三田誠広『いちご同盟』×ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』~小説を彩るクラシック#31

『四月は君の噓』で引用され再注目!三田誠広『いちご同盟』

三田誠広

三田誠広は1948年に大阪府に生まれました。
学生時代に書いた『Mの世界』で、文藝学生小説コンクールに佳作入選して、18歳を前にして作家デビューを果たします。

1977年『僕って何』で芥川賞受賞。1960年代の学生運動が背景とされる作品内容から、「団塊世代の旗手」と呼ばれるようになります。
代表作は『僕って何』、『春のソナタ』、『やがて笛がなり、僕らの青春は終わる』、『いちご同盟』など。

『いちご同盟』

『いちご同盟』は1990年に発表された青春小説です。1999年にはNHK教育テレビにおいて40周年記念番組としてドラマ化されました。近年では、クラシック音楽漫画として有名な、『四月は君の嘘』に登場したことで名前を知っている方も多いと思います。

登場人物

北沢良一
物語の主人公。都内の中学校に通う3年生。ピアノのレッスンに通いながら進路に悩んでいる。「死」に関心があり、自殺した詩人 原口統三の『二十歳のエチュード』を愛読している。

羽根木徹也
良一と同じ学校に通う。野球部のエースで四番。ぶっきらぼうだが人当たりがよく、女子生徒に人気がある。

上原直美
徹也の幼馴染。名門女子高に籍を置くが、現在は入院中。

あらすじ

良一が音楽室でラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』を弾いていると、同級生で野球部の徹也が入ってきて「明日の試合をビデオで撮ってくれ」と頼みます。
良一は「ピアノのレッスンがある」と断りますが、徹也は「人の命がかかっているんだ」と言い、その目つきがあまりにも真剣だったため良一は撮影を引き受けることに決めます。

試合は徹也の大活躍で勝利しました。投げては三振の山を築き、打っては3打数3安打、2ホーマー、6打点。良一はビデオを撮影しながら、凄い男だ、と感心します。
試合が終わると徹也は、有無を言わさない物言いで、「明日、新町の総合医療センターの正面玄関に二時だ」と告げ、良一は承諾します。

当日、徹也と共に病院に行くと、透きとおる白い肌をした女の子を紹介されました。
少女は、「テッちゃんの幼馴染の直美よ」と名乗ります。
徹也と直美が親密に話す様子を見て、邪魔してはいけないと思った良一は徹也を残して先に帰ります。

良一の母はピアノ教室の講師をしており、自宅の地下室でレッスンを行っていました。
帰宅すると、レッスン室からリストの『超絶技巧練習曲』が聴こえてきました。几帳面で正確な演奏でしたが、少しも感情がこもっていないように感じた良一は足早にリビングへ行き、アップライトピアノでラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』を弾きます。

良一には市立中学に通う1歳下の弟がおり(良一は弟を、数学とマーラーにしか興味のない、冷酷な合理主義者と評しています)、劣等感を抱いています。

両親は出来の良い弟ばかりを可愛がり、良一は将来に関していいイメージを想像することができず、原口統三や長沢延子、奥浩平という自殺した作家の作品を愛読、死に想いを馳せていました。

良一は母の大学時代の友人にピアノを習っていました。レッスン後に普段は優しい先生から「今の演奏だと、音楽高校は厳しい」と告げられます。良一は、普通校に進学するか、音楽高校に進むかを迷っていました。というよりは、未来を考えることを放棄しているようでした。

1982年、福島県生まれ。音楽、文学ライター。 十代から音楽活動を始め、クラシック、ジャズ、ロックを愛聴する。 杉並区在住。東京ヤクルトスワローズが好き。

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