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ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク『トリスタンとイゾルデ』:オペラ『トリスタンとイゾルデ』の原作紹介~オペラの原作#10

目次

『トリスタンとイゾルデ』のあらすじ

『トリスタンとイゾルデ』あらすじ
1.第一章 序章 第二章 リヴァリーンとブランシェフルール 第三章 忠義者ルーアル 第四章 誘拐 第五章 狩猟 第六章 若き芸術家 

第一章 序章

物語の冒頭でゴットフリート・フォン・シュトラースブルクは、この物語を企図した理由についてふれています。それは「高貴な心の人々、とくに恋の苦悩ゆえに胸を痛めている人に慰めを提供するためだ」と語っています。

主人公トリスタンとイゾルデは愛の喜びと苦しみを味わい、そればかりか愛ゆえに死も甘受した――。

彼らの死は彼らの生とともに、高貴な人々の思い出の中に生き続け、心の糧になるようにという願いが掲げられています。

また、この物語は※ブリタニエのトマの『トリスタン物語』を参考にしたとも書かれています。

※12世紀の詩人。古フランス語の詩『トリスタン』を書いたことで知られる。

第二章 リヴァリーンとブランシェフルール

物語はパルメニーエの若い領主リヴァリーンの登場で幕を上げます。

リヴァリーンは、ブルターニュの大公モルガーンと争っていました。戦いは一進一退でしたが、何とか和平を結ぶことができました。

リヴァリーンは、故国を主馬頭(しゅめのかみ)であるルーアルに任せ、騎士としての心構えや精神を学ぶため、誉れ高いイングランドのマルケ王の宮廷に出向きます。

王はリヴァリーンを歓迎し、五月の祝宴に招きます。ここで催された騎士の試合で、リヴァリーンは類まれな実力を発揮し、マルケ王の妹ブランシェフルールの心を捉えます。

二人はやがて恋仲となります。

リヴァリーンは、イングランドを襲った敵軍との戦いで傷を負い、ブランシェフルールは変装をして、リヴァリーンの元に行き、傷ついた彼を癒します。

モルガーンが再び、侵攻を始めたという報を受けたリヴァリーンは、身ごもったブランシェフルールとともに帰国し、結婚します。それもつかの間、リヴァリーンは、熾烈な戦いで最期を遂げ、ブランシェフルールは深い哀しみの中、男児を出産し亡くなります。この男児こそが物語の主人公であるトリスタンです。

第三章 忠義者ルーアル

リヴァリーンとブランシェフルールとの間に生まれた子は、忠義心が篤いルーアルが引き取り、自らの子として育てます。

洗礼時に、子どもは「悲しみ」を意味するトリスタンという名前が授けられます。

トリスタンは、健やかに育ち、外国で語学と騎士たるにふさわしい武芸を修め、故郷に帰ってきます。そのときトリスタンは十四歳になっていました。

第四章 誘拐

ある日、パルメーニエの港にノルウェーの商船がやってきます。

養父ルーアルは、トリスタンに狩猟用の鷹を買ってやるために、二人の息子とともに商船を訪れます。そこで、トリスタンは商人たちがチェスに興じていることに目をとめ、参加させてもらうことにします。

チェスに熱中している姿を見たルーアルは、家庭教師のクルヴェナルを置いて、先に帰宅します。

ノルウェー人たちは、トリスタンの優雅さと才能に驚嘆し、策略を用いて誘拐しようとします。トリスタンとクルナヴェルが、謀に気づいたときはすでに船は離陸していました。

クルヴェナルだけは一人帰還することが許され、ルーアルに事の次第を報告します。

一方、トリスタンを乗せた船は大嵐に見舞われていました。神の怒りだと思った船員たちは、トリスタンをコーンウォールに置いていくことにしました。すると、嵐はすっかりおさまりました。

トリスタンは見知らぬ土地を彷徨い、二人の巡礼者と出会います。トリスタンは土地の人間を装って、彼らと共に、コーンウォールの都ティンタヨーエルに向けて出発します。

第五章 狩猟

トリスタンと二人の巡礼者は、狩猟をしているマルケ王の一団と出くわします。トリスタンは巡礼者たちに「自分が探していたのはこの人たちなのです」と告げ、巡礼者たちと別れます。

一団は、ちょうど捕まえた鹿を捌いているところでした。トリスタンは狩猟団の前に進み、パルメーニエ式の捌き方を披露します。それを見た一団は驚嘆し、マルケ王にお目通りする機会が与えられます。

