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≪レビュー≫アンヌ・ケフェレック ピアノ・リサイタル2022年3月21日(月・祝)彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール

アンヌ・ケフェレック ピアノ・リサイタル
2022年3月21日(月・祝)彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール

共感し心慰められる、特別な演奏会


©横田敦史

彩の国さいたま芸術劇場初登場となるアンヌ・ケフェレックのリサイタル。当初予定していた曲目とは大きく異なるプログラムとなった。

ケフェレックのキャリアは長く輝かしく、ミロス・フォアマン監督の映画『アマデウス』のサウンドトラックにてネヴィル・マリナー指揮によるピアノ協奏曲のピアノを担当したことでも知られている。
日本では「ラ・フォル・ジュルネ」を含め何度も来日しており、バロック、古典派から現代までとレパートリーも広い。
知的で深い洞察、美しい音で日本での人気も高いケフェレックだが、この日はさらにあたたかく慰められるような感情を抱く、特別な演奏会だったと思う。

前半はバッハ、ヘンデルで5曲とモーツァルトのピアノ・ソナタ第13番、後半はサティ、プーランク、セヴラック、ラヴェルなどフランスの近代の小品を11曲、続けて演奏した。

バッハは、『協奏曲ニ短調』BWV 974からアダージョ、 BWV596からラルゴ、などが演奏されたが崇高さというよりは静かな祈りに満ちていた。
特にコラール『主よ、人の望みの喜びよ』は、静かに深く心に沁み入った。
モーツァルトのピアノ・ソナタ第13番は「光」を表現しているというケフェレックの言葉通り清冽で救われるような明るさがあった。

後半は、サティの『グノシェンヌ』第1番と第3番、『ジムノペディ』第1番と第3番、ラヴェル『鏡』第2曲『悲しい鳥たち』、ドビュッシー『ベルガマスク組曲』から第3番『月の光』など11曲を一気に弾き切った。
フランス近代曲の美しい音響に満ち、ケフェレックからピアノで語りかけられているような、ケフェレックがピアノと会話しているのを聴いているような「特別感」を味わうことができた。

アンコールは世界が平和であることを願うコメントをしてからのショパン『幻想即興曲』。憂いを帯びた悲しみが感じられた。

この日の演奏は、困難な状況にある今を生き、平安な日常が戻ることを願う思いに満ちていた。
いたわり、祈るような気持ちが、彼女のとことんピュアで芸術性の高い演奏から感じ取ることができたのである。
ケフェレックにしかなし得ない演奏に、観客は大変な集中力で聴き入っていた。

文:結城美穂子



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エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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