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レビュー:ヒューストン・バレエ『白鳥の湖』2022年10月30日(月)東京文化会館 大ホール

ヒューストン・バレエ『白鳥の湖』
2022年10月30日(月)東京文化会館 大ホール

(オデット/オディール:加治屋百合子、ジークフリート王子:コナー・ウォルシュ)

久しぶりの海外バレエ団の来日公演
初来日で魅了したオリジナル・プロダクション

カンパニーの良いところが存分に披露された『白鳥の湖』

初来日の新鮮さ、目新しさ

アメリカからのバレエ団の来日公演は久しく途絶えていた。ヒューストン・バレエは日本人ダンサーが所属していることは知られていたものの、日本で公演を行ったことは一度もなかった。
コロナ禍で多くの来日公演が中止となってから、初めて海外のカンパニーの引越公演として、ヒューストン・バレエはやってきた。しかも初来日!

上演する作品は『白鳥の湖』のみ。芸術監督であるスタントン・ウェルチが振り付けたオリジナル版。初お披露目の作品なのだから自信作に違いない。

実際に公演を鑑賞してみると、これまでに見たことのない『白鳥の湖』はとても新鮮にうつり、ワクワク感満載だった。さらにダンサーのレベルが高く、世界基準のカンパニーであることを見せつけたのだった。

充実した男性ダンサー群

『白鳥の湖』といえば白いチュチュを身に着けた女性ダンサーによる白鳥がたくさん出てくるのだが、もちろんこの版でもたくさん出てくる。
ところがこの版では第1幕で男性ダンサーの群舞があり、それが強烈な印象を残した。事前に情報を得ていたもののライブで見てみると、その迫力に圧倒された。
背が高く、バレエを踊るために鍛え抜かれた体型のダンサーたちがずらりと揃い、とても見栄えがするのと、スピーディで力強い。男性群舞をこのように堂々と『白鳥』で踊られると爽快ですらあった。

自由度が高くわかりやすい演出

ドレス姿とチュチュ姿のオデット 写真クリックで拡大

見どころとして、舞台に上がっている人々がみなよく踊る、という点が挙げられると思う。特にディヴェルティスマンに顕著で、外国からやってきたプリンセスに付き添う使節が、決して若者という設定ではなく丈の長い衣裳を身に着けているのに踊り出す、あるいはディヴェルティスマンでプリンセスのバックに必ず男性ダンサーがいて彼らもよく踊る、というもの。
ありきたりなディヴェルティスマンではなく、どれもとても趣向が凝らされていた。所属している日本人ダンサーたちもここで登場し、楽しむことができた。

音楽の使い方も実に自由。通常の進行を期待しているとところどころで違うメロディーが鳴り出した。特にヴァイオリンのソロからディヴェルティスマンへと入っていく流れは新鮮だった。

王子とオデットの出会い、夜の間だけ人間に戻れるオデットたち、王子の憂鬱なお妃選びなどなど、物語が理解できるように、丁寧にわかりやすい演出がなされていた。
特に王子と出会うときにはオデットは人間としてチュチュを着けておらずドレス姿、このドレスとチュチュの違いで今オデットは人間か白鳥かが見ている者にもわかるように工夫されていた。オデットの衣裳の早替えというのも、この版の特徴と言えると思う。  

舞台美術も美しく、衣裳とマッチしていた。王子の衣裳に黒、白、青色が全く使われていないのも意表を突いていた。

息を呑む美しい加治屋百合子の白鳥

加治屋百合子のオデット

 所属するカンパニーの全幕バレエの主役としての加治屋百合子を、ようやく見ることができた。元気で活発なダンサーがたくさんいる中、加治屋は一人、静謐な世界でしっとりと丁寧に踊っていた。王子のコナー・ウォルシュも的確なサポートで誠実な王子を好演。いろいろ意外性があり新鮮味あふれる展開の中、この王子とオデットの二人には静かな時間が流れていて、彼らの美しいありようはこの版の最大の魅力だと思う。

自由な発想、それを実現させる自由

写真クリックで拡大

ウェルチ版『白鳥』は初めての鑑賞ということで新鮮さが勝って心地よく楽しめた。音楽を変える、男性群舞が魅力的、王子の成長物語という側面は抑えめになっている、など通常とは異なる部分が印象に残る。演出・振付ともに斬新だった。
古典だからこうあらねばならぬ、という既成概念にとらわれず、チャレンジしたいと思う、柔軟な発想と実現させ成功させる強い意志にも感心した。

All Photo by Hidemi Seto


今回の公演に際してのスペシャルトークショーがYouTube光藍社チャンネルで公開されています。



公演レビュー


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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