マルケ王は、一団から少年の技術の確かさと美徳を訊き、すぐにトリスタンを新しい狩人頭に抜擢します。

第六章 若き芸術家

トリスタンはすぐに、マルケ王から深い愛情と厚い信頼を寄せられます。

ある日、ウェールズから竪琴弾きがやってきて王の前で演奏したとき、トリスタンは演奏した楽曲の名前を言い当て、音楽の心得があることがわかります。ウェールズ人演奏者の勧めで、彼は竪琴の演奏を披露し、また王の所望で、数々の曲をブルターニュ語、ウェールズ語、ラテン語で歌い、その場に居合わせた聴衆に絶賛されます。

王は感服し、この若き芸術家に友情の誓いを立てます。

『トリスタンとイゾルデ』あらすじ
2.第七章 再会 第八章 トリスタンの刀礼 第九章 帰国と復讎 第十章 モーロルト 第十一章 タントリス 第十二章 求婚の旅

第七章 再会

忠義者ルーアンは、浮浪者となりながら行方不明のトリスタンを訪ね歩いていました。

旅立ちから四年、デンマークの地で、トリスタンを知る巡礼者と出会い、ルーアンはコーンウォルへ向かいます。

ティンタヨーエルで再開を果たすことができた二人は喜び、トリスタンはみすぼらしい恰好をしたままの養父をマルケ王の前に案内します。そこでルーアルは、涙ながらにトリスタンの出生の秘密を告白します。トリスタンは今まで実の親だと思っていたルーアンと自分に血のつながりがないこと、すでに両親が亡くなっていることを知り嘆き悲しみます。マルケ王も、妹が生んだ子どもがトリスタンだと知って驚き、トリスタンの親替わりになろうと申し出ます。

第八章 トリスタンの刀礼

トリスタンには三十人の従者が与えられ、騎士として生きていくことになります。

マルケ王は甥に剣と楯を与え、騎士の晴れ舞台である刀礼の儀式を執り行い、紅白騎馬試合に向かいます。

第九章 帰国と復讎

戦死した父のことが頭から離れないトリスタンは、帰郷を決意します。ルーアルとともにパルメーニエに帰ったトリスタンは養母フロレーテと再会を喜び、国民たちにも祝福されます。

復讐心が消えないトリスタンは、家臣たちとともにブルターニュに騎行し、仇であるモルガーン公を発見します。

はじめは騎士の礼をもって迎えられますが、モルガーンから「リヴァリーンとブランシェフルールの情事の結果生まれた庶出の子」という侮辱を受け、トリスタンは剣を抜き一太刀でモルガーンを切り捨てます。

その結果、両軍の間で戦いが行われますが、ルーアルの加勢を得てトリスタンは勝者となります。

その後、トリスタンは養父ルーアンと伯父マルケ王との間で揺れ動きますが、領国をルーアンに与え、自分はクルナヴェルとともにコーンウォールへ旅立ちます。

第十章 モーロルト

トリスタンは、アイルランドの大公モーロルトが、傲慢なアイルランド王グルムーンの名において、コーンウォールから三十人あまりの貴族の子どもを貢ぎとして要求していることを耳にします。

トリスタンは、この要求を受け入れている貴族たちを激しく非難し、強大なモーロルトと一騎打ちすることを申し出ます。

マルケ王はそれを必死に止めますが、決闘は三日後に海上の小島で行うことに決まってしまいます。

決闘が行われ、トリスタンは太ももに毒を塗られた剣の一撃を受けて深手を負ってしまいます。傷つきながらも、トリスタンは攻撃に転じ、モーロルトの頭部に致命傷を与え勝利します。

刃先は折れ、モーロルトの頭蓋に残り、悲嘆に暮れる王妃イゾルデ(主人公イゾルデの母)は、仇の剣先を保管します。

騎士モルオルトと決闘するトリスタン 参照:Wikimedia Commons

第十一章 タントリス

トリスタンが負った毒の傷は国中のどの医者にも治すことができませんでした。この傷は王妃であるイゾルデにしか治すことができないと言っていたモーロルトの言葉が本当であったことを知ったトリスタンは、身分を偽ってアイルランドに船出します。

ダブリンの港でトリスタンは従者と別れ、一人小舟に乗りこみ船上で竪琴を弾きます。

町に住む人たちは楽人と称するトリスタンを発見し、彼から冒険譚と竪琴の演奏を聴き驚嘆します。やつれた楽人を哀れに思った町の人たちは次々と医者に診させますが回復することはありませんでした。

