• HOME
  • オペラの原作
  • 小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』アンリ・ミュルジェール:~オペラ『ラ・ボエーム』の原作紹介~オペラの原作#07-2

小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』アンリ・ミュルジェール:~オペラ『ラ・ボエーム』の原作紹介~オペラの原作#07-2

ラ・ボエーム』あらすじ
17.三美神の身支度

ロドルフ、マルセル、ショナールの3人がボエームらしくもなく労働に精を出しています。長いことお洒落ができなかったそれぞれの恋人たちに綺麗な春服を買ってやるためでした。

ロドルフは入れ歯の啓蒙詩を、マルセルは兵隊の似顔絵を描き、ショナールはうるさく騒ぐオウムと暮らす女を追い出すために一日中単調なピアノを弾いてくれ、という奇妙な依頼を受け、まとまった収入を得ることができました。

入った金はすぐに使うのが流儀のボエームたちは、洋服屋に繰り出します。ミミ、ミュゼット、フェミイは、それぞれが好きな布地を選んで洋服を作ってもらえることに我を忘れて喜びます。

翌日、一同は真新しいお洒落な洋服で着飾って郊外に出かけていきます。ミュゼットもミミもフェミイも同じくらい可愛らしく、望みが叶った喜びできらきらと輝いていました。

ですが、フェミイだけはなんだかつまらなそうでした。
「こんなに綺麗にしてるのに郊外じゃ誰にも会わないじゃない」

ラ・ボエーム』あらすじ
18.フランシーヌのマフ

ジャックとフランシーヌは4月の終わりに、下宿で出会いました。
ジャックは貧しい彫刻家で、フランシーヌは義理の母のいびりに耐えかねて家を出たお針子でした。同じ下宿の隣同士に越してきた2人は、仲良くなりました。

ある日ジャックが理由のない悲しみに捉えられ、煙草の葉に阿片チンキを垂らして吸い、眠りが訪れるのを待っていると、帰宅したフランシーヌが蝋燭の火をもらおうとやってきました。フランシーヌは部屋に充満する煙に気が遠くなってしまい、鍵と蝋燭を床に落として椅子に座りこんでしまいました。


意識を取り戻したフランシーヌは、火をもらいに来たのを忘れて部屋に戻ろうとします。
そうだ。火をもらいに来たんだった。それに部屋の鍵が無い。蝋燭に火を点けますが、窓から風が吹き込んで部屋が真っ暗になってしまいます。

「鍵を探すから燈りを点けてくださいな」
ジャックは手探りでマッチを探しだしますが、ふと妙な気を起こしてポケットにしまいます。

「いまは月が雲に隠れているけど、そのうち明るくなるから2人で探そう」
月が出るのを待ちながら、暗い部屋でお喋りを始めます。他愛のない世間話からはじまり、そのうちに身の上を打ち明け合いました。

ようやく月が出て、フランシーヌは足元に鍵があるのを発見します。でも、楽しい時間を引き伸ばすために足で鍵をベッドの下に押しやりました。
もう鍵なんか見つからなくてもよかった──。

恋人となった2人の幸せは6ヶ月しか続きませんでした。フランシーヌは結核に侵されていたのです。
ジャックの友人である医師は「木の葉が黄色くなるころあの娘は死ぬだろう」と告げました。

10月になり、フランシーヌはベッドから起き上がることができなくなりました。部屋から見える木の葉はみるみるうちに姿を消し、それを見せないために閉めておいたカーテンを、フランシーヌは開けてほしいとせがみます。

「ね、ジャック、あの木がつけている葉っぱより百倍も接吻してあげる……これからだんだんよくなるわ……早く外に出たいな。でもこれから寒くなるし、手が霜焼けで赤くなるのは嫌だから、マフを買って」

『ラ・ボエーム』アンリ・ミュルジェール 辻村永樹訳 光文社古典新訳文庫

フランシーヌが恋人に望んだのはこれだけでした。
そしてそのときがやってきます。
ジャックが買ってきたマフを手にして、フランシーヌは亡くなりました。

一人ぼっちになったジャックはフランシーヌの墓に供える天使像の制作に取りかかります。ですが、ジャックには時間がありませんでした。赤貧のため身体は衰弱し、病院に入院するとベッドに寝たきりになってしまいます。

未完成の像を信頼できる修道女に託し、ジャックはフランシーヌの後を追うように天国へ旅立っていきました。

ラ・ボエーム』あらすじ
19.ミュゼットの気紛れ

マルセルが暖炉に火を入れようと焚き付けにする反故紙を探していると、ミュゼットと暮らしていたころの書置きが出てきました。

”この部屋は寒いからちょっと外に出てくるね。すぐに戻ります。”

マルセルは「あいつには可哀想なことをしたな」とつぶやきます。
このころコリーヌ以外の3人には恋人がいませんでした。フェミイはショナールから離れ、街でミミの名前を聞くことはなく、ミュゼットはふたたび社交界へ足を踏み入れていました。
書置きを読んだことで燻っていた恋心に火がつき、ミュゼットに手紙を出します。

