バレエ『ドン・キホーテ』キトリ(ドルシネア姫)のバリエーション#2 第2幕~踊り方のポイントや注意点~
ドン・キホーテ第2幕の夢の場で踊られる「ドルシネア姫のバリエーション」は、発表会やコンクールでも非常に人気です。
音楽に合わせて前半はしっとりと優雅に、後半は身体を大きく使って華やかに踊りましょう。
ドルシネア姫のバリエーションを4つのパートに分けて特徴やコツを解説します。踊る予定のある方は、ぜひ参考にしてみてください。
1. ドルシネア姫(キトリ)のバリエーション 2幕
ドルシネア姫は、自称騎士の老人 ドン・キホーテの理想の女性です。第2幕 夢の場では、ドルシネア姫が中心となって、森の女王やキューピッドたちと華やかな踊りを披露します。
ドルシネア姫とキトリは別人の設定ですが、ドルシネア姫もキトリ役のダンサーが踊ることが通常です。
ただし、ドルシネア姫は優雅なお姫様。第1幕や第3幕のキトリとは全く異なる踊り方ですので、意識して使い分けましょう。
ドルシネア姫(キトリ)のバリエーション(第2幕)の難易度・推奨年齢
中級者以上向けとして紹介されることの多いドルシネア姫のバリエーションですが、私自身はこのバリエーションの難易度は高いと考えています。
ドルシネア姫のバリエーションでは、フェッテ・アラベスクやトゥシューズで立ったまま行うバロネ(※)などが出てきます。身体を細かくコントロールする能力や高度なポワント技術、脚の強さなどが必要です。
2分前後と女性バリエーションの中でも比較的長いため、スタミナも必要でしょう。
ポワントでバリエーションを踊った経験が十分にあり、身体をしっかりコントロールできる中学生もしくは高校生以上が適していると思います。
※正式名称は「バロネ・サンプル・ドゥヴァン・スュル・ラ・ポアント」といいます
ドルシネア姫(キトリ)のバリエーション(第2幕)の特徴
ドルシネア姫のバリエーションを4つのパートに分けて、パ(動き)や音楽の特徴を解説します。
第1パート
▼第1パートの動き(動画0:15〜1:07)
第1パートは、最初の出から上手奥に走るまでのパートです。
下手から出てセンターでポーズしてから動き出します。
まずはエファセのアチチュードを決めたあと、ステップをはさみ、ルティレもしくはドゥバン・アチチュードからフェッテをしてアラベスクになります。その後は、軽くジャンプ(最初の脚はバットマン→あとの脚はデベロッペ)してポーズ。
これを3回繰り返します。
その後、下手前のほうにシュスをし、振り返って上手奥に走り、アッサンブレをしてシュスに立ちます。
第1パートの音楽は、ゆっくりと静かに始まります。ドルシネア姫の優雅さを象徴するように、丁寧なポワントワークを見せることが重要です。
第2パート
▼第2パートの動き(動画0:49〜1:15)
第2パートは、ポワントで立ったまま行うバロネ(バロネ・サンプル・ドゥヴァン・スュル・ラ・ポアント)です。
脚は細かくバロネ(動足)とホップ(軸足)をしながらも、上半身は優雅にゆっくりと動かなければいけません。
上半身と下半身が別の動きをし続けているため、派手な動きではないものの難易度が高いパートといえます。
バロネの最後にはダブル(足先を2回まわす)を入れ、下手前にシュスをしたあと振り返って、再び上手奥でシュスのポーズを取ります。
第3パート
▼第3パートの動き(動画1:03〜1:18)
第3パートでは、シソンヌから後ろの足をク・ドゥ・ピエ(シュル・ク・ドゥ・ピエ)に持って行き、アチチュードまたはアラベスクのポーズを取ります。
アチチュードとアラベスクのどちらを先に行うかは振付によって異なりますが「シソンヌ→アチチュード/アラベスク」を5回行い、最後の5回目ではアチチュード/アラベスクを長くキープすることがポイントです。
その後、センター前に走っていき、第4パートのマネージュのプレパレーションを行います。
第4パート
▼第4パートの動き(動画1:27〜1:44)
第4パートはピケ・アンデダンのマネージュのパターンです。
音に合わせて14回ピケ・アンデダンを行い、最後はグラン・パ・ドゥ・シャでそのまま袖に入るか、シェネからアラベスク→シュスでポーズなどのパターンがあります。
音楽がダイナミックになり、華やかにバリエーションを締めくくります。
2. ドルシネア姫ってどんな役?