天才的な竪琴の腕を持つ哀れな楽人の噂は一人の僧から王妃の耳に届き、その楽人を宮廷に連れてくるようにと従者に言いつけます。トリスタンはタントリスと偽名を使い、王妃イゾルデと王女イゾルデの前で竪琴を演奏し、感動した王妃は治療を引き受けます。やがて傷は癒え、王女イゾルデの家庭教師として宮廷に留まることになります。

第十二章 求婚の旅

敵国の宮廷に留まり続け、身分がバレてしまったら命がないと考えたトリスタンは、暇をもらい帰国します。

トリスタンの帰国と回復は宮廷一同の喜びでしたが、中にはマルケ王の寵愛を一身に受けるトリスタンに対して、よく思わない者たちもいました。

王の顧問官たちはマルケ王に、妻を娶り世継ぎをもうけられるようにと勧めますが、王は、トリスタンを世継ぎにしているから不要と断ります。このことで憎しみはさらに増し、トリスタンは宮廷を去ろうと考えだします。

そこで顧問官たちは、トリスタンが美しいと礼賛する噂のイゾルデ姫との結婚を王に進言し、敵国の王女に求婚するという難題をトリスタンに押しつけます。

『トリスタンとイゾルデ』あらすじ
3.第十三章 竜との戦い 第十四章 こぼれ刃 第十五章 証拠 第十六章 媚薬 第十七章 告白 第十八章 ブランゲーネ

第十三章 竜との戦い

当時、アイルランドは悪しき竜に苦しめられていました。そこで国王は「竜を退治した者には娘を与える」と宣言していました。トリスタンは、敵国の姫にマルケ王が求婚するためには竜を倒すしかないと考え、竜の棲家である谷間に向かいます。

竜との戦いは壮絶でした。乗っていた馬は竜の体当たりによって一撃で絶命し、自身も大きく傷つきます。ですが、槍で突いた渾身の一撃が竜の喉に刺さり、深手を負った竜はやがて倒れ、トリスタンは勝利を収めることができました。

竜を倒したトリスタンは、証拠として舌を切り取って懐に入れますが、疲労困憊だったことと、竜の舌が放つ毒気のため気を失ってしまいます。

そのころ、イゾルデ姫を我がものにしてやろうと考えていた内膳頭の男は、偶然、倒れている竜を発見します。自分の手柄とするため内膳頭は、竜の首を切り落とし、自分が倒したと触れ回ります。

内膳頭は切り取った竜の頭を持って国王に姫との結婚を迫ります。

王妃と王女は「なぜ、こんな男と……」と嘆き悲しみ、竜退治が行われた現場まで馬を走らせます。すると、現場の近くで気絶している楽人タントリスを発見します。

彼女たちは人目を避けて介抱し、姫との結婚を話し合う会議の席で、王妃は「本当に竜を倒した人を私は知っています」と宣言します。内膳頭は「それは嘘だ!」と突っぱね、果し合いを申し出ます。

第十四章 こぼれ刃

イゾルデ姫は、小姓に整備させたタントリスの武器の中に、刃こぼれがある剣を発見します。異常な胸騒ぎがした姫は、モーロルトに致命傷を与えた剣先を持ってきて、二つを合わせてみます。すると、剣はぴったり合うことがわかりました。彼女はタントリスは仇であるトリスタンだと確信し、入浴中のトリスタンに刃を向けます。そこに王妃がやってきて姫を止めるのですが、王妃自身も仇であることを知り、激高してしまいます。

諍いを止めたのは王妃の身内ブランゲーネでした。ここでトリスタンは、イゾルデ姫をマルク王の妻として迎えたいという意向を伝えます。

第十五章 証拠

果し合いが定められた日がやってきました。

内膳頭は王の前で、竜の頭を証拠に、退治したのは自分だと主張します。トリスタンは「この頭の中に舌があれば自分の権利を放棄しよう」と申し出ます。当然、舌は見つからず、トリスタンは内膳頭の前で竜の舌を見せます。裁きはトリスタンの勝ちに決まりますが、内膳頭は負けを認めません。ですが、果し合いまでには発展することなく、嘲笑の声を受けて内膳頭は退散していきます。

