ジェノヴァが舞台の大河ドラマ、ヴェルディのオペラ『シモン・ボッカネグラ』
3.『シモン・ボッカネグラ』あらすじ~ジェノヴァの海に響く父娘の悲劇~
オペラ『シモン・ボッカネグラ』は、社会的弱者を主人公にした「中期三大傑作」(『リゴレット』、『イル・トロヴァトーレ』、『椿姫』)の後にくる作品。つまり、歴史的英雄を主人公にした路線に戻ったことになります。
これは、英雄的な人物の中にもリアルな人間のドラマを構成することができるという、ヴェルディの自信の表れ。登場人物の誰もが意志と信念を貫き通す潔さ、誇りを持って人生に立ち向かう勇敢さを持ち、悲劇でありながら観る者に力を与えるオペラです。
そして音楽の格調高さが、オペラ『シモン・ボッカネグラ』の悲劇性を際立たせます。ドラマと緊密に結びついたアリア、魂が呼応する二重唱、精緻なオーケストレーション。何よりジェノヴァの「海」を描写する比類ない美しさは必聴です!
3.1.オペラ『シモン・ボッカネグラ』あらすじ プロローグ
1481年頃のジェノヴァの風景 出典:Wikimedia Commons
【14世紀中期の北イタリア、ジェノヴァ】
ジェノヴァ共和国は貴族派と平民派が対立。平民派のパオロは、元海賊のシモン・ボッカネグラを総督候補に推薦していました。シモンは貴族派フィエスコの娘マリアと恋におち、女児をもうけていました。シモンとの恋仲を認めないフィエスコは、マリアを幽閉。シモンはフィエスコに結婚の許しを得ようとしますが、フィエスコは2人の間に生まれた子どもについて尋ねます(二重唱「そのかわいい娘は海辺の見知らぬ人の間で育ちました」)。フィエスコは、女児を引き渡すことを和解条件とします。しかし、子どもは行方不明。フィエスコはシモンに絶縁を宣言します。そんな中、マリアは死んでしまいます。娘の死を嘆くフィエスコ(フィエスコ「悲しみに引き裂かれた父の心は」)。シモンは総督に選出されたその日に、マリアの死を知ります。
3.2.オペラ『シモン・ボッカネグラ』あらすじ 第1幕
改訂版スカラ座初演時のセットデザイン(ジローラモ・マニャーニ画) 出典:Wikimedia Commons
【第1場】
25年後、シモンとマリアの娘はアメーリアと名付けられ、ジェノヴァの有力貴族グリマルディ伯爵家の養女になっていました(アメーリア「暁に星と海は微笑み」)。そして、グリマルディ家の当主が亡くなって後は、アンドレーアという謎の老人が親代わりになっていました。アメーリアはアンドレーアから、本当のグリマルディ家令嬢が亡くなった日に拾われた孤児だと聞かされていました。アメーリアには、ガブリエーレという恋人がいます(二重唱「空の青さをごらんください」)。グリマルディ家もガブリエーレのアドルノ家も、シモンと対立する貴族派の家柄でした。
ある日グリマルディ家を訪れたシモンは、アメーリアと話すうちに彼女が実の娘マリアであることを知ります。父娘は再会を喜びます(二重唱「貧しい一人の女に~娘よ!その名を呼ぶだけで胸が躍る」)。しかし、その事実は伏せておくことにしました。一方パオロは、グリマルディ家の財産を狙ってアメーリアとの結婚を画策しますが、シモンに引きとめられます。引き下がらぬパオロはアメーリアを誘拐。
【第2場】
ヴェネチアとの和平を模索する議会で、平和を訴え演説するシモン(シモン「平民たちよ!貴族たちよ!」)。ガブリエーレとアンドレーアが総督反対派を率いて乱入。ガブリエーレは、アメーリア誘拐の首謀者はシモンだと思い込んで襲いかかります。そこに逃れてきたアメーリアが、ガブリエーレを制し、真犯人はこの中にいるとほのめかします。シモンはパオロに、真犯人への呪いをかけさせ、暴徒の処置を任せます。
3.3.オペラ『シモン・ボッカネグラ』あらすじ 第2幕
改訂版上演時のシモンの衣装デザイン 出典:Wikimedia Commons
パオロはガブリエーレとアンドレーアに、シモン暗殺をそそのかします。アンドレーアは拒絶したため牢に留め置かれますが、ガブリエーレはアメーリアが総督に愛人にされていると吹き込まれ、激しい怒りに燃えます(ガブリエーレ「わが心に炎が燃える」)。さらにパオロは、シモンの水差しに毒を仕掛けます。
アメーリアは、シモンにガブリエーレとの愛を告白します。政敵を愛する娘を思い、一人になり水差しから毒入りの水を飲んで眠り込むシモン。剣を持って斬りかかるガブリエーレを、アメーリアが止めます。2人が親子であることを知らされ、後悔したガブリエーレはシモンに忠誠を誓います(三重唱「あなたは彼女の父上、アメーリア、許しておくれ」)。
3.4.オペラ『シモン・ボッカネグラ』あらすじ 第3幕
ジェノヴァ総督邸として使われたサン・ジョルジョ宮殿 出典:Wikimedia Commons
総督の宮殿。パオロは反乱の罪で死罪に。パオロの仕掛けた毒が回り始めたシモンが、瀕死の状態で現れます(シモン「慰めてくれ、海のそよ風よ」)。釈放されたアンドレーアはシモンに向かって、自分は死んだマリアの父フィエスコであると明かします。シモンは25年前の和解条件を思い出し、アメーリアこそマリアの遺児であると告げます。フィエスコはシモンと和解(二重唱「神の御声に涙を流す」)。シモンは、ガブリエーレを時期総督にするよう遺言し、アメーリアの腕の中で息絶えます。
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