小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』アンリ・ミュルジェール:~オペラ『ラ・ボエーム』の原作紹介~オペラの原作#07-2
ジャコモ・プッチーニ作曲
オペラ『ラ・ボエーム』の原作
アンリ・ミュルジェール『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』
2023年6月28日(水)〜7月8日(土)まで新国立劇場にて上演、配信のジャコモ・プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』
本記事では原作小説、アンリ・ミュルジェール『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』について2記事に分けてご紹介しています。
今回は後編、13章〜23章までのあらすじを読んでいきましょう。オペラ作品でのヒロインである「お針子のミミ」、台本のモチーフとなった「フランシーヌのマフ」の物語が登場します。
小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』の登場人物と舞台
小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』の登場人物
ロドルフ
詩人
マルセル
画家
アレクサンドル・ショナール
音楽家
ギュスターヴ・コリーヌ
哲学者。古本収集が生きがい
ミミ
お洒落好きな気の多い女性
ミュゼット
国務院の役人の愛人
フェミイ
染物娘
ジャック
彫刻家
フランシーヌ
お針子
小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』の舞台
1840年代のパリ カルチェ・ラタン
小説『ラ・ボエーム(ボヘミアン生活の情景)』のあらすじ
13〜23章
『ラ・ボエーム』あらすじ
13.引越し祝い
ある日、ロドルフが行方をくらませました。どこを探しても見つけられません。
とくに心配していたのはコリーヌで、雑誌に掲載予定の哲学論文をロドルフに託しており、やきもきしていました。
コリーヌの執拗な捜索は実り、ロドルフがサン=ジェルマン街の下宿にいるのを発見します。
その夜、仲間たちに手紙が届きます。それは晩餐会の誘いでした。署名にはロドルフ夫妻よりと書かれており、仲間たちは「あいつ、女ができたんだ!」と騒ぎだします。
約束の時間に仲間たちが駆けつけると、ロドルフは恋人のミミを紹介します。
「長いこと連絡できなかったのはハネムーンだったからなんだ」ロドルフはミミとの馴れ初めを語って聞かせ、新しい門出のお祝いということで、仲間たちは豪華な料理と酒で大いに盛り上がりました。
酔いつぶれたコリーヌとショナールをマルセルに任せ、ロドルフは恋人と過ごす甘い時間へ向かっていきました。
『ラ・ボエーム』あらすじ
14.マドモワゼル・ミミ
ロベルトとミミ、愛し合っていた若い2人は別れることになります。
暮らし始めて1ヶ月が経ったころ、ミミは女友達が贅沢三昧しているのを目にして羨ましく思います。「あんたみたいに綺麗だったら、すぐにもっといい暮らしができるわよ。」とそそのかされ、その考えに取り憑かれて家を空けるようになりました。
ミミを愛していたロドルフは浮気の気配を感じても何も言いだせませんでした。
2人の生活は8ヶ月続きましたが、耐え切れなくなったロドルフはミミに、他の恋人を見つけるがいいと告げます。
ロドルフが当たりをつけた場所に行くと、貴族とミミが腕を組んで歩いていました。
破局が決定的となり、ロドルフはミミの荷物を箱につめながら、空っぽの部屋で、2人で過ごした日々を思い苦しみます。
あの娘は一度でもおれを愛してくれたことはなかったんだろう。でもあの娘の優しい嘘は、おれに初めての青春と勇気を与えてくれた。
『ラ・ボエーム』アンリ・ミュルジェール 辻村永樹訳 光文社古典新訳文庫
ミミが荷物を取りに来ました。空気は険悪で、すぐに口論が始まりました。
ミミは部屋を飛び出し、代理の友人アメリがやって来ます。
「ミミは貴族と別れたわよ」と言うアメリを、ロドルフは「ぼくの知ったことじゃないね」と口説き始めます。それは彼女からミミの近況を聞くためでした。
アメリはミミに「ロドルフと舞踏会に行くの」と嬉しそうに伝えます。
ミミはアメリの彼氏に告げ口をして妨害し、ロドルフとアメリの待ち合わせ場所に向かいます。
「アメリは来ないわよ」
ミミが告げると、ロベルトは「それなら1人で行こう」と言い、立ち去りました。
その夜11時にミミがロドルフの家にやってきます。
「泊めてほしいんだけど」複雑な思いを抱えながらも、ロドルフは迎え入れます。
翌朝、まとめてあった荷物を渡そうとすると、ミミは本心を打ち明けます。
「ここからまた始まりにしたい。そしてずっと続いてほしい」
こうして2人はよりを戻します。
やれやれ、信じて裏切られるのと、裏切られるのを恐れて何も信じないのと、どちらがましだろうか。ロドルフはミミと手を繋ぎ、リュクサンブール庭園を歩きながらそう考えていました。
『ラ・ボエーム』あらすじ
15.愛される限り……
ある朝、マルセルとミュゼットが大喧嘩しました。
2人はいますぐ別れようという結論に達し別れの握手をしますが、どちらも手を離さず、本当はそれを望んでいないことに気づきました。
この下宿屋にはロドルフとミミも住んでおり、ほどなくしてショナールと染物娘のフェミイも加わり、はちゃめちゃなボエーム的生活が繰り広げられます。
このときボエームの集いが結成されて6年が経っていました。
こんな生活が続くと思っていましたが、ショナールとフェミイが別れ、ミミはロドルフのもとから去り、ミュゼットは社交界へ戻っていきました。
美しいミュゼットは華やかな世界でたちまちに人気者となりました。アレクシスという好青年の恋人もでき、幸せそうです。恋人を失ったロドルフとマルセルは一緒に暮らすようになりました。
2人はよくかつての生活やミュゼットの歌声、ミミの歌声を思い出し、青春の一端を持ち去っていった恋人のことをいかに愛していたのか確かめながら日々を過ごしていました。
ある夜、マルセルは美しい足の女性を目に止め、声をかけます。その女性はなんとミュゼットでした。2人は滑稽な会話のあとで真剣に話し、やがて恋心を取り戻します。
そして腕を組みながら、マルセルが住む家へ帰っていきました。
『ラ・ボエーム』あらすじ
16.紅海徒渉
『Drowning of the Pharaoh’s Host in the Red Sea』
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 画 ,1515〜1517年
出典:Wikimedia Commons
マルセルは5、6年かけて旧約聖書の〈紅海徒渉〉の場面を描いた作品に取り組んでいました。
傑作だとサロンへ出品する度に審査員から頑なに拒絶され、すでに何度も描き直し、隅から隅まで筆を加えていました。
ある日、ボエームたちが贔屓にしている古道具屋のメディシス爺さんがマルセルの〈紅海徒渉〉を150フランで買いたいとやってきました。
マルセルは少なすぎると主張しますが、それ以上は絶対に出さないとはねつけられます。ただ、豪華なご馳走を仲間たちに振舞うと言います。
それを聞いたコリーヌは当事者でもないのに「誰も異論はないな?」と大声で叫び、マルセルも絵を売ることを承諾します。
もてなしは見事なものでした。ボエームの4人は収穫祭のように酔っ払って、大いに盛り上がります。
この祝祭から一週間が経ち、マルセルは自分が売った絵を街角で発見します。
〈紅海徒渉〉は〈マルセイユの港にて〉と名前を変えて、食料品屋の看板になっていました。
看板を見ている人たちは、口々にこの絵を褒めそやしていました。
マルセルは気を良くして「民の声は神の声、か」とつぶやきました。
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