第十六章 媚薬

アイルランド国王は、マルケ王の和解に賛同します。

トリスタンとマルケ王の家臣たちは、引き出物としてコーンウォールの国を与え、イゾルデ姫が全イングランドの王妃であることを誓います。

トリスタンが帰国の準備をしている間、王妃は媚薬を用意し、賢明なブランゲーネに預けます。

祖国を離れることになってしまったイゾルデ姫は船の上で悲嘆に暮れていました。トリスタンは慰めようとしますが、仇であるトリスタンに心を開こうとしません。

船旅に慣れない姫のため、トリスタンは途中で船を丘に近づけて、休憩することにします。そのときトリスタンは侍女に飲み物を持ってこさせ、二人はガラスに入っていた媚薬をワインだと思って飲んでしまいます。そのとき、ブランゲーネが現れ、二人が飲んでしまったものが媚薬であることに気づいて顔色を失ってしまいます。

媚薬を飲んだ二人の心は激しい恋の炎に燃え上がっていきます。

船の中で媚薬を飲んでしまったトリスタンとイゾルデ 参照:Wikimedia Commons

十七章 告白

航海中、二人は不幸と幸福に挟まれて苦しんでいました。

ある夜、二人は愛の女神によって心と体を結びつけ、しばし幸福な日々を送ります。ですが、コーンウォールが近づいてくると、もはや彼女が純潔ではないことに思い悩み始めます。

第十八章 ブランゲーネ

イゾルデの思いつきで、初夜の日にはブランゲーネを代役としてマルケ王の寝室に行ってもらおうと提案します。それを聞いたブランゲーネは言葉を失ってしまいますが、自らの不注意で起きたことだからと、やむなくこれに同意します。

結婚初夜、計画通りブランゲーネはイゾルデの洋服を纏い、マルケ王にバレることなく代役を果たします。その後、イゾルデは国王からも、国民からも尊敬され、誰一人トリスタンとの仲を疑うことなく日々が過ぎていきます。

ですが、イゾルデは唯一真相を知っているブランゲーネが真相を漏らすのでは、と疑い、二人の小姓にブランゲーネの暗殺を命じます。

小姓は命令を遂行しようとしますが、ブランゲーネの純真さに心打たれ、計画は未遂に終わります。

イゾルデは、自分がしたことの恐ろしさに狼狽しますが、ブランゲーネが帰ってくると、自分の過ちを悔い、二人は深く信頼していくようになります。

『トリスタンとイゾルデ』あらすじ
4.第十九章 ロッテとハープ 第二十章 マリョドー 第二十一章 知恵くらべ 第二十二章 小人のメロート 第二十三章 待ち伏せされた密会 第二十四章 熱鉄の裁き

第十九章 ロッテとハープ

ある日、マルケ王のもとにアイルランドの名門の貴族ガンディーンがロッテ(Rotte 竪琴型の弦楽器)を背負って姿を見せます。

彼は、礼儀正しく、美しく、裕福で、力も優れていて、アイルランド中の人がその勇敢さを噂するほどの人物でした。

マルケ王が、ガンディーンに背中に乗せているロッテで何か弾いてもらいたいと頼むと、代償として何をしてくれるのか? と訊き返します。王は何でも望みのものを提供すると言うと、ガンディーンはすぐさま演奏し、王妃イゾルデを所望します。

王はそれだけは駄目だと断りますが、ガンディーンは半ば力づくでイゾルデをさらっていってしまいます。

狩猟から帰ってきたトリスタンはこの事件のあらましを聞き、すぐに馬を走らせます。

ハープを持ってガンディーンのもとに駆けつけると、「実はわたしはアイルランドの者でして、一緒に船に乗せてもらえませんか?」と声をかけます。

ガンディーンは、君の抱えているハープで、泣き止まないイゾルデを泣き止ますことができたら連れて行ってあげよう。それに、上等な着物も進呈しよう、と約束します。

トリスタンはハープを弾き終えると、イゾルデを馬に乗せて立ち去ります。

「阿呆のガンディーン。君がロッテでマルク王を騙したものを、わたしはハープでさらっていくのだ。友よ、君はこの中で見つけた一番立派な着物をもらったのだ」

一杯食わされたガンディーンは、歯ぎしりして悔しがります。

第二十章 マリョドー

マルケ王の第一の内膳頭マリョドーは、トリスタンの友人で彼らは住居をともにしていました。

二人は就寝前に気楽な会話をするのが常で、この日もよもやま話に花を咲かせていました。トリスタンはマリョドーが寝入ったのを見計らって、イゾルデの元に行くため、家を出ていきます。

