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ウルトラシリーズとクラシック音楽① ウルトラセブン最終話「史上最大の侵略 後編」×シューマン『ピアノ協奏曲イ短調』 シン・ウルトラマン便乗短期連載

人生を変える音楽演出
~ディヌ・リパッティとシューマン、ウルトラセブンの数奇な符合~

演出、演技、もっと言えばそこまでの47話分のドラマの積み重ねもあっての感動なので、こればかりは実物でないと伝えきれません。

ぜひとも実際に映像を観てもらいたい……そこで、どれだけの感動を味わえるかの例に、この演出のために人生ががらりと変わった人を紹介します。

音楽之友社などで活躍した音楽ライター・編集者の青山通です。

彼は、ウルトラセブン最終回がきっかけで音楽の道に進みました。ウルトラセブン最終回に端を発した音楽との出会いを本にしており、またウルトラシリーズを通じた音楽についての著書が複数あります。

青山は、まだインターネットどころかCDすらない時代に、衝撃を受けたこの曲がシューマンの『ピアノ協奏曲』だと知ってレコードを手に入れます。ですが「あの時の音楽はこれじゃない」と感じ、そこからレコードを漁ることで、演奏家によって同じ曲がまるで違う姿を見せることに気づいたそうです。

青山が最初に買ったレコードのルービンシュタイン版。青山曰く「シュワーン……ポロン、ポロン、ポロン……」という感じ
偉大なピアニストの演奏だけれど、当時は目当ての演奏でなかったために偽物扱いをしちゃったとか

リパッティ&カラヤンによるシューマン『ピアノ協奏曲イ短調』

そうしてついに、ウルトラセブン最終話で使われていた演奏を見つけます。
それは、指揮ヘルベルト・フォン・カラヤン、ピアノはディヌ・リパッティによる演奏でした。

ウルトラセブンで使われたリパッティ版。青山曰く「ジャン!ダダーンダダンダダンダダン……」という感じ


ディヌ・リパッティ|Dinu Lipatti

ディヌ・リパッティ 出典:Wikimedia Commons


リパッティの演奏は他の演奏家よりも激しい印象で、他の人の演奏と比べると、正体を告白するシーンの衝撃を現すにはこれしかないと思わせるものでした。

また、リパッティは悪性リンパ腫のため33歳という若さで早世してしまうのですが、この演奏のレコーディングが行われたのは31歳の時。
この時にはリパッティは、病気が判明しており、放射線治療などを受け闘病しながら、残り僅かの命を燃やしていました。

そんなリパッティの演奏は、奇しくも同じく弱りきった命を燃やして決戦に臨むウルトラセブンと重なるところがあったのかもしれません。


ロベルト・シューマン|Robert Schumann

シューマンとクララ 出典:Wikimedia Commons


使われたシューマンのピアノ協奏曲それ自体も辛苦と愛の中で生まれています。
この曲は1845年完成、1846年に初演されているのですが、その時にピアノを務めたのはシューマンの妻クララ。クララはシューマンの音楽の師ヴィークの娘で、ヴィークに交際に猛反対されていたのを掻い潜っての大恋愛を経て結婚しています。

また、この曲が完成する直前の1844年、シューマンは過労や経済的なストレスからの精神病に陥って、治療を目的にライプツィヒからドレスデンへの転居をしています。

シューマンとクララ、ダンとアンヌに共通する壁が立ちふさがる恋、そして過労に弱った時期のシューマンとウルトラセブン。こじつけのようですが、この2つの符合も曲とドラマをシンクロさせているように見えます。


リパッティのレコードを見つけるまでの経験が、青山を音楽の道へ導きました。
ウルトラセブンの音楽演出の素晴らしさが、1人のファンの音楽人生を彩りあるものに変えたのです。

さて、ファンの人生を揺り動かすほどの名演出を行った音楽担当は、冬木透という方です。
昭和ウルトラシリーズの大半の音楽を作曲したり、選曲してきた音楽家です。

次回はこの冬木透がアクターとしても出演した、音楽が主役になる回を紹介します。お楽しみに!


紹介している楽曲や映像はこちら


参考文献
青山通(2020年)『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』新潮文庫


オペラハーツの編集とライターを兼任。 小中でピアノ教室に通い、中高では吹奏楽部で打楽器を担当した程度の演奏経験。 クラシック以外にロック、EDM、ボカロ、ゲーム音楽なども好んで聴く。

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