『浜辺のアインシュタイン』演出・振付 平原慎太郎インタビュー

『浜辺のアインシュタイン』演出・振付
平原慎太郎インタビュー

神奈川県民ホールは、2025年に開館50周年を迎えます。芸術総監督の一柳慧、芸術参与の沼野雄司らを中心に2025年に向けて「さまざまなテーマで革新的な舞台芸術を創造発信する」とし、2022年10月に作曲家フィリップ・グラスと舞台演出家ロバート・ウィルソンによるオペラ『浜辺のアインシュタイン』を開館50周年記念オペラシリーズVol.1として上演することになりました。

今回、特に注目が集まっているのは、30年ぶりの日本上演ということ、さらに日本人による新演出ということです。30年前、1992年に日本初演された際は新演出ではなかったのです。
新演出・振付担当として白羽の矢が立ったのは、平原慎太郎。自らのカンパニー OrganWorks を率いるダンサー、振付家です。

ミニマル・ミュージックの巨匠、フィリップ・グラス作曲の『浜辺のアインシュタイン』は、1976年、フランスのアヴィニョン演劇祭で初演されました。オリジナルの上演時間は4時間ほどで、ストーリーはなく(セリフ、歌詞はある)、ダンスとずっと繰り返される旋律で舞台は進行します。ドラマティックなストーリーや美しい旋律のアリアなどで観客を魅了する従来のオペラとは全く異なっています。ステージで起こっていることのすべてをあるがままに受け入れ、感じ、イメージする斬新なオペラ。一体、今回の演出はどのようになるのでしょう。

平原慎太郎氏にお話をうかがうことができました。

身体と音楽が拮抗したようなオペラを目指す

オペラ演出・振付の依頼を受けて思ったこと

オペラは以前から興味があったんですが、これまで携わったことはなかったです。今回、連絡いただいた時に「身体と音楽が拮抗したようなオペラを目指したい」とお話をうかがいました。通常オペラって演出家の方がいらっしゃるじゃないですか、だからダンスの振付パートを担当するんだろうなと思ったんですよ。ところが、全体の演出をということでした。最初、作品タイトルは聞かされなくて、グラスのオペラをやろうと思っていると言われたんですね。それで結構ビビりまして、早速グラス作曲のオペラを見てみようとしたんですけれどなかなか見ることができずにいました。

ミニマル・ミュージックとの関わり

やっぱりダンサーなのでミニマル・ミュージックはよく聴きます。スティーヴ・ライヒは定番だし、フィリップ・グラスの作品も使ったことがあります。デヴィッド・ラングはすごく好きで聴いていますね。


スティーヴ・ライヒ ミニマルミュージックの先駆者として知られる。1990年、1996年にグラミー賞、2009年にピューリッツァー賞を受賞。
デヴィッド・ラング ミニマルミュージックを発展させたポストミニマルの代表的作曲家。2010年にグラミー賞、2008年にピューリッツァー賞を受賞。

自由な演出と振付を──ダンスで語っていく

演出プランについて

これまでの演出とは全然違うところを狙っています。俳優さんが二人いらっしゃいますが、基本ダンスで語っていくという感じです。反面ダンスっぽくない動きもあるかもしれないけれど。演出効果によって舞台の色味を変えたいなとも思っているんです。

自分の演出がどうとらえられるのか、そりゃ怖いですよ。でもどんなふうに見てもらってもいいと思っています。

この音楽を聴いていると陶酔感があるなどと言われたりもしているようですが、僕はグルーヴ感よりもある種の厳粛さを感じます。削ぎ落とされたものが訥々と繰り返されていく中での潔さ、数字が持つ清廉さ、神聖さを感じる。その受けたイメージを大切にしたいなと思っています。今は、作っては壊す、の繰り返しです。しんどいです。長い期間一つの作品に携わるというのは、幸せなことですけれどね。

全く新しいものを作る気持ちでいます。「私の『浜辺のアインシュタイン』像」をお持ちの方のイメージを壊したい。トレーラーに出てくるダンス、あれとも多分全然違うアプローチになると思います。

攻めていくダンス、受け止める音楽

音楽チームとのコラボレーションについて

たゆたうようにいる音楽をどう演出するか──オーケストラの編成が変わっているんですね。それに伴い、音色がおもしろい。それが見えるような形にはしたいなと思っています。単に視覚的にも、また音楽が見えているように感じるという意味でも。楽器の聞こえ方がおもしろいなとか歌だけでこんなことやってるんだ──それを視覚化できるようにしたい。
ダンスが先行して音楽が持つ世界を壊しすぎないように、音楽と一緒に居ることを心がけます。たとえ先行したとしても音楽の場所に戻ってこれるようにしたいです。キハラさんはおおらかな方なので全部受け止めてくれます、きっと。踊る時はとことん攻め進む感じです。

