愛をめぐる「聖」と「俗」、ワーグナーのオペラ『タンホイザー』〜あらすじや曲を紹介〜
オペラ『タンホイザー』の2つの伝説
オペラ『タンホイザー』の物語は、中世ドイツの2つの伝説を元にしています。
一つは「タンホイザーの伝説」、もう一つは「ヴァルトブルク城の歌合戦の伝説」です。この2つの伝説にあまり関連性はありませんが、ワーグナーは巧みに組み合わせてオペラ『タンホイザー』の台本を構成しました。
1.タンホイザー伝説
「ヴェーヌスベルクのタンホイザー」1901年、ジョン・コリア画
出典:Wikimedia Commons
「タンホイザー」(1205頃-1267頃)は13世紀に実在したと伝えらえられる騎士詩人です。彼の歌や詩が残っていて、十字軍に参加したり、デンマークやウィーンの宮廷に仕えていたりした記録があります。
伝説のタンホイザーは、オペラと同じように、性愛の快楽を求めてヴェーヌスの洞窟に1年こもります。そこで歓楽を極めたものの、聖母マリアに助けを求め地上に戻ります。
罪を悔いてローマに巡礼し教皇に許しを求めましたが、教皇の杖に葉が生えぬ限り救済はないと宣告され、絶望したタンホイザーは再びヴェーヌスの元に戻ります。
その3日後、教皇の杖に緑の芽が吹き出で、教皇はタンホイザーを探し回りましたが、彼を見つけることはできませんでした。
ヴェーヌス(ビーナス)は中世ドイツのようなキリスト教社会では忌まわしい異教でしたが、信仰は残り続けました。ドイツではチューリンゲン地方のヘルゼルベルク山に、ヴェーヌスの山があると考えられていました。
2.ヴァルトブルクの歌合戦
「歌合戦を司るヘルマン1世とその妻ゾフィー」
中世のドイツ宮廷詩人の詩歌を収録した写本の挿絵
出典:Wikimedia Commons
「ヴァルトブルクの歌合戦」は、13世紀の詩の中で歌われている伝説です。ヴァルトブルク城はチューリンゲン地方アイゼナッハの町にそびえる城で、この城で1206年頃開催された歌合戦のことを描いています。
当時の城主はチューリンゲン領主ヘルマン1世(在位1190-1217)。ヘルマン1世は、オペラ『タンホイザー』に登場する、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハやヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ(1170年頃-1230年頃)などの詩人を庇護し、ドイツ中世文学の発展に寄与しました。
伝説では、この歌合戦にハインリッヒ・フォン・オフターディンゲンという詩人が参加して敗れました。当時の歌合戦は、敗者には死が与えられるという恐ろしいもの。敗れたハインリッヒにも絞首刑が言い渡されましたが、領主の妃ゾフィーのとりなしによって命を救われました。
オペラ『タンホイザー』では、ハインリッヒがタンホイザーに、ゾフィーがエリーザベトに置き換えられています。そして、ヴァルトブルク城は、ヘルゼルベルク山の向かいにそびえる山の上にあります。ヴァルトブルク城とヘルゼルベルク山という、相対する2つの山を舞台に「聖」と「俗」の物語が展開するのが、オペラ『タンホイザー』ということになります。
まとめ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
オペラ『タンホイザー』は、ワーグナーの魅惑的な音楽と壮大な世界観が楽しめる作品です!
オペラって、素晴らしい!
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