レビュー:『ベジャール・ガラ』2022年7月22日(金)東京文化会館
『ベジャール・ガラ』2022年7月22日(金) 東京文化会館
ベジャール作品を見られる幸せ
旬のダンサーが踊り継いでいくベジャール作品は、東京バレエ団の宝物
7月22日、20世紀最高の振付家のひとりモーリス・ベジャールの作品を、東京バレエ団がカンパニー初演してから40周年を記念したガラ公演が行われた。
時々見たくなる『ギリシャの踊り』
Photo:Kiyonori Hasegawa
『ギリシャの踊り』は、「二人の若者」を踊った岡崎隼也と井福俊太郎、ソロの樋口祐輝が光っていた。樋口は『M』での聖セバスチャンで鮮烈な姿を披露したが、成長著しく精悍さが加わった。ベジャール作品を得意とするダンサーになるのだろうと予感させた。
この作品には不思議な魅力がある。いわゆる芸術音楽ではないギリシャの民謡のような音楽を使用し、全体はギリシャ色を感じさせ明るい雰囲気でさらさらと流れていくのだが、実はフォーメーションが緻密で普遍的な魅力を湛えている。40分があっという間で、時々見たくなる作品。またいつか魅力的なソリストが登場し、上演されるのが楽しみだ。
ダンサーの個性に合致したキャスト
Photo:Kiyonori Hasegawa
『ロミオとジュリエット』、この日は秋山瑛と大塚卓。2人は身長差があるので、軽々とリフトされる秋山は重力を感じさせず妖精のように見えた。無心に舞うように踊る2人の姿は美しい。この作品も力まず自然に踊っているように思えるのだが、ベジャールの音楽の使い方が素晴らしい。ベルリオーズの音楽を熟知している巧みさに感嘆した。
Photo:Kiyonori Hasegawa
『バクチIII』は上野水香と柄本弾が登場。溢れ出るエキゾチックさを2人は堂々と踊る。体のラインの美しさも惜しげもなく見せつける。他の演目とは明らかに異なる独特なエキゾチシズムに呑まれない2人には説得力があった。
9年ぶりの上演『火の鳥』から新しさを感じる
Photo:Kiyonori Hasegawa
火の鳥を踊ったのは池本祥真。「渾身の」という表現では足りない、命を燃やすような火の鳥を見せてくれた。この作品の初演は1970年パリで行われた。
東京バレエ団の初演は1989年、今回は9年ぶりの上演となる。作品の初演から半世紀を経ても変わらず新鮮で、不屈な強い意志をひしひしと感じた。それは火の鳥だけでは表現できないことで、パルチザンのブレない意志も相まってこそ。パルチザン1人ひとり、はっきりと顔がわかる踊りだった。
そもそもストラヴィンスキーのこの曲はバレエのために作られた音楽ではあるが、大変な緊張と爆発的なエネルギーを孕んでおり、曲だけで十分かっこいい。その音楽に寄り添ったりせず挑むような池本とパルチザンたち。
おそらく音楽がよく聴こえていたのだと思う。こういうダンサーの意志が感じられる「火の鳥」は、いつまでも新鮮さを保ち続けられることだろう。
一丸となって取り組むイノセントな姿に感動
すばらしいパフォーマンスを見せてくれたダンサーの個人名を挙げたが、今回特に感じたのは誰かが突出してすごかった、というのではなく、舞台に上がったダンサー全員に本当に感動した。ベジャール作品を自分のものにしたい、という気持ちが伝わってきた。
素直に無心に踊る姿は、ダイレクトに見る者の心に響く。ベジャール作品が好きかどうかを超えたところで、ダンサーのパフォーマンスに感動したのだった。
東京バレエ団は、歴史に残る振付家の作品をレパートリーに持っている。時代を超えて残っていける力のある作品に向き合える彼らは幸せだ。彼らが懸命に作品を理解する努力を続ける限り、ベジャール作品は色褪せず、今を生きる作品として私たちに感動を与えてくれるだろう。
ヘッダー写真:Kiyonori Hasegawa
この記事へのコメントはありません。