集まったダンサー

出演ダンサーのオーディションについて

オーディションでダンサーを募りました。130人くらいオーディションにきていましたね。

言ったことに対して体でコミュニケーションが取れるか、という基本的な能力、ダンサーとしての一般的な感覚を見させてもらいました。

意外とダンス作品だなと思う作品になると思うんです。中村祥子さんをはじめとして、ダンサーの能力を充分に発揮させたいですね。出し惜しみして終わり、なんてことのないようにしないと。こういうものを導き出したいという道筋はいくつかもう出ています。

大友克洋さんが描いたポスター

『AKIRA』『童夢』などで知られる漫画家、映画監督の大友克洋による本公演ポスターイラスト。
今回、平原のオファーが実ってメインビジュアルを手掛けてもらった。

大友克洋さんにリクエストしたポスター、チラシのイラスト

大友さんが描いてくれたイラストには後ろ姿が描かれていますよね。後ろ姿がいいなと思っていたんです。イメージとしては、曇り空に子供が向かっていく。その雲の先にどうやっていくか、みたいな。細かく説明していないのにイメージとぴったりで驚きました。ピンとくるものが共通していたんですね。

頼もしいスタッフ

大規模な仕事を経験するということ

スタッフ勢は力があって、美術の方も衣装の方もかなり力強いです。それだけでも楽しくて、その思いをダンスに乗せていきたい。

そもそも1992年の日本初演時のノウハウを知っている人は今回のスタッフにはいないんです。3時間以上弾けるのか、歌えるのか、踊れるのか、スタッフは立ち回れるのか、と考えるとチャレンジングなことだなとつくづく思います。ただ日本のこれからの舞台にとってチャレンジは必要です。

難解な作品にチャレンジするのはいい経験だと思っています。それに今、こういう大規模な仕事を経験しているダンサーが少ないんです。公共事業が少ないから。すぐれたスタッフが集まる、チャレンジングな大仕事を若いダンサーに経験させる良い機会だと思っています。


平原慎太郎演出・振付の『浜辺のアインシュタイン』は何を感じさせてくれ、さらにそこから何をイメージすることができるのでしょうか。ユニークな楽器編成、難しい合唱、ダンス、演者、そして永遠に続くかと思われる旋律の繰り返し。この作品は「ミニマル・ミュージックの金字塔」「イメージの演劇」などと言われたりもしますが、演奏機会はそれほど多くはなく、実際にライブを経験したことのある人は少ない作品です。

2022年10月、いよいよ『浜辺のアインシュタイン』を私たちは体験することができるのです。


『浜辺のアインシュタイン』

2022年10月8日(土)、9日(日)
会場:神奈川県民ホール 大ホール

開演:13時30分
★ チケット料金
2000円(24歳以下の学生)〜10000円

詳しくは:神奈川県民ホール


平原慎太郎 プロフィール

1981年北海道生まれ。
クラシックバレエ、HipHopのキャリアを経てコンテンポラリーダンスの専門家としてダンサー、振付家、ステージコンポーザー、ダンス講師として活動。また、ダンスカンパニー「OrganWorks」を主宰し創作活動を行う。
近藤 良平主宰「コンドルズ」、大植 真太郎主宰の「C/Ompany」等、国内外のダンス作品に参加。
能楽師 津村 禮次郎との共作、劇団イキウメ、小林 賢太郎、小林 顕作、白井 晃などに振付提供、美術家 塩田 千春や播磨 みどり作品とのコラボレーション等、他分野のアーティストとの交流も盛んに行う。
雑誌「BRUTUS」の特集『つぎのひと。~ 明日を変える人物カタログ~』でパフォーミングアーツ部門で選出される。

2013年 文化庁新進気鋭芸術家海外研修派遣にてスペインに9ヶ月研修。
2015年 小樽市文化奨励賞受賞。
2016年 トヨタコレオグラフィーアワードにて次代を担う振付家賞、オーディエンス賞をW受賞。
2017年 日本ダンスフォーラム、ダンスフォーラム賞受賞。

OrganWorks公式HPより


インタビュー
『浜辺のアインシュタイン』記者発表

エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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