プレビュー:新国立劇場オペラ『修道女アンジェリカ』『子どもと魔法』

2023年10月1日(日)〜9日(月・祝)
新国立劇場オペラパレス

シーズンオープニングは新制作のダブルビルでテーマはわかりやすく奥深い「母子の愛」

1幕もののオペラ2作品を一度に楽しめるお得感がいい

 新国立劇場のオペラ、2023/2024シーズンの始まりは、ダブルビルです。

プッチーニの『修道女アンジェリカ』、ラヴェルの『子どもと魔法』でどちらも新制作です。初演年が1918年、1926年と割合近く20世紀のオペラなのですが、趣は全く異なります。

『修道女アンジェリカ』は未婚で出産し修道院に入れられてしまったアンジェリカが子どもを思う──母が子どもを思う姿が描かれ、『子どもと魔法』は子どもが母を求める姿が描かれる、というように母から子へ、子から母へ、という「母子の愛」がテーマという点で共通しています。

『修道女アンジェリカ』──あらすじ 子を思う母の物語

アンジェリカ キアーライゾットン             公爵夫人 マリアンナ・ピッツォラート

 プッチーニは、1幕もののオペラ作品3作を一晩に上演するということを1918年メトロポリタン歌劇場で行いました。『外套』『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』のことで、この3作品はプッチーニ「三部作」と言われています。それぞれ人気があり、単独で、あるいは他の作曲家の1幕ものの作品と組み合わせて盛んに上演されています。今回の『修道女アンジェリカ』はプッチーニ「三部作」の一つというわけです。

17世紀末、イタリアの修道院が舞台です。混声合唱以外は女声で演じられます。

貴族の娘アンジェリカは未婚のまま出産します。彼女は子どもとは引き離され、修道院に入れられてしまいます。子どもの消息を知らされることはないものの毎日子どものことを思い過ごしていました。7年が経ち、アンジェリカのもとに、(すでに両親が他界していたため)後見人として財産を管理していたおばである公爵夫人が訪ねてきて、妹が結婚するので財産放棄するよう迫ります。その時に初めて子どもはすでに2年も前に亡くなっていたことを知らされます。アンジェリカは子どもに会いたい一心で毒薬を自ら調合し自殺を図ってしまいますが死にきれません。カトリック信者にとって自殺は大罪、聖母マリアに赦しを求めて祈り続けます。祈りが届き聖母マリアと息子がアンジェリカのもとに現れ、彼女は赦され、息を引き取ります。

おばから息子の死を知らされ、一度も息子をこの手に抱いてあげることのできなかった無念さを歌うアリア「母もなく」が聞きどころです。

『子どもと魔法』──あらすじ 母を思う子の物語

 もともとはバレエも演じられることになっているのですが、今日ではバレエが踊られることはほぼありません。オペラとバレエを融合させるオペラということでラヴェル自身が「ファンタジー・リリック(幻想的オペラ)」と名づけています。

人間は男の子の子どもとその母親だけで、椅子、置き時計、ティーポット、猫、火、リス、カエルなどさまざまな人間以外のものが登場します。舞台美術や衣裳に注目です。

遊びに行きたいのに宿題をしなければならず家にひとりでいる子ども。お母さんは「宿題をしないとおやつは乾いたパンと砂糖抜きのお茶ですよ」と言い残して出かけてしまいます。おもしろくない子どもは室内にあるものたちに八つ当たりし放題。庭の木や動物にも攻撃します。

やがて、子どもはいじめられたものたちに逆襲されます。そんな中、動物たちが子どもを襲い始めた喧騒に巻き込まれてリスが怪我をしてしまいます。子どもはリスの傷の手当てをしてあげます。その様子を見ていた動物たちは、子どもに優しい心があることに気づき、ママのところに連れて行ってあげようと言い始めます。

最後は子どもが「ママ」と叫んで終わります。

注目のキャスト 新国立劇場初登場のクロエ・ブリオなど

こども  クロエ・ブリオ                            お母さん 齊藤純子

 『修道女アンジェリカ』にはアンジェリカ役にキアーラ・イゾットンが出演します。新国立劇場には2021年の『トスカ』で主役を歌っています。公爵夫人にはマリアンナ・ピッツォラートが登場します。2023年の『ファルスタッフ』のクイックリー夫人で新国立劇場に初出演しました。

そして『子どもと魔法』の子ども役はクロエ・ブリオが歌います。若手ソプラノで、この『子どもと魔法』の子どもは当たり役。この作品を今聴くならベストなキャストで、期待が高まります。お母さんにはメゾソプラノの齊藤純子が登場します。

オペラ初心者に最適なプログラム

 オペラは通常、1作品を上演するのに休憩時間を含め2〜3時間、もっとかかる場合もあります。けれども1幕で完結するオペラ作品も結構あり、ダブルビルとして上演される場合が多いです。今回もそれぞれ上演時間は1時間程度ですので、集中力が途切れこともなく豊かな鑑賞体験ができます。今回は気軽に劇場へ行けます。ぜひ2作品の「母子の愛」の描き方を楽しみましょう。

画像|クレジット一括記載


2023年10月1日(日)〜9日(月・祝)
新国立劇場オペラ『修道女アンジェリカ』『子どもと魔法』
会場:新国立劇場オペラパレス

開演
10月1日(日) 14:00
  4日(水)19:00
  7日(土)14:00
  9日(月・祝)14:00

チケット料金
29,700円〜1,650円

詳しくは:新国立劇場



エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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