このバリエーションが登場するのは第2幕 夢の場。ドン・キホーテの見ている夢の中にドルシネア姫が現れ、その優雅な踊りにうっとりと見惚れるシーンです。
ここで一度ドルシネア姫の人物像を確認しておきましょう。
前述のとおり、ドルシネア姫はドン・キホーテの理想の女性です。優雅で美しく、まさに姫のような存在。
活発でわがままな一面もあるキトリとは正反対です。
第1幕・第3幕のキトリのバリエーションは弾むように踊ることが重要ですが、ドルシネア姫のバリエーションでは”姫”であることを忘れず、大きな動きをしていても柔らかな上品さや優雅さをキープする必要があります。
3. 踊り方のポイント
4つのパートごとに、踊り方のポイントや失敗しやすい箇所、練習方法などを紹介します。
第1パート
第1パートで最も難しいのは、おそらくフェッテ・アラベスクです。
ポジションを正確に取らないと、アラベゴン(アラセゴンのように横に開いてしまったアラベスク)になってしまいます。
ルティレまたはドゥバン・アチチュードをしたあと、両足をしっかりアンドゥオールしてアラベスクまで持って行くことが重要です。
最初は、バーを持ってフェッテ・アラベスクの練習を行うとよいでしょう。
また、動足を一気にアラベスクに持って行くと、アンドゥオールが抜けてしまい、動足の膝が下を向いてしまいます。
ルティレまたはドゥバン・アチチュードのあとは、一度アラセゴンをとおりアラベスクになるよう意識しましょう。
第2パート
第2パートのポワントで立ったまま行うバロネ(バロネ・サンプル・ドゥヴァン・スュル・ラ・ポアント)を成功させるコツは主に2つあります。
1つ目はポワントの立ち方です。通常どおり、足首を伸ばして立つと、甲側に乗っかってしまい、上手くホップできません。このパのときは、足首は完全に伸ばさずに曲げて立ちます。
まずは動足を動かさず、軸足の練習から始めましょう。両足もしくは片足で足首を曲げて立ち、ホップする練習をしてみてください。
2つ目は進み方です。進むことを意識しすぎると、アンドゥオールがほどけてしまい上手くいきません。バロネの足を伸ばすタイミングで少しずつ進むようにします。慣れてくると進めるようになってくるため、最初はあまり進めなくてもOKと考えましょう。
また、上半身や腕は、下半身に関係なくなめらかに動かすことが重要です。バロネが問題なくできるようになるまでは、上半身・腕の動きは付けずに練習するとよいでしょう。
第3パート
第3パートは、ドルシネア姫のバリエーションの中で最も華やかなパートです。身体を大きく動かすことを意識しましょう。
シソンヌのあとのアチチュードまたはアラベスクでしっかり止まるためには、その前のク・ドゥ・ピエでしっかりプリエすることを意識してみてください。
また、シソンヌの後ろ足をク・ドゥ・ピエに戻す際に、つま先が先行するのはNG。アンドゥオールが抜けやすくなり、出っ尻のような姿になってしまいます。
大腿骨の骨頭(脚の付け根)が支点になるイメージでク・ドゥ・ピエに戻しましょう。アンドゥオールが抜けずにク・ドゥ・ピエに戻せます。
さらに、アチチュードまたはアラベスクをキープするためには、軸足も重要です。ポワントのプラットホーム(床と接している部分)を床に突き刺すようなイメージで使うと軸足が強くなり、長くキープできます。
第4パート
マネージュを綺麗に回るためには、顔(目線)の付け方が大切です。
14回のピケ・アンデダンで1つの円を描くことを考慮し、教室または舞台のどこに顔を付けるかあらかじめ決めておきましょう。
また、進行方向に向かって軸足がきちんと出ていることも重要です。軸足のアンドゥオールが不十分だとすぐに進行方向に軸足を出すことができず、上手く進めません。軸足をしっかりとアンドゥオールし、進行方向にスパッと出せるよう意識しましょう。
4. 踊る時はこんなことに気をつけよう
踊りのこと
ドルシネア姫を踊る際は、たとえシソンヌやマネージュのような大きな動きになったとしても優雅さを忘れないことが重要です。
そのためには、常に上半身をなめらかに動かし、カクカクした動きにならないよう気をつけましょう。
また、ドルシネア姫が踊っているのは「夢の場」。ドン・キホーテの理想の女性であることを意識して、微笑むような表情で踊るとよいでしょう。
からだのこと
ドルシネア姫は、アチチュードやアラベスクなど脚を後ろに上げるパが多いバリエーションです。練習後は背中や腰を伸ばすなどのケアを行いましょう。
5. まとめ
ドルシネア姫のバリエーションは、快活な踊りが多いドン・キホーテの中では珍しく、優雅でしっとりした踊りです。
常に上半身や腕のなめらかさを意識し、ドルシネア姫の優雅な雰囲気が出るよう練習してみてください。
また、第3パート・第4パートは華やかな見せ場なので、疲れて失速しないよう体力を付けることも大切です。
ぜひ本記事で紹介したコツや練習方法を取り入れて、優雅なドルシネア姫が踊れるよう頑張ってください!
▼第1幕のバリエーションについてはこちらで紹介しています↓
▼バレエ『ドン・キホーテ』の作品紹介はこちら↓
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