プレビュー 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2024/25 映画『ホフマン物語』3月28日(金)~4月3日(木) 1週間限定公開

新制作!
ダークでホラーチックな世界と全く異なる新しいホフマン物語

英ロイヤル・オペラで『カヴァレリア・ルスティカーナ』『道化師』『カルメン』そして現代のキャンプ場の一夜に設定した『コジ・ファン・トゥッテ』などで有名な演出家、ダミアーノ・ミキエレットが『ホフマン物語』を新制作しました。

詩人ホフマンの過去の苦い思い出である3つの恋を振り返るこのオペラ、さまざまな演出家がさまざまな解釈で舞台を作ってきました。ただ原作のE.T.A.ホフマンが後期ロマン派の幻想文学を代表する作家ということもあり、大体ダークでちょっと怖い雰囲気に包まれていることが多かったのです。そういう流れにミキエレットはとんでもないアプローチを打ち出してきました。
色の洪水、そして奇想天外なシチュエーション

ミキエレットは極彩色の舞台を用意しました。またダンサー(衣裳がキテレツ)も結構出てきて、竹馬男も登場し、なんだか夢のサーカスのような雰囲気(ちょっとデヴィッド・リンチのテイストが感じられます)。でもこれが意外とホフマンの心情にマッチしているから不思議です。それぞれの衣裳もとてもカラフル。そして実はセンスがなかなか良い! ニクラウスは鳥になっていてホフマンに寄り添います。
シチュエーションもユニークです。3つの恋を辿る流れをホフマンの成長物語としています。最初の機械人形のオランピアは学校にいます。ホフマンは子どもで制服を着ており、教室から斜め上を見上げると初恋のオランピアがいるという設定。これはバレエ『コッペリア』の舞台設定にそっくりでバレエを意識しているのではと思わされます。

アントニアは歌えない歌手ではなく踊れなくなったバレエ・ダンサーです。暗さとは無縁のパステルカラーに包まれたアントニアの部屋、そしてバレリーナもたくさん登場してとてもファンタジックです。3番目の高級娼婦ジュリエッタはお金持ちが集まっているようなゴージャスなクラブにいます。
奇抜な演出を正解にする達者な歌手たち

『ホフマン物語』は主人公のホフマン、ニクラウス、4役(リンドルフ、コッペリウス、ミラクル博士、ダペルトゥット)を担うことの多いバリトン、そしてオランピア、アントニア、ジュリエッタが際立つ役どころで、彼らの活躍が見どころとなります。今回ホフマンには、大人気のテノール、フアン・ディエゴ・フローレスが登場、学校の制服を着たり、ボサボサの頭になったりと奮闘していますが、彼の歌唱は揺らぐことなく安定しています。4役を演じたアレックス・エスポージトもキャラクターの細やかな演じ分けが素晴らしいです。オランピアのオルガ・プドヴァは期待以上のパフォーマンスを披露、アントニアのエルモネラ・ヤオはカラフルな中、くっきりと対照的な影の濃い悲劇的なヒロインを演じています。そしてマリーナ・コスタ=ジャクソンは艶やかでグラマラスなジュリエッタで魅了します。こういう演技力と歌唱力の両方のバランスが取れた一流の歌手が舞台に立つからこそ、この演出は成功しているのだと思わされます。

本編以外に、指揮者アントネッロ・マナコルダと3人のプリマ・ドンナがピアノを囲み、それぞれの役の特徴を語ったりアリアのさわりを歌ったりする映像もあり、非常に興味深いです。
これまでの『ホフマン物語』を一掃した、色味のあるE.T.A.ホフマンの幻想世界を楽しみましょう。

英国ロイヤル・オペラ・オペラハウス シネマシーズン2024/25 映画『ホフマン物語』
3月28日(金)~4月3日(木)TOHOシネマズ日本橋 ほか1週間限定公開
開演
各劇場による
チケット料金
一般・シニア 3,700円
学生・小人 2,500円
詳しくは:東宝東和
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