いつもは目を覚まさないマリョドーですが、恐ろしい夢を見たせいで起きてしまいます。今見た夢をトリスタンに聞かせてやろうとベッドを見ると、トリスタンがいません。マリョドーは外に出てみることにします。外は雪が積もっており、月あかりによってトリスタンの足跡がくっきり残っていました。

その足跡を辿っていくと、イゾルデの部屋に二人がいることを発見してしまいます。密かにイゾルデに恋心を抱いていたマリョドーは胸を痛め、恨みの思いを持って部屋に戻ります。

後日、マリョドーは国王に、トリスタンとイゾルデにゆゆしい噂が流れている、と忠告します。

第二十一章 知恵くらべ

マルケ王は王妃に、しばし城を空けると偽って、その間、誰の庇護のもとにありたいかと訊ねます。

イゾルデが無邪気にトリスタンの名前を出したことで、王の邪推は深まります。

これを聞いたブランゲーネは、きっとマリュドーの入れ知恵に違いないと看破し、イゾルデに知恵を授けます。

イゾルデは、王が留守にしている間、仇であるトリスタンの庇護は受けたくないと言います。

今度は、マリョドーからの入れ知恵で、それならばトリスタンをパルメーニエに帰らせようと言います。

イゾルデは、「仇から離れられるのは嬉しく思い、感謝します。けれど、もし、そんなことをしたら、国民はどう思うでしょう。きっと王妃の仕業に違いないと思うに決まっています。それに、彼に代わるような人間がいるでしょうか? ですが、あなたが決めたことには従います」と言います。

これを聞いた王はイゾルデは無実であると確信します。

第二十二章 小人のメロート

マリョドーはトリスタンとイゾルデを監視し、探りを入れるために小人のメロートを偵察に使います。メロートは絶えず二人の様子を伺い、二人の表情やお互いを見る目つきで彼らが恋の渦中にあることを確信し、このことを国王に告げます。

事の真相がはっきりするまで、王はトリスタンにイゾルデに近づかないように忠告します。

離れていることに耐えられない二人を助けるため、ブランゲーネは策を講じます。

彼女はトリスタンに、イゾルデの部屋のそばを流れる川に「T」と「I」と書いた板切れを流して合図とするように助言し、その助言に従って、二人は泉のほとりで誰にも見つからないように逢引を重ねるようになります。

ある晩、運悪くその場をメロートに発見されてしまいますが、イゾルデの正体は知られずに済みます。

トリスタンとイゾルデの様子を窺うマルク王 参照:Wikimedia Commons

第二十三章 待ち伏せされた密会

メロートは、泉での密会の件をマルケ王に報告し、真夜中に待ち伏せをしましょうと進言します。

王とメロートはオリーブの木に登り、トリスタンが川に木片を流しているところを目撃します。

そのとき、トリスタンは川に映る樹上の二人に気づいてしまいます。

このままではまずい。トリスタンはイゾルデが現れても近づこうとせず、その場に留まります。イゾルデもその様子を見て、危険を察知し、一芝居打ちます。

ここに来たのは、ブランゲーネの勧めで来たに過ぎないということ。

私が愛しているのは、初めて身を捧げた人だけであること。

なぜか、私たちが不義を働いていると噂されているということ。

これらを離れた距離から大声で叫び、イゾルデは部屋に戻っていきます。

それを樹上で見ていたマルケ王は、潔白を確信して、メロートをきつく叱責します。

第二十四章 熱鉄の裁き

マルケ王はある日、自分とトリスタンとイゾルデに※瀉血を行わせます。

※瀉血とは、人体の血液を外部に排出させることで症状の改善を求める治療法の一つである。古くは中世ヨーロッパ、さらに近代のヨーロッパやアメリカ合衆国の医師たちに熱心に信じられ、さかんに行われた。

同じ部屋で休養をとっていたトリスタンを残して、マルケ王はミサに出かけていきます。

その際、メロートは床に穀粉をまいておきました。トリスタンはそれらを踏まぬように、イゾルデの寝台に飛び移ろうとするのですが、血を抜いたばかりだったから、力んだ衝撃で出血してしまいます。

