プレビュー:映画『ECMレコード サウンズ&サイレンス』
映画『ECMレコード サウンズ&サイレンス』10月18日(金)公開
創立55周年を迎えたECMレコードの創立者、マンフレート・アイヒャーの世界中を駆け巡り創作する現場を追うロード・ムービー
エンタテインメントのヒット・チャートを賑わす音楽とは一線を画するECMレコード
ジャンルを問わず、美しい音楽には耳を奪われます。世界中で奏でられているそういった音楽には作曲されていてタイトルがあり、演奏する人がいます。そしてそれは実はジャズや現代音楽と言われている音楽だったりもします。マンフレート・アイヒャーという人はそういう音楽を探し出し、録音してアルバムとしてこの世に出し続けるプロデューサーです。
彼は1969年にECMレコードを設立しました。
チック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエバー』(1972年)、キース・ジャレットの全編即興演奏のライブを収めた『ザ・ケルン・コンサート』(1975年)などのほか、ゲイリー・バートン、ポール・ブレイ、パット・メセニー、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ等、錚々たるジャズ・ミュージシャンがECMレーベルからアルバムを発表しました。
さらに、1984年には「ECM New Series」のリリースをスタートさせました。これによりECMはジャズのレーベルにとどまらず、現代音楽、アンビエント、トラッド、ワールドミュージックと扱う領域を一気に広げたのです。ここで一躍スター(およそ本人には相応しくない肩書きですが)となったアーティストが作曲家、アルヴォ・ペルトです。彼の作品、『フラトレス』『タブラ・ラサ』『鏡の中の鏡』などはバレエ、ダンスによく使用されています。特に『鏡の中の鏡』は大人気ですね。ペルトの録音風景は本作品にも出てきます。
この「ECM New Series」からはヤン・ガルバレク&ヒリヤード・アンサンブル(ガルバレクはジャズ・サックス奏者、ヒリヤード・アンサンブルは、もともとは中世・ルネサンス音楽を歌う男声カルテット)による『オフィチウム』というアルバムが生まれました。このアルバムは当時ECMレコードの最大のヒットとなりました。
ECMは、現代音楽の分野でも目の離せないレーベルとなったのです。
また、洗練された音作りはジャケットにも反映されています。ECMレーベルのアルバムジャケットはそれだけを集めた写真集が出版されるほどハイセンスなのです。映画でもジャケット写真を選ぶ様子が少し出てきます。
「静寂の次に美しい音楽」を求めてどこまでも
アイヒャーの求める音楽は、声高に叫んでアピールするような類の音楽ではありません。ピュアで静謐で透明、でもそういった音楽を探す彼は実にエネルギッシュです。これまで創作の現場が紹介されることはありませんでした。
ギリシャやデンマーク、アルゼンチンなどで録音されている様子はとても興味深いです。また、キャリアの長いミュージシャンたちの言葉にはとても深みがあり心に残ります。
ECMレーベルの音楽は、誰が作ったか、演奏しているかを知らなくても純粋に音楽を聴くだけで心を奪われます。このレーベルに関しては熱心なファンが多く、ものすごく知識のある人もいます。けれどもなにも知らなくてもアイヒャーが手がける音楽はどうしようもなく印象的で奥底の秘めたエネルギーを感じさせ、魂が浄化されるような気持ちになります。そういう音楽の生まれる現場をこの映画で目撃できる、それはとても幸せな体験だといえます。
映画のタイトルには “Unterwegs mit Manfred Eicher”(マンフレート・アイヒャーとの旅)という言葉が添えられています。
彼の旅についていって美しい音楽を追い求めましょう。
詳しくは:『ECMレコード サウンズ&サイレンス』
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