• HOME
  • 公演レビュー
  • ゲネプロ見学レポート:東京二期会『イオランタ/くるみ割り人形』2025年7月17日(木)東京文化会館

ゲネプロ見学レポート:東京二期会『イオランタ/くるみ割り人形』2025年7月17日(木)東京文化会館

チャイコフスキーのオペラとバレエが一つの作品に
繰り返し上演し続けてほしい

チャイコフスキーの最後の1幕もののオペラ『イオランタ』と最後のバレエ『くるみ割り人形』、この2作品は1892年12月にサンクトペテルブルクの帝室マリインスキー劇場にて同時に初演された。もともと一緒に上演された2作品を、ひとつの作品として楽しめるように合体し再構築したのがこの作品。チャレンジングな試みは心あたたまるファンタジックな作品となった。特にオペラやバレエの知識がなくても誰もが楽しめる舞台、繰り返し上演してほしい。

ウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン国立バレエ団との共同制作。日本上演でのバレエシーンは東京シティ・バレエ団が出演した。

思春期を迎えたイオランタ姫の成長物語


演出を手がけたのはウィーン・フォルクスオーパーの芸術監督であるロッテ・デ・ベア。

生まれつき目の見えないイオランタ姫は、見えないことを教えられることなく育てられている。もちろん見えるようにしてあげたいと父のルネ王は思い、遠方から医者のエブン=ハキアを呼び寄せるが、彼から本人が見えていないことを自覚し、見えるようになりたいという意志を持たない限り、見えるようにはならないと言われてしまう。やがて許嫁ロベルトではなく、恋に落ちたヴォデモンから目が見えないという事実を教えられ、自ら見えるようになりたいと思ったイオランタ姫はやがて見えるようになる。

生まれた時から変わらぬ状態でいる一人の少女が真実を知り、自我を確立していくという成長物語の演出はとても自然でわかりやすく、また歌手にとっても表現しやすかったのではないだろうか。シンプルな白いワンピースをまとったイオランタ姫はずっと儚げであったけれど、光を得た最後、堂々と、朗々と自信に満ちた歌唱で大人の女性へと成長したことをうかがわせた。イオランタ姫を演じた川越未晴は、イノセントなかわいらしい少女から大人の女性への変化を見事に表現していた。

ミニマムなセットとは対照的
ファンタジックなバレエシーン


『イオランタ』は合唱がなく、登場人物も少ない。ステージ上の美術、衣裳はとてもミニマルでシンプル。そこにほぼ交互に出てくるバレエシーンは対照的に色彩にあふれ、とてもファンタジック。バレエシーンはイオランタ姫の夢の世界、という設定だそうで、目の見えない彼女の思い描く花や人物は単にかわいい、だけでなく人物は頭が異常に大きかったり、花やケーキもちょっと変わっていてややキッチュさもありとても独特で楽しく目をひく。バレエシーンはバレエというもののポワントは履いておらず、伸びやかに舞台いっぱいに動き回り、オペラシーンとは静と動、といった対照をなしていて視覚的に楽しめた。

最初に登場するバレエシーンはなんと『くるみ割り人形』では大人気の「花のワルツ」。不思議なフォルムの花たちが舞うさまは、男女で踊られるいわゆるワルツと大きく異なっていた。「金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥ」でも男女のパ・ド・ドゥは繰り広げられない。バレエというよりもダンスといった方が相応しい。


そして、バレエシーンの演奏が素晴らしかった。細部まで音がよく聞こえ、メリハリがあり豊かな音響で、『くるみ割り人形』がいかに美しい音楽に満ちているかを再認識できた。

『くるみ割り人形』に比べ『イオランタ』は上演される機会は多くない。けれどもこの作品には悪者は一人も出てこない。陰謀や復讐もない。みなイオランタ姫を思い静かに見守る。そこに華やかでカラフルなバレエがオペラの演出の一部ではなく、作品の構成の一部として出てくる。そしてハッピーエンド。

ジャンルにこだわりがなく、こういうものとして素直にうけとめられる感性の持ち主にはとても楽しい作品だ。子どもと一緒に鑑賞するにも最適だと思う。

クリスマス・シーズンや夏休みなどに毎年上演されたら、新たな定番作品として作品は愛され定着していくだろう。

再演されることを期待したい。



指揮 マキシム・パスカル
演出 ロッテ・デ・ベア
振付 アンドレイ・カイダノフスキー

イオランタ 川越 未晴
ルネ  北川 辰彦
ヴォデモン伯爵 岸浪 愛学
ロベルト 菅原洋平
エブン=ハキア 宮本益光
アルメリック 濱松孝行
ベルトラン ジョン ハオ
マルタ 一條翠葉
ブリギッタ 田崎美香
ラウラ 川合ひとみ

管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。