクミランの紹介
マクミランは1929年、スコットランドで生まれました。
14歳でバレエを始めたのち、サドラーズ・ウェルズ・バレエスクール(現在のロイヤル・バレエスクール)でバレエを学びます。
1946年には、現在の英国ロイヤル・バレエ団がロイヤル・オペラハウスの専属バレエ団になった際に発足した新たなカンパニー「サドラーズ・ウェルズ・シアター・バレエ団」に入団。同バレエ団の創立メンバーとなります。
その後、ロイヤル・バレエ団の本拠地であるコヴェント・ガーデンへの移籍を挟みますが、再びサドラーズ・ウェルズ・シアター・バレエ団に戻り、振付活動を開始します。
振付が好評を得ると、バレエ学校時代の友人であるジョン・クランコが芸術監督を務めるシュツットガルト・バレエ団でも振付活動をおこないました。マクミランの代表作のひとつである『大地の歌』は、このときに創作されたものです。
なお、シュツットガルト・バレエ団で上演されたマクミラン版『大地の歌』初演には、当時同団のダンサーであったジョン・ノイマイヤーも出演しています。
ノイマイヤー自身も、2015年にパリ・オペラ座バレエ団のためにノイマイヤー版『大地の歌』を振り付けています。
2.2 現在のバレエ・ブームはドラマティック・バレエ作品によるところが大きい
ドラマティック・バレエでは、20世紀より前のロマンティック・バレエやクラシック・バレエには見られない、人間のリアリスティックな面が多々登場します。
たとえば『マノン』では、娼館が舞台となり、娼婦を買う男性や気を引こうとする娼婦の姿がありありと描かれています。第3幕では、衝撃的なショートヘアの女性罪人の姿も。
また『マノン』に先立って発表された『アナスタシア』第3幕でも、主人公アンナ・アンダーソン(自分は皇女・アナスタシアだと称する女性)は、頬がこけ、手入れされていないショートヘア姿で登場します。
きらびやかな世界からの墜落、『ロミオとジュリエット』のような燃えるような恋と悲劇的な別れ、『マノン』や『オネーギン』で見られる現実や欲望と愛の葛藤……。これらは、観客の心を強く揺さぶり、引きつけます。
貴族やおとぎ話の世界を描いた古典作品よりも、ドラマティック・バレエのほうが「共感できる部分が多い」「物語に没入できる」と感じる観客も多いでしょう。
マクミランやクランコ、ノイマイヤーなど20世紀以降の振付家によって誕生した「ドラマティック・バレエ」がバレエ作品の幅を広げ、現在のバレエ・ブームの一端を担っていることは間違いありません。
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