日生劇場オペラ『連隊の娘』主役のマリー役砂田愛梨さんにインタビュー

イタリア人が作曲したフランス語のラブ・コメディの
オペラ『連隊の娘』を日本人が上演

イタリア人作曲家ドニゼッティが作曲したフランス語で上演されるベルカント・オペラ『連隊の娘』。NISSAY OPERAシリーズではこの作品を新制作し、2組のオール日本人キャストで11月9日と10日に上演します。NISSAY OPERAシリーズは、出演者はすべてオーディションで選ばれ、一般の公演のほかに中高生のための鑑賞教室としても上演されます。

出演者はすべてオーディション

イタリアで研鑽を積み、現在イタリアを拠点に活動しているソプラノの砂田愛梨さん。すでにドニゼッティの『ドン・パスクワーレ』のノリーナのほか、『椿姫』のヴィオレッタ、『リゴレット』のジルダ、『蝶々夫人』のタイトルロールなどでイタリア各地の劇場デビューを果たしています。今回、主役のマリー役を砂田さんは見事オーディションで掴み取りました(9日出演)。

「最初は、ドニゼッティの作品なんですが、フランス語で書かれているという点が壁だなと感じました。でもこのマリー役は自分のレパートリーでもあるし、粟國淳さんがイタリアもの、ドニゼッティを演出される。それから指揮がアメリカでご活躍されている原田慶太楼さんということ。明るくポジティブになるだろうと思ったことが決め手となりオーディションを受けました」

フランス語で歌うだけでなく
フランス語のセリフがたくさんある

「フランス語で歌うだけでなくフランス語のセリフが入ってくるんです。イタリア語だったらどんなに楽かと思います。これがまた大変な量で(ヴォーカルスコアを見せてもらったら、膨大なセリフが書かれていました)、歌と同じ技術で取り組まないとダメだと感じました。今さらなんですが、楽譜を全部読み直さなくてはと思ったくらいです。あと一カ月未満で形にしていきます」

共感を呼ぶ、現代的なマリーというキャラクター

「楽譜を読みこんでいくと、こういう子なのではというイメージが浮かびました。年齢は15歳くらい、もう恋する年頃です。思ったことをダイレクトに言える素直に育った子。曇りがなくナチュラルで人の気持ちがわかるやさしく純真な子。なぜ人の気持ちがわかるかというと、マリーは幼い頃から連隊とともに行動してきて戦いのシーンを見ざるを得ない環境にあったわけです。だから絶対に人の痛みはわかると思うんです。そして時代的に女性が自分の人生を自ら切り開いていくことなど不可能だったわけですが、彼女はやってのける。それが小気味よくおもしろくて喜劇要素になる。現代の人にとっては普通なことなんですけれどね。最後にマリーに恋人であるトニオとの結婚を許す、自らも貴族でありマリーの母親である侯爵夫人も、娘の結婚相手にと決めた貴族が目の前にいるのに二人の結婚を許すと言える強さがありますね。高校生の鑑賞教室では、同年代で現代的なマリーに共感しやすいのではないでしょうか」

ベルカント・オペラの楽しみ

「人間の奥底に感じているものは、言語が異なっていても同じで、聴いているうちに感動に繋がると思うんです。ヴェリズモの直接的に感情を爆発させた歌唱は感動しますよね。ベルカントの感動は、心の奥底に向けて、言い回しやフレージングで語りかけていると思います。ベルカント様式は、バロック、そしてモーツァルトの様式から繋がっていて気品がある。貴族の時代、ダイレクトな発言は下品とされました。時代が下がってきて少しずつ言いたいことが言えるようになるものの、ベルカントは直接的に感情をもろに出すのではなくて歌の技術でもって格式高く伝えます。感情をもろに出すと私の師である(ルチアーナ・)セッラ先生にうるさい、やりすぎって言われてしまうんです。

この作品はベルカント・オペラです。美しい声、歌唱を楽しむのはもちろん、核心にある思い、感情をそこから感じていただければと思います」

軽やかで爽快な喜劇
ああ良かったね、と鑑賞後思えるように

「“イタリアのベルカント・オペラ作曲家のフランス語の喜劇”は、洗練されていて軽快さが魅力だと思います。自分で道を切り開いていくマリーという少女に共感できます。今回のプロダクションも夢がありポジティブになっていくんじゃないかという予感があります。お客様は気軽に見にきていただいて、ただただ楽しむ、というのがいいのではないでしょうか。

ああ良かったね、って笑顔で終われる公演。そう感じていただけるように演じることができたらいいなと思っています。快活で華やかな舞台を楽しんでいただきたいです」

イタリア人作曲家が作ったフランス語のラブ・コメディ、しかもセリフも入るオペラ、それを日本人が演じる……実はとてもチャレンジングな試みです。

砂田さんはじめ、出演者の歌手たちが素晴らしいコメディを作りあげ、私たちを明るく爽やか、そしてハッピーな気持ちにさせてくれます。ああ、ハッピーエンドでよかった、楽しかったと思える、そんな舞台は期待せずにはいられません。

演出の秘密、舞台の世界観はチラシに表れているそう。事前にチラシをよく眺めて情報をキャッチしてから劇場へ出かけましょう。

『連隊の娘』あらすじ

19世紀前半、スイスのチロル地方の村、旅をしていたベルケンフィールド侯爵夫人と執事は戦争のために足止めされ、山小屋にやってくる。そこにフランス軍の第21連隊もやってくる。マリーという孤児も一緒だ。マリーはこの連隊のシュルピス軍曹に拾われ、連隊で育てられた娘。彼女は崖から落ちそうになったところを助けてくれた地元の青年トニオに恋をする。トニオはスパイ容疑で山小屋に連れてこられたものの容疑が晴れ、マリーと一緒にいたいということで連隊に入る。マリーがベルケンフィールド侯爵夫人の姪であることがわかり(本当は娘)、彼女はパリへ行くことになる。マリーとトニオは離れ離れになってしまう。パリでマリーは貴族の子女としてレディーの教育を受けている。昇進したトニオと再会するが、母であるベルケンフィールド伯爵夫人の意向で貴族と結婚することに。けれどもマリーが結婚相手に出自を正直に告げると伯爵夫人はマリーのまっすぐで純粋な思いに心を打たれ、マリーとトニオの結婚を許す。


公演情報


『連隊の娘』
会場: 日生劇場
開演
2024年11月9日(土)14:00
     10日(日) 14:00
チケット料金:3,000円〜12,000円
詳しくは:日生劇場

                          砂田さんポートレイト:©️Edio Bison


今後の公演情報
五島記念文化賞 オペラ新人賞研修記念リサイタル 『砂田愛梨ソプラノリサイタル

会場:紀尾井ホール
開演
2025年2月19日(水) 19:00
チケット料金:一般4,500円/学生3,500円(税込)
詳しくは:キャピタルビレッジ

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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