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小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』アンリ・ミュルジェール:~オペラ『ラ・ボエーム』の原作紹介~オペラの原作#07-1

小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』のあらすじ
1〜12章

ラ・ボエーム』あらすじ
1.ボエーム芸術集団結成の顛末

偶然というものは無欲な商売人くらい稀なのだ、と疑り深い者たちは言うが、まさにその偶然が、ある日、あの若者たちを引き合わせたのだ。若者たちの友愛共同体は、やがてボエーム芸術家の集いを形成することになる。わたしが本書を著したのも、このボエーム芸術家なる連中の生態を広く世に知らしめたいがためだ。

『ラ・ボエーム』アンリ・ミュルジェール 辻村永樹訳 光文社古典新訳文庫

このような出だしで『ラ・ボエーム』の物語は幕を上げます。

あるアパルトマンの一室で、音楽家のショナールは、滞納している3か月分の家賃75フランが払えずに、ピアノを弾きながら唸っていました。

唸ってピアノを弾いているだけですから、当然事態が好転することはありません。ショナールは家賃を踏み倒して逃げてしまおうと決意します。

庭に出ると、管理人の爺さんが待ち構え、「家賃を払ってください!」と迫ります。ショナールは「今細かいのがないから両替屋に行って崩してきます」と言って、管理人の脇をすり抜け、そこに次の間借り人がやってきます。画家のマルセルです。

「また芸術家か!」と憤慨する大家に、マルセルはポケットから500フランを取り出してひらひらさせてみせます。大家は態度を一転させて、マルセルをショナールが使っていた部屋に案内します。

ショナールは金策のためにパリの街を駆けまわっていました。けれど、この日は金を貸してくれそうな知り合いに会うことが出来ず、貧乏芸術家たちがたまり場にしている居酒屋に行くことにしました。

そこで同卓に座った青年と親しくなります。青年の名前はコリーヌ、哲学者でした。コリーヌは哲学や数学を教え、謝礼をすべて古本に費やすというほどの読書家でした。
二人は昔からの友人のように打ち解け、6本のワインを空にし、2軒目のカフェ〈モミュス〉に行くことになりました。

『ラ・ボエーム』初演のための舞台イメージ
アドルフ・ホーヘンシュタイン 画

Storico Ricordi,Collezione Digitale Ricordi CC BY-SA 4.0

出典:Wikimedia Commons

〈モミュス〉では若い青年と中年男が激しい議論をしていました。青年は文学者のロドルフという男で、コリーヌと顔見知りでした。
議論を終えたロドルフは、ショナールとコリーヌのテーブルにやってきて、飲み始めました。たちまち3人は親しくなり、閉店時間まで芸術について語りました。

まだ話したりないショナールは、アパルトマンを追い出されたことを忘れて、「この近くに住んでるからうちに来いよ」と、現在はマルセルが住む元自宅へ向かっていきます。

部屋の前で騒ぐ3人にマルセルが「何の用ですか?」と訊ねます。
酔っ払っているショナールは部屋を間違えたと思うのですが、フェミイが書いた落書きを発見して、「あれ?やっぱりここは俺の家だよな」と混乱します。

マルセルは3人を部屋の中に招き、事情を説明してやります。それから若い芸術家4人はワインを飲み始め、翌日の昼まで深く眠ります。

目を覚ました4人は状況がつかめず気まずい思いをするのですが、4人が似た者同士で芸術を愛しているということ、若者らしい真っ直ぐな心を持っていることがわかり、こうして出会ったのは単なる偶然ではないという想いを共有します。

祝おう、このめでたき日を!
こうしてボエーム4人衆が結成されることになりました。

ラ・ボエーム』あらすじ
2.神様の使い

ショナールとマルセルは朝からそれぞれの創作に取りかかっていました。
金の無い2人が「今日も昼飯抜きか」と思っていたところ、突然マルセル宛に代議士から晩餐の招待状が届きます。

ご馳走が食べれる!と喜ぶマルセルですが、晩餐会に着ていく服がありません。
「ロドルフか、コリーヌに借りようか?いや、あいつらの服はすでに質屋だろう……」
しかたなく持っている服や靴をカスタマイズして、見栄えよく見せようと画策していると、見知らぬ男が訪ねて来ます。

