E・T・A・ホフマン『くるみ割り人形とねずみの王さま』 小説を彩るクラシック#9
『くるみ割り人形とねずみの王さま』あらすじ
お菓子の国
そしてその晩、くるみ割り人形は、ねずみの王さまを打ち破り、助けてもらったお礼にマリーを人形の国へ招待します。
そこには氷砂糖の野原やクリスマスの森があり、オレンジ川やレモネード河が流れています。お菓子でできた夢のような国にマリーは大喜び。マリーは夢心地で銀色のヴェールのように、大気をふんわり泳ぎ、やがて高く、高くのぼっていき、意識が消えていきます。
ベッドで目を覚ましたマリーは美しい国での体験を家族に話しますが、案の定取り合ってもらえません。
そこにドロセルマイアーおじさんが甥の青年を連れてやってきます。この美しい青年こそが、マリーに救われたくるみ割り人形なのです。
青年は、マリーにプロポーズし、二人は人形の国で幸せに暮らすことになり、物語は幕をおろします。
『くるみ割り人形とねずみの王さま』はクリスマス向けのメルヘンですが、ホフマンのもつ幻想性と音楽性が随所にみられる作品となっています。
この作品には何人ものドロセルマイアーというキャラクターが登場します。現実世界のおじさん、「固いくるみのメールヘン」に出てくる時計師で奇術師のドロセルマイアー、その従弟のドロセルマイアー、その息子であり、くるみ割り人形の正体でもある青年ドロセルマイアー。
これらの相関や関係性を曖昧にし、入れ子構造を持ったメタ小説として描くことで、単純なメルヘンを奥行きのある作品に仕上げています。
そして音楽家でもあるホフマンならではの表現が物語のあちこちに見られます。
くるみ割り人形とねずみの王さまの合戦シーンではグロッケンシュピール(モーツァルトの『魔笛』で有名な鉄琴)が打ち鳴らされ、人形の国ではペーター・ヴィンターのオペラ『中止された奉献祭』が登場。
ねずみたちが暴れ回るシーンでの擬音は「トロット──トロット──ホップホップ」、それに応えるくるみ割り人形の掛け声は「クナック──クナック──」と、独創的な擬音が使われます。
この作品の結びで作者は人形の国を「見る目のある人だけに見える世にもすばらしい不思議なものが眺められる」世界だ、と書いています。この言葉はホフマンが作りあげたすべての作品に通じる気がします。
『くるみ割り人形とねずみの王さま』には、バレエ作品とは異なる魅力が宿っています。それは、豊かな幻想性であり、空想を信じる力のような気がします。
参考文献
E・T・A・ホフマン(2015年)『くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女』大島かおり訳 光文社古典新訳文庫
小説を彩るクラシック
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