ミサから戻って来た王は、穀粉の上に足跡はないものの、寝床についている血痕を見て、またもや疑念が沸き起こります。

王は疑念を晴らすため貴族の助言を得て、ロンドンで会議を開きます。イゾルデは大僧正の勧めに従い、身のあかしを証明することを申し出ます。

王は「熱鉄の裁き」を要求し、六週間後に行われることになります。

この神明裁判は、熱された鉄球を手で持ち上げて潔白を証明するというもので、嘘をついている者は大やけどを負い、嘘をついていない者は熱さを感じることなくは運ぶことができるというものでした。

当日、イゾルデはボロを纏い巡礼者に変装したトリスタンに船から岸まで運んでもらいます。その際、彼は転倒し、イゾルデと抱き合う恰好になります。

イゾルデは裁きの場で「私は、先ほどの巡礼者を除けば夫以外の誰にも触れさせたことはない」と宣言します。彼女はその後、涼しい顔で鉄球を運び、王の疑惑は取り除かれることになります。

『トリスタンとイゾルデ』あらすじ
5.第二十五章 子犬プッティクリュ― 第二十六章 追放 第二十七章 愛の洞窟 第二十八章 発覚と和解 二十九章 別離 第三十章 白い手のイゾルデ 終章 愛の死

第二十五章 子犬プッティクリュ―

イゾルデの裁判があった日、トリスタンはイゾルデを送った後、そのままイングランドを去って、スワーレス国にあるギラーン大公の宮廷に赴きます。
年若く朗らかなギラーンはトリスタンとすぐに仲良くなり、彼に妖精の国アヴェルーンから贈られた子犬プッティクリューを紹介します。
色とりどりに輝く子犬の首につけられた鈴の音からは美しい音が鳴り、その音を聴いているとトリスタンの憂いや悩みはたちどころに消えていきました。
トリスタンは、この子犬をイゾルデのために手に入れれないものかと考えますが、ギラーンがとても大切にしている子犬ですから手放すことは考えられません。
そのとき、国境近くに済む巨人ウルガーンがやって来て貢物を要求します。トリスタンはギラーンのために巨人と戦い、二度にわたる激しい格闘の末に巨人を倒します。
トリスタンは勝利の代償として子犬をもらい、すぐにイングランドのイゾルデに贈ります。しかし、イゾルデは子犬を見ても、恋の気持ちが膨れ上がりばかりで、喜びに浸ることができず、子犬の首から鈴をもぎ取ってしまいます。

第二十六章 追放

トリスタンとイゾルデは再び宮廷で暮らし始めるのですが、マルケ王の胸からは、まだ猜疑心が消えていませんでした。
悩みと怒りに取り憑かれた王は、とうとう二人を宮廷から追放してしまいます。

第二十七章 愛の洞窟

宮廷を追い出されたトリスタンとイゾルデは、従者としてクルナヴェルを連れて荒野を彷徨います。
二日後、トリスタンが以前から知っていた山中の洞窟に辿り着きます。そこは異教徒の時代に巨人たちが作った洞窟で、美しい造形と見事な装飾が施され、近くには泉が湧き出ているなど、隠れて住むにはうってつけの場所でした。
二人はクルナヴェルに「わたしたちはアイルランドに帰ったと伝えてくれ」と伝言を頼み、一人宮廷に帰し、二人だけの生活が始まります。
愛の洞窟は不思議な場所でした。
ここにいると飢えを感じることもなく、お互いの愛を養分にして、健やかに暮らすことができました。

第二十八章 発覚と和解

ある日、マルケ王は気晴らしのため猟に出かけます。珍しい鹿を見つけた一行は追跡をしますが、愛の洞窟付近で見失ってしまいます。
トリスタンとイゾルデで外の騒ぎを聞いて、自分たちの居場所が知れることを恐れます。
翌朝も狩りが続けられていたことで、トリスタンは一計を案じます。
彼らはお互い離れて横になり、その間に抜き身の剣を置き、眠りにつきます。
洞窟を発見した狩人頭は、窓から中を覗いて美しい二人がいることに驚きます。この件を報告すると、すぐに王はやってきて、中にいるのがトリスタンとイゾルデであることを認めます。
離れて眠っている姿と抜き身の剣を見て、王は喜び、また悲しみます。王は差し込む光がイゾルデの白い皮膚を損ねないように窓に草や花を被せて立ち去ります。

二十九章 別離

マルケ王はクルナヴェルを使者として、トリスタンとイゾルデのもとに向かわせ、二人を宮廷に連れ戻します。
王は妃が戻って来たことに喜びますが、嫉妬と猜疑心はいまだにくすぶっています。


