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森絵都『アーモンド入りチョコレートのワルツ エリック・サティ<童話音楽の献立表>より』~小説を彩るクラシック#27

ふしぎな大人たちと木曜日のワルツ・タイム

奈緒はそんなへんな人たちのことをあるがままに楽しむことができる性格で、この四人で過ごす時間が楽しくて仕方ありません。
とくにレッスンのあとには夢のような時間が待っていました。
自称作曲家であるサティのおじさんはデタラメなワルツを弾いて踊り出す。絹子先生はみんなのために紅茶を入れる。
君絵は大声で歌い出す。やがてサティのおじさんは立ち上がって、絹子先生の手を取ってワルツを踊り、二人の少女も見様見真似で踊り出す……。

ふしぎな大人たちとのワルツ・タイムは、わたしをどこかべつの世界へ、別の次元へと導いてくれた。学校の教室で大声をあげてはしゃぎあう、クラスメイトたちとの楽しみとはまったくべつのものの何か、何か濃厚なときめきがそこにはあった。

それでも、こういった時間は長くは続きません。中学生の二人は遅くなる前に家へ帰らなければなりません。

わたしと君絵はしぶしぶ広間をあとにする。何度も、何度も後ろ髪を引かれながら。重たい扉へ手をかけて、一歩外の世界へと足を踏み出した瞬間、わたしは現実の味気ない景色に幻滅する。灰色のアスファルトに、やぼったい電信柱に、路上を行き交う人々の疲れた足どりに幻滅する。世界はあの広間のように、きれいにふわふわと揺らめいているべきなのに。

奈緒と君絵は毎週木曜日のレッスンの日を楽しみにしながら日々を過ごします。退屈な日常も、大人の仲間入りができるワルツの時間があれば乗り切ることができる……。

ですが、四人の時間は永遠ではありません。絹子先生とサティのおじさんの間で不協和音が響きはじめます。

1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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