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レビュー:モナコ公国モンテカルロ・バレエ団『じゃじゃ馬馴らし』2022年11月11日(金)東京文化会館

モナコ公国モンテカルロ・バレエ団『じゃじゃ馬馴らし』
2022年11月11日(金)東京文化会館

7年ぶりの来日!マイヨーの描くスタイリッシュなドタバタ喜劇
美しくハッピーな大人のバレエ

マイヨーの手兵、モンテカルロ・バレエのメンバーによる「じゃじゃ馬馴らし」
それはそれは軽やかでおしゃれ。これこそマイヨーの真骨頂

照明、舞台、ダンサー、すべてが圧倒的に美しい

(c)Kiyonori Hasegawa

マイヨーが『じゃじゃ馬馴らし』を振り付けたのは、元々はボリショイ・バレエのためで、2014年に初演された。

「夫が妻を調教する」というテーマが現代に受け入れられるか、さらにバレエ作品としては不朽の名作、ジョン・クランコ版がある今、この作品を取り上げることはチャレンジングなこと。
しかしライブビューイングでボリショイ・バレエによるパフォーマンスを見た時、その洗練されっぷりに痺れた。また全編ショスタコーヴィチの作品を使用していることにも驚かされた。

ようやく今回、自身のカンパニーのダンサーによるライブ公演を体験することができたのだ。

何本か立っている白い柱と階段など、シンプルな舞台だ。照明は基調の青に蛍光色のような明るい白がマッチしており、この照明が舞台の洗練された印象の秘密かもと思えた。
美しい体のダンサーたち、そしてショスタコーヴィチの音楽、すべてが見たことのない景色だった。まるでセンセーショナルなファッションショーを見ているような美しさで、見惚れてしまった。

これだけキリリと清潔で美しい舞台だと静謐な悲劇が繰り広げられそうだが、楽しい喜劇! 美しい人たちだけが住む世界の日常を一瞬垣間見てしまったかのようだった。

進化しているダンサー

(c)Kiyonori Hasegawa

キャタリーナ(エカテリーナ・ペティナ)とビアンカ(ルー・ベイン)の姉妹、そして女家庭教師(小池ミモザ)のパワフルで色気も感じさせる女性陣が目を引くのは当然として、ペトルーチオ(マテイユ・ウルバン)、父親バプティスタ(クリスティアン・ツヴォルジャンスキ)、ホーテンショー(シモーネ・トリブナ)はじめ求婚者たちも含めた男性陣が断然カッコ良く、見せ場もきっちり決めており心躍った。

男性ダンサーの見栄えのよさは特筆すべきで、激しくダイナミックな動きも軽々こなし、衣裳もよく似合っていた。役柄を楽しんでいる風なところに好感が持てた。

ドタバタはヒステリックなマイムなどは抑え気味で、スピーディな動きで表現。特に男女ペアのアクロバティックなステップには目を奪われた。

マイヨーはダンサーを美しく見せるセンスが抜群で、舞台で踊る誰もがとてもきれいに見えた。

おしゃれなショスタコーヴィチ

Dmitrij Dmitrijevič Šostakovič (Дми́трий Дми́триевич Шостако́вич)

ドミートリイ・ショスタコーヴィチ 出典:Wikimedia Commons

この作品で最も注目すべきなのは音楽の使い方だと思う。全編ショスタコーヴィチ。エンディングの大団円での『タヒチ・トロット(二人でお茶を)』は予想できたが、映画音楽作品をうまく切り取って構成している。

戦争三部作の最後、『交響曲第9番』(当局の意に沿わず、明るく軽い曲調でのちにジダーノフ批判を受ける)の第3楽章などもしっかり投入しており、マイヨーはショスタコーヴィチ作品をかなり聴き込んだに違いない。ショスタコーヴィチ自身によるバレエ音楽4作品よりも良い仕上がりのように思えてしまった。

ショスタコーヴィチの音楽にある、キャッチーさ、ポップさ、明るさに気づいたマイヨーはさすがで、ショスタコーヴィチの音楽が「おしゃれ」とマッチすることを証明してみせた。

公演プログラムにはどのシーンでどの曲が使用されているかが明記されており、とてもありがたく、資料として価値があると思う。

原作のテーマを、マイヨーはプライドの高い二人が互いに歩み寄り理解しあって絆を深め仲良くなっていく、という部分に着目していたと思う。だから、4組のカップルが『タヒチ・トロット』の音楽にのせ仲良くお茶を飲むエンディングには誰もがほっこり、ハッピーな気持ちになれる。
洒脱軽妙にみせているが男女の機微に触れた、奥深い極上の大人のバレエだ。


2020年7月にモナコ、グリマルディ・フォーラムで行われた公演がBR/DVDで販売されています。


公演レビュー
シェイクスピアのどたばた喜劇!バレエ『じゃじゃ馬ならし』

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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