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プレビュー:映画 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24『アンドレア・シェニエ』9月20日(金)~26日(木)公開

パッパーノ、音楽監督として最後の公演
さすがのカウフマン

シーズン最後でありパッパーノ音楽監督最後の舞台

2023/24シーズン最後の作品は『アンドレ・シェニエ』です。2002年から音楽監督を務めてきたアントニオ・パッパーノの、監督として最後に指揮した舞台です。最後を飾るにふさわしく、ヨナス・カウフマン、ソンドラ・ラドヴァノフスキーという大スターを迎え記憶に残るパフォーマンスとなりました。

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革命と三角関係 愛し合う二人は進んで断頭台へ

イタリアのオペラ作曲家、ウンベルト・ジョルダーノの代表作である『アンドレ・シェニエ』は1896年ミラノ・スカラ座で初演されました。マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』、レオンカヴァッロの『道化師』などとともにヴェリズモ・オペラの代表作です。

頻繁に上演されるオペラではないので、あらすじをご紹介します。

実在したフランスの詩人アンドレ(アンドレアはイタリア語表記)・シェニエを主人公に、フランス革命の中、伯爵令嬢マッダレーナ・ディ・コワニーとコワニー家の召使カルロ・ジェラールとの三角関係を描いています。3人の関係は、ジェラールは昔からマッダレーナが好き、マッダレーナはアンドレアが好き、そしてマッダレーナとアンドレアは両思いとなり、革命によって力をつけたジェラールが横槍を入れる、という展開です。


第1幕
コワニー家でパーティが開かれます。招かれたアンドレアはマッダレーナに「愛」という言葉を入れて即興詩をリクエストします。アンドレアは詩の中で社会的弱者へ眼差しを向け、貴族社会を揶揄する内容を朗誦します。そしてマッダレーナに「あなたは『愛』を知らない」と言います。マッダレーナはアンドレアに謝罪しその場を立ち去ります。そのパーティにジェラールが呼び寄せた飢えに苦しむ貧民が乱入してきます。ジェラールは召使の制服を脱ぎ捨てて貴族を批判し、貧民と共に屋敷を出て行ってしまいます。


第2幕 
パーティから5年後、マッダレーナの母は民衆に殺されてしまい、マッダレーナはパリ市内に身を隠しています。フランス革命の恐怖政治に不安を感じたアンドレアはパリを離れようとしており、一方、ジェラールは革命家として力をつけ、行方不明になったマッダレーナを密偵を使って探しています。娼婦となりマッダレーナを支えている召使のベルシは、アンドレアに恋したマッダレーナのために彼に接触し、二人を再会させます。二人はすぐに熱烈な恋人関係になるのですが、そこにジェラールが現れ、アンドレアと決闘に。ジェラールが深手を負い、アンドレアは逃げ去ります。


第3幕
舞台は革命裁判所の大広間。ジェラールは密偵からアンドレアが逮捕され、マッダレーナも事実を知っているはずと言われます。そして彼女は彼の命乞いのためにあなたのところへ訪れてくるだろうから、そこで自分のものにしてしまえとそそのかされます。ジェラールはマッダレーナを自分のものにするべくアンドレアの虚偽の告発状を書きます。マッダレーナが現れジェラールは自分の思いを告げたものの、マッダレーナはもし自分の身を捧げてアンドレアが助かるならかまわないと言います。彼女の献身に心を打たれたジェラールはアンドレアを救うと約束します。しかし裁判は大混乱。結局アンドレアは死刑宣告されてしまいます。


第4幕
早朝、監獄の中、死刑を待つアンドレア。マッダレーナは看守を買収し同じ日に死刑となるレグリエーという女性になりすまし監獄に入ります。二人は愛を確かめ合い、ともに死ねる喜びを歌います。そして看守から名前を呼ばれ、二人は喜んでギロチン台へと向かうのでした。

ちなみに、実在のアンドレ・シェニエが断頭台にのぼったのは1794年7月25日。7月27日にテルミドールのクーデターでロベスピエールは逮捕、一旦監獄を出て市民に蜂起を呼びかけたものの国民衛兵に逮捕され、28日にギロチンで処刑されました。アンドレがあと3日生き延びられれば、このオペラはハッピーエンドだったのかもしれないですね。

カウフマンの魅力全開
圧巻のラドヴァノフスキー

パッパーノの監督最後の舞台を飾るにふさわしく、夢のキャストが実現しました。

この作品は男性が主人公、つまりカウフマンの歌唱が存分に楽しめるのです。第1幕の詩の朗誦場面「ある日青空を眺めて」、第4幕の人生最後の詩を詠む「5月のある美しい日のように」がテノールのアリアです。お聞き逃しのないよう。

それに対してソプラノのアリアはひとつしかありません。第3幕、ジェラールに対して歌う「なくなった母が」。ラドヴァノフスキーが心震える素晴らしい歌唱を披露してくれています。

アンドレアとマッダレーナの重唱は第2幕、再会した二人が互いの思いを歌う「愛の二重唱」、そしてラスト、ギロチン台へ向かう前に歌う二重唱はものすごい迫力です。オペラ作品で愛し合う二人の二重唱はたくさんありますが、これほど情熱的、などという言葉では足りないほどの激情が表現されていることは滅多にありません。

また、ジェラールが第3幕でアンドレアの虚偽の告発状を書き、革命のためと言いながら自分の恋心を優先させ人を死に追いやろうとしていることへの自嘲、でもやっぱりマッダレーナが好き、という複雑な思いを歌う「祖国を裏切るもの」。このソロを歌ったバリトンのアマルトゥブシン・エンクバートは昨年ローマ歌劇場の来日公演で初来日し、『トスカ』のジェルモンを歌いました。今回もこのアリアに限らず、全編素晴らしいパフォーマンスを見せてくれています。

時代背景に忠実な舞台美術、衣裳のデイヴィッド・マクヴィカーの演出(再演演出はトーマス・ガスリー)で、物語に自然に深く入り込めます。

時代背景がフランス革命ということもあるせいか、この作品は想像以上に激しくて、熱い熱いアンドレアとマッダレーナの愛の物語になっています。オペラでは、革命より愛の方が重要なのだと感心します。夢のキャストの舞台、劇場でぜひ鑑賞してください。

9月20日(金)~26日(木) TOHOシネマズ日本橋他 一週間限定公開
英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマシーズン2023/24『アンドレ・シェニエ』

開演
各劇場による

チケット料金
一般・シニア 3,700円
学生・小人 2,500円
詳しくは:東宝東和

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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