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プレビュー:シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』『椿姫』11月2日(土)〜11月10日(日) 東京文化会館

ドラマティック・バレエの決定版
絶対に見逃せない

現在のバレエ人気を牽引する2作品を
本家で見ることのできる奇跡

6年ぶりに来日するシュツットガルト・バレエ団。このカンパニーは1961年に英国ロイヤル・バレエ団の振付家だったジョン・クランコを芸術監督として招き、彼の創作した『ロミオとジュリエット』『じゃじゃ馬ならし』といった作品で、一気に世界レベルのトップ・カンパニーに躍り出ました。それは「シュツットガルトの奇跡」と言われています。

クランコ振付による『オネーギン』と、ハンブルク・バレエで存分に才能を発揮したジョン・ノイマイヤーがシュツットガルト・バレエ団のために振り付けた『椿姫』、このカンパニーにとっての伝家の宝刀2作品を鑑賞できる今回の来日公演はまさに事件、奇跡なのです。

どちらの作品もパ・ド・ドゥはガラ公演でよく踊られますが、日本にいて全幕を鑑賞できる機会は多くはありません。

世界のトップカンパニーのダンサーが踊ることを夢見る
『オネーギン』の見どころ

プーシキン原作の『オネーギン』。これをクランコはバレエ化しました。

田舎に暮らす清楚なタチヤーナと都会からやってきた憂いのあるオネーギンの出会い、そして時を経て公爵夫人となったタチヤーナとのペテルブルクでの再会……悲劇の結末までをバレエで描きます。無垢な少女から洗練され成熟した大人の女性になったタチヤーナと、初めの出会いで垢抜けない少女の初恋を軽くあしらい、後に後悔し惨めなさまを見せるオネーギン、二人の心の変遷がどうしてこんなに鮮やかに描かれるかに驚かれることでしょう。言葉を交わすことなく表情とダンスのみでここまで心情が伝わってくる、まさにドラマティック・バレエの代表というべき素晴らしい作品です。第1幕のタチヤーナがオネーギンにラブレターを書くシーンで踊られる「鏡のパ・ド・ドゥ」、第3幕の求愛の手紙を送ったオネーギンとそれを読み苦悩するタチヤーナと踊る「手紙のパ・ド・ドゥ」、この2つのパ・ド・ドゥは非常にスピードと緊張感をはらんでいて、ふたりの激情が伝わります。呼吸を忘れるほどです。

悪人がひとりも出てこない悲劇
『椿姫』見どころ


アレクサンドル・デュマ・フィスが書いた『椿姫』は、オペラはもちろん、何度も映画化されていますし、ミュージカル、演劇としても上演されています。19世紀パリが舞台、高級娼婦マルグリットと純情な青年アルマンとの悲恋を描いており、バレエ化もされています。バレエではジョン・ノイマイヤー版が特に人気が高く、やはりダンサーたちが踊ってみたいと憧れる作品です。シュツットガルト・バレエ団の芸術監督であったマリシア・ハイデのためにノイマイヤーが振付・演出をし、1978年に初演されました。音楽はショパンです。

全3幕で各幕、マルグリットとアルマンのパ・ド・ドゥがあります。第1幕のアルマンがマルグリットに熱烈な愛の告白をし、マルグリットが椿の花を渡す「青(鏡)のパ・ド・ドゥ」(使用曲は『ピアノ協奏曲第2番』第2楽章)。第2幕のマルグリットのパトロンである公爵の別荘でマルグリットが公爵との関係を断ち、アルマンとの愛に生きようとする「白のパ・ド・ドゥ」(使用曲は『ピアノ・ソナタ第3番』第3楽章)、そして第3幕の病が進み離れていることの真実を告げられないでいるマルグリットがアルマンの部屋を訪ね、拒絶するもののまたやり直せるのではないかと期待するアルマン、この二人が激しく愛を交わす「黒のパ・ド・ドゥ」(使用曲は『バラード第1番』)。

この3つのパ・ド・ドゥは踊られる状況をよく理解した上で鑑賞すると、二人の心の声が溢れ出てくるように感じられます。踊り分けることのできるダンサーの技量にも感心します。

ノイマイヤー版は不幸を予感させる哀しみがずっとベースにあり、そこでたびたび燃え上がる、けれども状況が変化していく中での二人の心情の変化を見事に表現しています。ショパン・ファンの方なら使用曲から二人の置かれている状況、心情が想像できるのではないでしょうか。選曲の素晴らしさも注目です。

さすが本家
見応えのあるダンサーばかり


自分のテクニックを存分に駆使して全身で役柄の感情を踊らなければならないこの2作品は、踊る者を選びます。ひとつのカンパニーでこれだけ踊れるダンサーが揃っているのは稀なこと。今回はベテランから若手まで魅力的なキャストが組まれており、どのキャストで鑑賞するか迷います。

エリサ・バデネス&フリーデマン・フォーゲルのペア。二人は『オネーギン』ではかつてオリガとレンスキーを踊っていました。特にフォーゲルのレンスキーは若くて一途、熱血な若者を演じフォーゲル=レンスキーというイメージが強くありました。年齢を重ね、オネーギンを踊るようになりすっかりオネーギンを自分のものとしています。この二人のパートナーシップは『椿姫』でも存分に発揮されます。どちらも初日に踊ります。はずせません。

アンナ・オサチェンコは『オネーギン』ではジェイソン・レイリーと、『椿姫』ではデヴィッド・ムーアと組みます。この男性二人も非常にレベルが高く、キャラクターをよく理解しています。ロシオ・アレマン&マルティ・パイシャは美しいペア。パイシャは前回の来日公演ではレンスキーを踊っていました。

そして若手としては、この夏世界バレエフェスティバルで来日したマッケンジー・ブラウンは『オネーギン』でオリガを、ガブリエル・フィレゲドはレンスキーを踊ります。いずれ二人はタチアーナ、オネーギンを踊るのかもしれませんね。注目です。

2作品とも
音楽と衣裳・舞台美術が秀逸


『オネーギン』の音楽はチャイコフスキーのオペラ『エフゲニー・オネーギン』は全く使用せずに、チャイコフスキーのさまざまな作品を集めて構成しています。これが実に効果的。

『椿姫』はヴェルディの『椿姫』の音楽をやはり全く使用していません。全編ショパンの作品が使用されています。使い方が絶妙で、2つのピアノ協奏曲ほか、使用されているショパンの曲を耳にすると、バレエシーンが思い浮かぶほど最高のマッチングなのです。

そして衣裳・舞台美術はどちらもドイツの舞台美術家、オペラ演出家のユルゲン・ローゼが手がけています。若い時にクランコ、ノイマイヤーと出会い、そこから生まれたこの2作品は至高の芸術作品となりました。シックな色使い、物語の世界観に忠実な美しい舞台美術を堪能してください。

今回の公演は各作品3回ずつ、計6公演行われます。全公演鑑賞するファンも多いことでしょう。ドラマティック・バレエの真髄に触れることのできる稀有な機会をどうぞお見逃しなく。
                          撮影Roman Novitzky / Stuttgart Ballet


シュツットガルト・バレエ団 2024年日本公演
「オネーギン」全3幕

開演
2024年11月2日(土) 14時
11月3日(日) 14時
11月4日(月・祝) 14時

「椿姫」プロローグ付全3幕
開演
2024年11月8日(金) 18時30分
11月9日(土) 14時
11月10日(日) 14時
会場:東京文化会館
チケット料金:26,000円~9,000円

詳しくは:NBS

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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