ある暑い昼下がりでした。イゾルデは庭の木陰に寝床を用意させ、トリスタンと身を寄せ合っていました。
運悪くそこに王がやってきて、二人が眠っている姿を発見してしまいます。トリスタンは目を覚まして、去っていく王の後ろ姿を見てしまいます。
動転したトリスタンはイゾルデを起こし、急いで別れを告げます。彼女は愛の証として指輪をトリスタンに渡します。
王が顧問官たちを連れて戻って来たときにはもはやトリスタンは去った後でした。

その後、トリスタンはノルマンディーからドイツに向かい、悲しみを紛らわすように戦いに明け暮れ、数々の武勲を立てていきます。
トリスタンと別れたイゾルデは悲嘆の日々を送ります。

第三十章 白い手のイゾルデ

トリスタンは祖国パルメーニエに帰ります。

養父のルーアンと養母のフロレーテに会えることを楽しみにしていたのですが、二人はすでに亡くなっていました。

悲しむトリスタンを養父母の息子たちは快く迎え、しばらくこの地に留まります。

そのころ、ブルターニュとイングランドの間に位置する大公国アルンデールで戦争が行われていることを知り、トリスタンはかの地に出発します。

ここでトリスタンは、アルンデールの大公ヨヴェリーンの息子カーエディーンと固い友情を結び、ともに戦います。ルーアルの息子たちの援助もあり、戦いに勝利すると、トリスタンの名声は国の内外で高まります。

カーエディーンには白い手のイゾルデと呼ばれる美しい妹がいました。白い手のイゾルデは、英雄トリスタンに恋心を抱き、トリスタンはその名前と彼女の美しさから徐々に惹かれていきます。

トリスタンは一人になると、白い手のイゾルデに惹かれていることを恥じ、不実を責めます。ですが、国に留まってほしいと願うカーエディーンと、白い手のイゾルデの魅力によって結婚することを決めてしまいます。

式が行われその夜でした。床に入ろうとしたとき、愛する恋人からもらった指輪が落ち、愛の記憶が甦っていきます。トリスタンは妻となった白い手のイゾルデには決して手を触れまいと決心します。

終章 愛の死

トリスタンは狩猟中に、小トリスタンという若者に出会い、無法者にさらわれた恋人を救出するため援助してくれと頼まれます。

トリスタンは若者の願いを聞き入れ、恋人を救出に行き、無法者を倒すことができるのですが、トリスタンは敵の毒槍によって重症を負ってしまいます。

誰もこの傷を治すことができないのを知り、トリスタンはカーエディーンに指輪を託し、恋人を連れてきてもらうよう、また、もし、イゾルデが来てくれたなら船に白い帆を、来てくれなかったなら黒い帆を上げるようにとも伝えます。

それを盗み聞きしていた白い手のイゾルデは凍りつき、怒りと復讐心に燃え上がります。

カーエディーンはマルケ王の王宮で、イゾルデにこっそりと指輪を見せ、トリスタンが重症なこと、会いに来てもらいたい旨を告げます。

イゾルデは王宮を抜け出し、カーエディーンたちとともにトリスタンが待つ地へ向かいます。

そのころ、トリスタンの苦痛はつのり、命の火は消えかかっていました。

「ねえ、あなた」

白い手のイゾルデはトリスタンに言います。

「あなたの船が帰ってきました」

病人は全身を震わせながら帆の色を訊ねます。

白い手のイゾルデは「黒です」と答えました。それを聞いたトリスタンは、悲嘆に打ちのめされ、絶望の中でイゾルデの名前を三回呼び、亡くなりました。

到着したイゾルデは、街中が悲しみに包まれていることを見て、愛する人が逝ってしまったことを知ります。

イゾルデは恋人が待つ王宮に入ると、一滴の涙も見せず、横たわるトリスタンの亡骸をしっかりと腕に抱きかかえ、やさしく口づけをします。すると彼女の意識はなくなり、恋人が待つ場所に旅立っていきました。

彼は彼女へのあこがれのために死に、彼女は援助に間に合わなかった傷心のために死にました。トリスタンは愛のために、イゾルデは愛の悲しみのために死んだのです。

トリスタンとイゾルデ ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク

参考文献

参考文献 トリスタンとイゾルデ (中世ドイツ文学叢書(2) 郁文堂 ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク 石川敬三 訳


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1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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