小説『鼻』ニコライ・ゴーゴリ:〜オペラ『鼻』の原作紹介〜オペラの原作#02
小説『鼻』のあらすじ
小説『鼻』あらすじ
冒頭
なんでも、三月二十五日にペテルブルグで奇妙きてれつな事件が起こったそうであります。
参考:『鼻/外套/査察官』ニコライ・ゴーゴリ 浦雅春訳 光文社古典新訳文庫
こんな出だしで、『鼻』の物語は始まります。
床屋を営むイワン・ヤーコヴレヴィチは、朝食をとっていました。パンを切り分けようとナイフを入れると、そこには白いものが……指を入れて引っ張り上げると、中から出てきたのは鼻でした。
それを見た妻は「どこで、ちょんぎったんだい?」とすごい剣幕で怒鳴り出します。
ヤーコヴレヴィチは、これは八等官コワリョフの鼻に違いないと(なぜか)確信し、妻に「あとで棄ててくるよ」と言います。
鼻を棄てようと家を出たのはいいのですが、こういう日に限って知り合いに出くわします。
知らんぷりをして、路上にスッっと鼻を落としてみても巡査が気付き「拾いたまえ。何か落としましたぞ!」と声をかけてきます。
人通りを避けて、ヤーコヴレヴィチはイサーク橋に辿りつきました。
荷を降ろした気分になったヤーコヴレヴィチは、ポンス酒(ウォッカ等に柑橘類のジュースを加えたカクテル)でも飲もうと橋を後にします。
ですが、橋のたもとには立派な風采の巡査が待ち構えて、ヤーコヴレヴィチを手招きします。「橋に立って何をしておったのか?」強い口調で訊ねる巡査に口ごもると、巡査は怪しいと感じたのか、詰問の勢いは増していきます。
イワン・ヤーコヴレヴィチは青ざめちゃった……。ところがこの一件、ここでにわかに霧に閉ざされてしまいます。はたしてその後どうなったか、これがとんと知れませんお粗末で。
『鼻/外套/査察官』ニコライ・ゴーゴリ 浦雅春訳 光文社古典新訳文庫
小説『鼻』あらすじ
コワリョフ登場
ある朝、目覚めたコワリョフは鼻の上にできたできもの具合を確認しようと鼻をさすると、そこにあったはずの鼻がなくなっていました。
夢でもみているのか? そう思って、飛び起きて念入りに確認してみてもやっぱり鼻はなく、鼻があるべき場所はつんつるてん。まるでのっぺらぼうの様相となっていました。
遊び人の伊達男であるコワリョフは、身だしなみにうるさく(自意識も強く)、こんな状態でどうやって、貴婦人たちと社交の場にいけばいいのか、と青ざめます。
仕方なくコワリョフは、ハンカチで鼻を隠しながら警視総監のもとへ向かうため、家を出ます。
どうしても自分の身に起きたことが信じられないコワリョフは、菓子店に入り、鏡に自分の顔を映します。
やはり、鼻はなくなったままでした。
≪せめて鼻のかわりに何かついてりゃいいが、なんにもないんじゃあ、トホホ!……≫
未練がましく菓子店を出て、歩いていると驚く光景に出くわします。
停車中の立派な馬車から、身なりのしっかりした紳士が現れたのですが、それがほかならぬ自分の鼻だったのです。
高い襟、金糸の刺繍のある制服、スウェードのズボン、腰にはサーベルを下げ、帽子には羽飾り、その恰好は五等官のものでした。
なぜ、あいつは俺の地位より高い五等官なんだ。
コワリョフは、鼻を追いかけます。
教会に入っていった鼻に追いついたコワリョフは、「おそれ入ります……」と話しかけます。
「何か?」
と鼻は振り向いた。
「私には不思議でならないんです……思いますに……あなたはご自分の立場ってものをおわきまえになるべきです。思いもよりませんでしたよ、教会でお見受けしようなどとは。そうではございませんか……」
「失礼だが、何をおっしゃっているのか、解せませんな……。ご説明いただけますか……」
参考:『鼻/外套/査察官』ニコライ・ゴーゴリ 浦雅春訳 光文社古典新訳文庫
コワリョフは、威厳のある鼻に対してへりくだりながら事情を説明します。ですが、鼻は全く取り合いません。
しびれを切らしたコワリョフはついに「あなたはぼくの鼻なんですよ!」と訴えます。
鼻はコワリョフをじろりと見やって、「何かの間違いでしょう。我々の間にはいかなる接点もない」とはねつけます。そして、鼻はぷいとむこうを向いて熱心にお祈りを続けます。
そのとき、途方に暮れたコワリョフの近くを美しい婦人が通ります。その婦人に見とれていると、いつの間にか鼻は姿を消してしまいました。
小説『鼻』あらすじ
奔走するコワリョフ
コワリョフは、広告を出してもらおうと、新聞社に飛び込んでいきます。
「行方をくらませた鼻を探してくれ」
そう新聞社に伝えますが、係員は「そんな広告は出せない」と突っぱねます。
デタラメやガセネタの広告を打ったら新聞社の評判に傷がつくと言うのです。
コワリョフはハンカチで覆った鼻(があった部分)を見せて、「これで新聞に載せてくれるね?」と頼みますが、「載せてもいいですけど、それより作家に頼んで、世にもめずらしい出来事として書いてもらったほうがいいんじゃないでしょうか?」と答えます。
「それよりも嗅ぎ煙草でも一服いかがです?」
鼻のないコワリョフは怒り心頭、新聞社を飛び出して区警察署長の家に向かいます。
これから昼寝をしようと思っていた署長は、コワリョフをぞんざいに迎え入れ、「ちゃんとした人間なら鼻が取れるはずがない」と言い放ち、傷ついたコワリョフは署長の家を後にします。
家に帰り、沈み込んでいたコワリョフのもとに警察官がやってきます。鼻が役人の恰好をしてリガ(現ラトビア共和国首都、当時はロシア帝国支配下の港町。国外へ高飛びの示唆)へ逃亡をはかろうとしているところを取り押さえたと言うのです。
感謝したコワリョフは早速鼻をつけようとするのですが、これがうまくいきません。医者のもとへ行き、鼻をつけてくれ、と頼むのですが医者は承諾してくれず、「鼻は瓶に入れてアルコールに浸しておかれるといいでしょう」と言い出す始末。コワリョフはまたもや途方に暮れます。
鼻の噂はペテルブルグ中に広がります。話には尾ひれがつき、鼻は三時きっかりにネフスキー大通りを散歩している、ユンケル商会に鼻氏が現れた、などとエスカレートしていきます。
鼻がコワリョフのもとに戻ってきたのは四月七日でした。何事もなかったかのように頬の間におさまった鼻を発見したコワリョフは大喜び。
コワリョフは今まで通り、あちこちの劇場に出かけるようになります。その顔はいつ見ても上機嫌そのもの、ニコニコ笑って、気に入ったご婦人を見つけるとその後を追いかける、という生活に戻っていきました。
物語はこう結ばれます。
どうして鼻が焼いたパンのなかから出て来たのか、どうしてイワン・ヤーコヴレヴィチが……。いやあ、どう考えたってわからない、もうチンプンカンプンです。それにしても一等不思議で、わけがわからないのは、世の物書きが、よりにもよってどうしてこんな話をこしらえるのかってことです。
第一、こんな話はお国のためにならない、第二に……いや、この第二にというのが、まったくもって益がない。
参考:『鼻/外套/査察官』ニコライ・ゴーゴリ 浦雅春訳 光文社古典新訳文庫
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