E.T.A.ホフマン『大晦日の夜の冒険』:オペラ『ホフマン物語』の原作紹介〜オペラの原作#06
E.T.A.ホフマンについて
E.T.A.ホフマン 出典:Wikimedia Commons
法律家の家に生まれたホフマンは、幼少期から音楽と絵に熱中していました。
現在では、幻想作家というイメージが強いホフマンですが、自身の名前、エルンスト・テオドール・ヴィルヘルム・ホフマンを、アマデウス・ホフマンに変えて創作を行うなど、音楽を信望、愛する気持ちが強く、実は音楽家として名を残すことが夢だったようです。
ホフマンは、管弦楽曲、室内楽曲、ピアノ曲をはじめ、カンタータやオペラなども作曲し、3幕オペラ『ウンディーネ』は、絶賛され、音楽家としても一流であることが証明されました。
代表作は、『黄金の壺』、『砂男』、『ブランビア王女』、『牡猫ムルの人生観』、『くるみ割り人形とねずみの王さま』など。
ユーリエとジュリエッタ
「ぼく」のかつての恋人ユーリエと、エラスムスから鏡像を盗むジュリエッタ、ユーリエのイタリア語縮小形がジュリエッタだということから、この二人は同一人物であると言われています。
天使のような容姿と、優しく甘い声、そして悪魔の顔をもつという女性像は、ホフマンの実体験から生まれました。指揮者の職を得て、ドレスデンへ移ったホフマンは、音楽教師として歌唱を教えていた20歳年下のユーリア・マルクに恋をするのですが、彼女は裕福な商人と結婚、ホフマンは絶望し、猛烈な勢いで執筆に取りかかります。
この恋愛体験は、『大晦日の夜の冒険』、『クレスペル顧問官』などに色濃く表れています。
関連作品
『ペーター・シュレミールの不思議な物語』アーデルベルト・フォン・シャミッソー
作中に登場する背の高い痩せた男というのは、アーデルベルト・フォン・シャミッソーが書いた『ペーター・シュレミールの不思議な物語』の主人公、「影をなくした男」ペーター・シュレミールです。
この作品にすっかり惚れ込んでいたホフマンは、作品完成後、敬愛するシャミッソーへの贈りものとして、彼と友人たちの前で朗読をして聞かせました。
Wikipedia: Foto H.-P.Haack, CC BY-SA 3.0
出典:Wikimedia Commons
『鼻』ニコライ・ゴーゴリ
「パンから鼻が飛び出して、人格を持って歩き出す」
荒唐無稽で、不条理な作品『鼻』を書いたゴーゴリは、ホフマンの影響を受けた作家の一人です。
いきいきとしたユーモアと風刺が魅力的なこちらの作品も、『大晦日の夜の冒険』同様、アイデンティティの喪失を描いた作品といえると思います。
『巨匠とマルガリータ』ミハイル・ブルガーコフ
『大晦日の夜の冒険』には「悪魔に鏡像を奪われた男」が出てきますが、幻想、風刺という作風で、なおかつ〝悪魔〟が登場する作品といえば、以前紹介させていただいたブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』が真っ先に思い浮かびます。
こちらは、モスクワに現れた悪魔ヴォランドが、街をしっちゃかめっちゃかにしてしまうという作品なのですが、両作品とも、上質な詩情と、独自的な幻想性があるという点で共通していると思います。
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