古典バレエの代表作『眠れる森の美女』の魅力を紐解く|2023年は4バレエ団が上演する”眠り豊作の年”
3 第2章 物語の解説と登場人物の魅力
ここからは、バレエ『眠れる森の美女』の主要登場人物であるオーロラ姫、デジレ王子、カラボス、リラの精について、その魅力や役割を見ていきましょう。
3.1 オーロラ姫の運命
子どもを待ち望んでいた王と王妃のもとに生まれた待望の姫・オーロラ。
妖精たちから、優しさ・元気・鷹揚(上品さ・おっとりした様)・活発さや美声・勇気などのプレゼントをもらい、美しく気品のある姫へと成長します。
16歳の誕生パーティーで、4人の王子と踊る姿は、美しい姫そのもの。「錘に指されて死ぬ」というカラボスの呪いなど、まるで信じられないほどです。
しかし、やはりその呪いからは完全に逃れられませんでした。リラの精が「死ぬのではなく100年の眠りにつき、運命の人のキスで目覚める」と魔法をかけたとおり、16歳で100年の眠りについてしまいます。
しかし、またリラの精から贈られた魔法もそのとおりに発動します。
自分にかけられた願い・呪いのとおりに運命が決まっていくオーロラ姫。
「自分自身は何も悪いことをしていないのに」と、自分の運命を呪っても良さそうな境遇ですが、彼女は決して卑屈になりません。
眠りにつく前も眠りから覚めたあとも、そして、眠りについている最中(第2幕)でも、姫として美しく輝く姿を見せてくれます。
自分の運命を嘆かず、本来の自分を見失わないという人としての強さが見えるキャラクターのように感じます。
3.2 デジレ王子の冒険と役割 オーロラ姫の約束された幸福の象徴
デジレ王子は、オーロラ姫たちが眠りについたあとに生まれた人物です。
リラの精が見せたオーロラ姫の幻影に心を奪われ、リラの精の導きによって、オーロラ姫を救い出します。
お城を覆い尽くしている茨を切り開き、オーロラ姫に呪いをかけたカラボスを退治する様子はまさに冒険。
危険を顧みず、困難に立ち向かっていける青年だと判断されたからこそ、リラの精に選ばれたのでしょう。
3.3 カラボスはどうして必要なキャラクターなのか
オーロラ姫に呪いをかけるカラボス。
現代で上演されているバレエ『眠れる森の美女』では、悪役として描かれています。呪いをかけた理由は「自分だけ招待されなかったから」です。
カラボスは、オーロラ姫に呪いをかけたり、錘(針)が入った花束を16歳のオーロラ姫に渡したりと、物語の重要な場面を担っています。
そして、最後には、リラの精によって導かれたデジレ王子に倒されてしまう運命です。
ストーリー進行のために必要であるという部分は前提として、筆者は、正義(王室・リラの精)が勝ち、悪(カラボス)が負けるという”勧善懲悪”のためのキャラクターとしても描かれているのではと思っています。
リラの精やそのほかの妖精は、オーロラ姫に良い贈り物をする正義で、かつカラボスを守ろうとする「王室の味方」です。
王室やオーロラ姫に敵対しようとするカラボスが最後に倒されることで、王室/ロシア帝国の強さを誇示しようとしたのではないかと考えました。
3.4 一番えらいリラの精 その他の妖精たちのキャラクター
カラボスの呪いをやわらげる役割を持つリラの精。
童話などでは、ほかの妖精と同列に描かれることもありますが、バレエ『眠れる森の美女』では、ほかの妖精のリーダー的存在として描かれます。
バリエーションも一番最後に踊りますし、妖精たちで踊るときはリラの精が必ずセンターです。また、デジレ王子を導くなど重要な役割も担っています。
そのほかの妖精について、簡単に紹介しましょう。なお、演出によっては、以下で紹介する妖精の名前以外で呼ばれることもあります。ここではよく登場する呼び方で紹介します。
【そのほかの妖精たち】
- 優しさの精……優しさをプレゼントする
- 元気の精……元気をプレゼントする
- 鷹揚の精……大らかさや上品さをプレゼントする
- カナリアの精……活発さや美声をプレゼントする
- 勇気の精……勇気をプレゼントする
それぞれのキャラクターに合った音楽・振付になっており、見比べるのも大変面白いです。
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