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レビュー:東京バレエ団「ロミオとジュリエット」秋山瑛&池本祥真ペア

東京バレエ団「ロミオとジュリエット」2022年5月1日(月)東京文化会館

圧倒的だったバレエだからこそのドラマ

 東京バレエ団は、ジョン・ノイマイヤー版に続き、今回はジョン・クランコ版の「ロミオとジュリエット」を3キャスト組んで初演した。

5月1日の公演は、ジュリエットにプリンシパルになったばかりの秋山瑛、ロミオに池本祥真が挑んだ。秋山のジュリエットは小動物のような愛らしさ、そして恋を知り真っ直ぐに突き進む情熱も兼ね備えた若さがまぶしい。一方池本は一途でイノセント、控えめながらもやはり熱情を抑えられない純真さが際立つ。そしてロミオを取り巻くのは生方隆之介のマキューシオ、玉川貴博のベンヴォーリオ、そして鳥海創のティボルトと若手男性ダンサーの充実ぶりを感じさせるフレッシュなキャストで、未熟で青い若者たちを体現していた。特に生方のマキューシオは出色だった。

そんな彼らは疾走感にあふれ、ものすごい勢いで悲しいラストへ向かう。キレの良い、でも丁寧な一つひとつのステップ、剣さばき、感情がすぐに出てしまう素直な表情、など初演ゆえの緊張感からくる集中力のおかげか、すべては役を生きる、物語を紡ぐという目的につながり大変完成度の高い舞台を生み出していた。

 秋山と池本のロミオとジュリエットはあまりにもピュアで胸がきゅんとなる初恋の物語。その世界観をさらに深めてくれたのがベンジャミン・ポープ指揮による東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏だ。ポープの構成力、特にドラマティックな高まりを惜しみなく表現するその演奏は、決してバレエに寄り添うだけでなく音楽もともに物語を作っていることを自己主張しており、とても心地よいものだった。

©Shoko Matsuhashi

そして忘れてならないのはユルゲン・ローゼの手がけた舞台装置と衣裳。舞台の奥まで存分に活用した奥行きと、高さを意識させる回廊(街の橋梁、ジュリエットの部屋のバルコニー、最後には地下霊廟に変化していく)があり、空間の使い方がダイナミック。また衣裳では、細部にまでこだわったキャピュレット家の舞踏会の重厚なドレス、カーニバルの道化師たちのまばゆい色の洪水、シックなブラウン系のロミオとジュリエットの衣裳などヨーロッパ人ならではの色彩感覚にただただ感心。日本にいながらユルゲン・ローゼの舞台がみられる幸せに浸った。

 東京バレエ団はドラマティック・バレエと真摯に取り組み、着実にクオリティが高まっていることが今回の公演から感じられた。ぜひ再演を期待したい。


公演レビュー


エディター・ライター 出版社勤務を経てフリーランスのエディター、ライターとして活動中。 クラシック音楽、バレエ、ダンスを得意ジャンルとする。

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