E.T.A.ホフマン『クレスペル顧問官』:オペラ『ホフマン物語』の原作紹介〜オペラの原作#05
小説『クレスペル顧問官』のあらすじ
『クレスペル顧問官』あらすじ
1.奇人クレスペル
クレスペル顧問官は、わたしがこれまでの人生で出会ったとびきりの奇人のひとりだった。
『砂男/クレスペル顧問官』ホフマン
大島かおり訳 光文社古典新訳文庫
「わたし」がH市にやってきたとき、町中がクレスペルの噂でもちきりでした。
クレスペルは、学識高い法律家、有能な古文書学者でもあるのですが、自作の奇妙な服を着ていたり、左官屋にでたらめな建築方法を指示して家を建てたりと、常識から外れた行動をとることで有名でした。
ある日、「わたし」はM教授宅で、クレスペルと同席することになります。
その場で、教授の姪がクレスペルに「わたしたちのアントーニエはどうなさっています」と話しかけます。
「わたしたちの?わたしたちのアントーニエですと?」
不愉快そうな様子のクレスペルに教授が続けます。
「ヴァイオリンのほうはどんなぐあいですか?」
「じつにうまくいってますよ」
このようなやりとりを耳にした「わたし」は、教授に訊ねます。
「ヴァイオリンだの、アントーニエだのいったいなんなのですか?」
教授が話すには、クレスペルはヴァイオリン製作の名人ということでした。
「それではアントーニエとは?」
教授が言うには、クレスペルはH市にやってきたときは、隠者のような暮らしをしていたそうです。ですが、彼の変人ぶりが近所の人たちの好奇心をかきたて、徐々に友人が増えていきました。
しばらくH市に滞在していたクレスペルは、数か月間の旅に出てもどってきました。その翌晩、クレスペルの家に灯りが灯り、中からすばらしい歌声が聞こえてきました。伴奏のヴァイオリンを弾いているのはどうやらクレスペルのようです。
その歌声、だれともわからぬ人のじつに独特な、心の奥底に深く迫ってくる歌唱全体にくらべたら、それまでに聴いたどんな有名な歌姫たちの歌も、表現力にとぼしい味気のないものに思えたほどでした。
『砂男/クレスペル顧問官』ホフマン
大島かおり訳 光文社古典新訳文庫
その甘美このうえない魔法のとりこにならない者は、ひとりとしてなく、歌い手が沈黙したときは、ただしずかな吐息が深いしじまのなかへ立ちのぼるばかりでした。
『砂男/クレスペル顧問官』ホフマン
大島かおり訳 光文社古典新訳文庫
教授はクレスペルの家の前で圧倒的な歌声をしみじみ聴いていました。
音楽が止み、静寂が訪れた後、家の中からクレスペルの激しい声が響き、若い男が涙にむせびながら飛び出してくるのが見えました。
翌日、クレスペルの家政婦に昨晩の事情を訊くと、旅から戻ってきたときに連れて来た女性がアントーニエで、家を飛び出した若い男は彼女の婚約者だということでした。
教授はアントーニエとクレスペルの関係は未だにわからないと「わたし」に話し、「わたし」は是が非でもアントーニエに会ってみたいと思いました。
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