ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク『トリスタンとイゾルデ』:オペラ『トリスタンとイゾルデ』の原作紹介~オペラの原作#10
まとめ ファンタジーの原点
「悲しみ」という名前を背負って生まれたトリスタンは、その名の通り悲しみの人生を生きました。
生まれたとき両親は亡く、結ばれてはいけない女性と恋に落ち、最期は深い悲しみの中で逝ってしまいます。
この物語はきっと〝悲劇〟なのでしょう。ですが、序章で書かれているように〝彼らの死は彼らの生とともに、高貴な人々の思い出の中に生き続け〟ています。
悲しみは、やがて美しい物語として芽吹きわたしたちを癒す糧となりました。
『トリスタンとイゾルデ』には魔法こそは出てきませんが、中世を舞台にして勇猛な騎士が竜や巨人を倒し、美しい姫が毒や傷を癒す。剣や槍、媚薬や愛の洞窟など、現代を生きる私たちが思い描くファンタジーの要素が数多く描かれます。
一つの原作を持たない『トリスタンとイゾルデ』は、当時を生きる人々の空想が生み出した物語です。武勇に優れ、芸術に明るいトリスタンが、愛に生き愛によって死ぬのは、騎士としての理想が投影されたからでしょう。
中世ヨーロッパの精神ともいうべき、この物語は、小説、絵画、演劇、音楽、映画や漫画、アニメなど、さまざまな作品でそのモチーフが取り入れられ、現代でも多くの人々に愛され、親しまれています。
人間はどの時代であっても、空想(ファンタジー)することが必要だと教えてくれる作品です。
原作とオペラの違い
オペラ『トリスタンとイゾルデ』には竜や巨人を倒すエピソードは出てきません。父リヴァリーンの物語も割愛され、闘う騎士のトリスタンというよりは、ロマンス溢れる青年としてのトリスタンが強調されています。原作は、騎士の冒険譚と恋を、オペラでは、エロス(生)とタナトス(死)が描かれた官能的な悲恋として描かれています。
原作叙事詩との大きな違いは、媚薬を飲むシーンではないでしょうか。オペラでは心中が目的で杯を飲み交わすのですが、叙事詩では船旅の疲れを癒す気晴らしの一杯として描かれます。
これは、ワーグナーが愛(死)を飲み込む宿命的な二人を、ドラマチックに描くための演出だったのではないでしょうか。
『トリスタンとイゾルデ』を観れば、西洋人の恋愛観の根本をうかがい知ることができると思います。是非、時代を超えた至高の愛の物語を味わってみてください。
関連公演
リヒャルト・ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』
予定上映時間:約5時間45分(休憩含む)
会場:新国立劇場 オペラパレス
【指 揮】大野和士
【演 出】デイヴィッド・マクヴィカー
【美術・衣裳】ロバート・ジョーンズ
【照 明】ポール・コンスタブル
【振 付】アンドリュー・ジョージ
【再演演出】三浦安浩
【舞台監督】須藤清香
【トリスタン】トルステン・ケール
【マルケ王】ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
【イゾルデ】リエネ・キンチャ
【クルヴェナール】エギルス・シリンス
【メロート】秋谷直之
【ブランゲーネ】藤村実穂子
【牧童】青地英幸
【舵取り】駒田敏章
【若い船乗りの声】村上公太
ほか
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京都交響楽団
【公演日程】
2024年3月14日(木)16:00
2024年3月17日(日)14:00
2024年3月20日(水・祝)14:00
2024年3月23日(土)14:00
2024年3月26日(火)14:00
2024年3月29日(金)14:00
詳しくは:→トリスタンとイゾルデ新国立劇場オペラ
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