「肖像画の才能をお持ちのショナールさんに絵を描いてもらいたくやってきました」
砂糖会社の代表というこの男は何かの行き違いで、音楽家のショナールを訊ねてきたのです。
2人は肖像画を描くことを引き受けます。

ショナールは口八丁手八丁で紳士の立派な上着を脱がせ、絵画について講釈を垂れて時間を引き延ばし、その隙にマルセルは紳士の燕尾服を着て晩餐会に向かいました。
マルセルが帰ってくると、ショナールと紳士は竹馬の友のように抱き合い、ベロベロに酔っ払いながら、泣き、笑っていました。

ラ・ボエーム』あらすじ
3.四旬節の恋人たち

四旬節(復活祭の前日までの日曜を除く40日間)の夜、ロドルフが部屋で執筆していると、隣の部屋から恋人たちが騒ぐ音が聞こえてきました。
仕事に集中できないからマルセルの家に行ってコリーヌの悪口でも言って過ごそう。そう決めたロドルフは家を飛び出します。

マルセルの家に着いて扉をノックすると、眠たそうな顔のマルセルが出てきて「今日は無理だ」と言います。ベッドを見ると女の子が顔を覗かせていました。

それならコリーヌの家に行ってマルセルの悪口を言おう。マルセルの家を後にして通りを歩いていると、向こうからコリーヌが歩いてきました。
「これからお前の家に行くとこだったんだ」と伝えると、コリーヌは「女の子と待ち合わせをしているから無理だ」と答えます。

ロドルフは孤独にリュクサンブール庭園に入っていきます。そこでも恋人たちが仲良さそうにくっつき合っていました。

どこに行っても恋人ばかりだ!うんざりした気持ちで〈プラド〉というダンスホールに入ると、そこにショナールがいました。

「恋がしたいんだね?」
そう訊かれて、ロドルフは「そうなんだ……」と答えます。
ショナールはロドルフのためにルイズという女の子に声をかけ、2人は意気投合し、後日会うことになりました。

ルイズに恋をしたロドルフは、しばらくの間、愛する人がいる幸福を味わいました。ですが、1週間が経つとルイズは心変わりをして、金持ちの青年のもとへ行ってしまいました。

もうわたしにはかからわないで。再ごのキスを迸ります。さようなら。ルイズ

『ラ・ボエーム』アンリ・ミュルジェール 辻村永樹訳 光文社古典新訳文庫

誤字だらけの手紙を引き出しにしまいながらロドルフは「これでおしまいか」とつぶやきます。

ある日、ロドルフがマルセルの部屋へ行くと、ルイズの手紙が置いてあるのを発見しました。

「この人の手紙、おれも持ってる」
ロドルフは手紙を取り上げて「おれのほうが間違いが二箇所少なかった。つまり、あの娘はきみよりおれのほうが好きだったってことじゃないかな?」と言いました。

ラ・ボエーム』あらすじ
4.アリ=ロドルフ または已むを得ずのトルコ人

大家に部屋を追い出されたロドルフは、おじのモネッティの住まいにやっかいになっていました。

暖房器具の販売を営むモネッティは、『暖房のすべて』という実用書を書くことを条件に、ロドルフの面倒を見ていました。
お金を渡すとすぐに遊びに行ってしまうロドルフの服を取り上げ、滑稽なトルコの衣装を着せて、執筆が終わるまでは外出してはならんと言いつけていました。

小説『ボヘミアン生活の情景』74ページの挿絵
A.Robaudi 画
出典:Wikimedia Commons


ある日曜日、バルコニーから階下を覗いていると、劇場の女優シドニイが煙草を吸っていました。

「一緒に食事しましょう」というシドニイの申し出に、被っていたターバンに紐をつけて、その中にパテを入れてもらい、お返しに自作の戯曲『復讐者』を朗読して聞かせました。

朗読を聞いて「傑作だ」と感じたシドニイは、作品を劇場にかけあってくれると約束します。

そのとき、モネッティおじさんが手紙をもってやってきます。ロドルフの作品がトゥルーズで開催されている文芸賞に選ばれたという報せでした。

大はしゃぎのロドルフは、毛布を縄梯子にしてシドニイのバルコニーに飛び降り、男物の服をもらって賞を受け取るため走り去っていきました。

後日、ロドルフが書いた戯曲『復讐者』は17回上演され、シドニイの熱演もあって、ロドルフに40フランの収入をもたらしました。


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1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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