”まとまった金が手に入ったから、仲間と一緒に酒を飲もう。きみはデザートに歌ってくれ。”

手紙を受け取ったミュゼットは恋人である子爵の制止を振り切って、ボエームたちのもとへ行くことにしました。


盛大に宴会をしているボエームたちの部屋に大家がやってきます。家賃の催促でした。
マルセルは60フランを渡し、ブルゴーニュ出身である大家に、ブルゴーニュ、マコン産のワインを勧め、仲間たちと乾杯しました。

「大家さん、今のうちに来月分の家賃も支払ってしまいたいんだが」
これには大家も衝撃を受けます。すぐに受領書を取り出し、受け取った120フランをうっとりと眺めます。

マルセルがワインを注ぎ、それを飲み干し、これが数回繰り返されるとついに大家は酔っ払って夫婦生活の愚痴を言い始め、首尾よくベッドに誘い込んだ若い娘との秘めごとを滔々とのろけました。

かどわかした娘の名前はフェミイ。ショナールのかつての恋人でした。
「ああっ、畜生!なんて残酷な女だ」ショナールは叫び、めそめそと嘆きはじめます。大家は「金がないというから家具を買ってやったのさ。なあに、金ぐらいいくらでも出してやるわい」と得意げです。

マルセルは先ほど渡した金を掴んで「こんなハゲじじいに家賃を払うなど信念が許しません。金輪際家賃は払いません」と宣言し、大家の小間使いに受領書を突き返します。

宴会は5日間続き、すっかり金がなくなったころにミュゼットが現れます。
「さっきまでは暖炉に火が入っていたんだ」マルセルはミュゼットに言います。
「昔みたいでいいじゃない」

その晩2人は一緒に過ごし、翌日、ミュゼットは恋人のもとへ帰ります。
そして恋人に「あたし、ときどきあの生活の空気を吸いにいかないと苦しくなるの」と告げました。

ラ・ボエーム』あらすじ
20.羽を得たミミ

マルセルとミミが偶然街で出会いました。
マルセルは、金持ちの男に走ったミミに皮肉な態度を取ります。
ミミは別れたのは自分のせいではないと弁解します。それに貧乏が原因ではないとも。

ミミは自分と別れた日のロドルフの様子を聞きたがりました。

「いちばん苦しいところは過ぎた」
「ロドルフがそんなに早く立ち直るはずがない」
「見た限りでは、胸のつかえが下りたって感じだぜ」

ミミは不満そうな様子で、恋人のもとへ向かっていきました。

実際、ロドルフは失恋の痛みから立ち直った様子でした。
「彼女はポール子爵と幸せにやってる」と聞かされても、「元気出せよ」と言われても意に介しません。ですが、時折”ミミ”という言葉を聞くと、残されていた青春や情熱が消え去ってしまったように感じるのでした。

風の噂でミミはロドルフに恋人ができたことを知りました。
ある夜、ミミはポール子爵の傍で小さな歌を口ずさんでいました。
それはロドルフが作った、恋の弔いの歌でした。

最後の小銭も遣い果たした
そんなとき
法は告げる
縁の切れ目と
それでもきみは涙もなく
昔の流行のように
ぼくを忘れてしまうんだね
ミミ。
それでもぼくたちは
夜はともかく
幸福な日々を
過ごせたんじゃないか
長くは続かなかったけど
仕方ない
何よりも儚いものが
何よりも美しいんだ。

『ラ・ボエーム』アンリ・ミュルジェール 辻村永樹訳 光文社古典新訳文庫

ラ・ボエーム』あらすじ
21.ロミオとジュリエット

コリーヌが街の大通りを歩いていると、ロドルフが通りに立っていました。
お洒落な装いを見て、別人かな?と不安になりますが、確かにロドルフだとわかり声をかけます。

「お前ロドルフだよな?」
「そうだよ、おれだよ」

まじまじとロドルフを見ると、妙なものを手に持っています。
「これはいったい何だい?」と言って縄梯子と鳩を入れた鳥籠を指差すと、ロドルフは「今付き合っている恋人の名前がジュリエットだから、これを使って『ロミオとジュリエット』をやるんだ」と説明しました。

この企てはその夜に行われました。

ロドルフがジュリエットの家に着くと、彼女の部屋は一階で、バルコニーは跨いで越えられるようなものでした。縄梯子でよじ登るという詩的な目論見は外れ、興がそがれてしまいますが「まあいいさ」と思い直し、彼女の部屋の隅に鳥籠を吊るします。

翌朝5時きっかりに鳥籠の中の鳩がポーポーと間抜けな声で鳴き出し、2人は飛び起きます。
鳩め、早すぎるぞ。11月に太陽は昼まで昇らないよ……。ロマンチックなムードは微塵もなく、恋人たちは空腹だったせいもあり、もぞもぞと起き出して部屋にある食料を探しはじめます。

玉葱がある、脂がある、バターがある……揃って鳩を見つめます。
2人は向かい合って丸焼きにした鳩を食べ始めます。
「綺麗な声だったわね」
「心に染みたよ」


次のページ:22.恋の終章|23.青春は斯くも儚し|まとめ|公演・配信予定

1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。