ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク『トリスタンとイゾルデ』:オペラ『トリスタンとイゾルデ』の原作紹介~オペラの原作#10
ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクについて
ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク 参照:Wikimedia Commons
ゴットフリート・フォン・シュトラースブルクについては確かなことがわかっていません。
『イーヴェイン』や『哀れなハインリッヒ』の作者ハルトマン・フォン・アウエ、『パルチヴァール』や『ヴィレハルム』の作者ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハと共に、中世ドイツの三大叙事詩人と呼ばれていたとされますが、出生や没年など、生涯の多くが謎に包まれています。
確かなことは、ラテン語とフランス語に並外れて熟達していたこと、神学の知識に深く精通していたこと、中世盛期の詩人の中で突出した学識があったということは間違いなさそうです。
リヒャルト・ワーグナーについて
リヒャルト・ワーグナー 参照:Wikimedia Commons
ヴィルヘルム・リヒャルト・ワーグナーは1813年ザクセン王国のライプツィヒに生まれました。
ロマン派歌劇を極めたワーグナーは「楽劇王」の名でも知られます。
自作歌劇の台本のほとんどを自分で執筆するなど、文筆家としても知られたワーグナーは、音楽家だけではなく、哲学者のフリードリヒ・ニーチェや詩人のシャルル・ボードレールとも親交があったようです。だからでしょう。ワーグナーが残した作品には人間存在の深淵を覗くかのような文学的な深みが感じられます。
代表作は、歌劇『タンホイザー』、歌劇『ローエングリン』、楽劇 『ニーベルングの指輪』、楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』など。
『トリスタンとイゾルデ』を作曲した経緯についてワーグナーは〝あらゆる夢の中でも最も美しいこの主題のために一つの記念碑を打ち立て、そこで愛の耽溺のきわみを表現したかった〟と語っています。
命を賭して誰かを愛すること、究極ともいえる恋愛を描いたワーグナーは、音楽史に残る永遠の存在となりました。
関連作品
『トリスタン・イズー物語』 ジョセフ・ベディエ編
ジョセフ・ベディエ 参照:Wikimedia Commons
現在、比較的容易に手に入るのが岩波文庫から出版されているジョセフ・ベディエ編の『トリスタン・イズー物語』です。
内容としては、今回ご紹介したゴットフリート版と大きな違いはありません。というのも、ベディエは、ブリテンのトマや、ベルールの系統(流布本系)、アインハルト・フォン・オベルク、ゴットフリートの詩などを参照し、編んだものだからです。章立ても十九章+エピローグと、スタイリッシュに刈り込まれています。いわば、こちらの『トリスタン』は、19世紀生まれのベディエが、中世の詩人たちの残した物語をよみがえらせた、〝決定版〟といっていいのではないでしょうか?
『アーサー王物語』
『トリスタンとイゾルデ』は、『散文のトリスタン』としてロマンス作品としてまとめられ、後に『アーサー王物語』に組み込まれていきます。
15世紀にトマス・マロリーがまとめたアーサー王の物語には、円卓の騎士物語、トリスタンとイゾルデ伝説、聖杯伝説など、騎士たちが活躍する冒険とロマンスが描かれます。
この物語でトリスタンは、人気の高いランスロットと並ぶ重要なキャラクターとして描かれます。
岩にささった剣(エクスカリバー)を抜くエピソードや、騎士や魔法、妖精が登場する世界観は、ファンタジー作品やアニメ、テレビゲームなどに多くの影響を与えました。
アーサー王と円卓の騎士 参照:Wikimedia Commons
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