ロシア・オペラの不朽の名作、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』〜あらすじや曲を紹介〜
3.オペラ『エフゲニー・オネーギン』のあらすじ〜3つの恋の悲劇〜
オペラ『エフゲニー・オネーギン』は、誰にでも経験があるような「恋」が全体のテーマです。そして、登場人物の内面世界をテーマに、幕ごとに主人公が入れ替わる3つの悲劇を配置しています。
チャイコフスキーはこの作品をオペラとは呼ばず、「抒情的場面」と名付けました。オペラとしてはストーリーの起伏に乏しく、耳目を驚かせるような舞台効果も派手なアリアもありません。そのため、当時の一般的なオペラとの違いに違和感を抱いた聴衆からは敬遠され、初演は成功とは言えませんでした。しかし、登場人物の感情に寄り添い、心の奥深くまで覗き込む心理描写は秀逸で、非常に感慨深い作品です。現在では『エフゲニー・オネーギン』は、ロシア・オペラの人気作として、各国で上演されています。プーシキンの詩文をそのままに、風景画をみるようなチャイコフスキーの音楽は素晴らしいの一言!
3-1.オペラ『エフゲニー・オネーギン』第1幕
プーシキンの小説『エフゲニー・オネーギン』の表紙絵(エレナ・サモキッシュ・スドコフスカヤ画、1908年)、出典:Wikimedia Commons
第1場、19世紀ロシア、辺境の農村。
ラーリン家の女地主ラーリナ夫人には、年頃の2人の娘がいます。内向的で夢見がちな姉のタチアーナ、社交的で活発な妹のオリガです。娘たちが家の中で恋の歌を歌い(二重唱「恋と悲しみの歌は林の向こうから」)、庭でジャム作りに精を出すラーリナ夫人と乳母のフィリピエヴナも加わります(四重唱「娘たちは歌っている」)。農民たちが収穫物を運んできて、歌と踊りを披露(合唱「足の皮が痛む」~「小さな橋を」)。オリガは自分の楽天的な性格を歌います(アリア「悩ましい悲しみなんて私は苦手」)。オリガのいいなずけで18歳の詩人ヴラジーミル・レンスキーが、友人のエフゲニー・オネーギンを連れてやってきます。オネーギンは24歳の青年貴族で、叔父の領地を相続してこの地に来ました。都会の社交界に飽きた彼は、若くして田舎での隠遁生活を決め込んでいます。彼の都会的で孤独を好む物腰に、タチアーナは一目で恋に落ちました。一方、熱情的なレンスキーは、オリガへの熱い想いを歌いあげます(アリア「ぼくはあなたを愛しています」)。
第2場、夜、タチアーナの寝室。
寝付けないタチアーナは、乳母に紙とペンを持ってこさせます。初めての恋に激しく震える少女の心。思いの丈を手紙に綴り、とうとう夜が明けてしまいました(「手紙の歌」)。
タチアーナは起こしにやってきた乳母に、オネーギンの家に届けるよう書き終えた手紙を託します(二重唱「さあ、お嬢様」)。
第3場、ラーリン家の庭園
手紙を受け取り、ラーリン家にやってきたオネーギン。タチアーナに自分は結婚には向かないと言って諦めさせ、そして、タチアーナの軽はずみな行動を諫め、自制心を持つようにと冷たく諭します(アリア「人生を家庭の枠だけに」)。
遠くから、いちごを摘む村娘たちの歌が聞こえてきます(合唱「娘さん、べっぴんさん」)。
3-2.オペラ『エフゲニー・オネーギン』第2幕
オネーギンとレンスキーの決闘(イリヤ・レーピン画、1899年)出典:Wikimedia Commons
第1場、ラーリン家の広間。
数カ月後、タチアーナの命名日を祝う舞踏会が開かれていました(合唱付きワルツ)。オネーギンは自分への陰口を耳にして機嫌を損ね、ここに連れてきたレンスキーへの仕返しを考えます。レンスキーと踊る約束をしているオリガを言葉巧みに誘い出し、とがめるレンスキーを横目に、オリガもオネーギンとばかり踊ります。怒りに燃えるレンスキーはオネーギンと口論になり、とうとう決闘を申し出ました。
第2場、水車小屋のある川辺。
真冬の早朝、決闘の場にやってきたレンスキー。オリガへの愛と青春を惜しむ詩をしたためます(アリア「青春は遠く過ぎ去り」)。
オネーギンが遅れて到着。銃を構え合う2人。後悔の思いが駆け巡ります(二重唱「敵!」)。銃声が響き、倒れ伏すレンスキー。オネーギンは親友の死に呆然とします。
3-3.オペラ『エフゲニー・オネーギン』第3幕
タチアーナに求婚するオネーギン(パヴェル・ソコロフ画、19世紀)出典:Wikimedia Commons
第1場、首都サンクトペテルブルク、グレーミン公爵邸の夜会。
オネーギンは、親戚にあたるグレーミン公爵が催す舞踏会に出席(「ポロネーズ」)。数年間、外国での放浪生活の後帰国しましたが、生きる目的を失っていました。
宴の主人である初老の将軍グレーミン公爵が、自慢の若妻を伴って現れます。その夫人こそ、あのタチアーナでした。気品に満ちた大人の女性に成長した彼女は、今や公爵夫人として社交界の花形になっていました。オネーギンはグレーミン公爵から、2年前に結婚したことを告げられます(アリア「恋は年齢を問わぬもの」)。見違えるようなタチアーナに激しく惹かれるオネーギン、そしてオネーギンの登場に動揺するタチアーナ。
第2場、グレーミン公爵邸の客間。
オネーギンからの手紙を読むタチアーナ。オネーギンとの再会で、かき乱された心の苦しみを歌います(アリア「ああ、なんて苦しいの」)。
オネーギンが入ってきて、一緒になってほしいと哀願。タチアーナは、田舎娘ではなく公爵夫人だから愛するのではないのかと責めます。あの時幸せは近くにあったのにと嘆き、今でもオネーギンを愛していると告白。しかし、結婚の誓いを貫くため、オネーギンから去っていきます。一人残されたオネーギンは空しい運命に絶望します。
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